後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

文字の大きさ
28 / 88

第27話 なぜときめくのか

しおりを挟む
「美華。治療院はどうだ?」
「つつがなく進んでおります。改装を得てより多くの患者を対応出来ていると感じます」
「そうか……それは良かったな……」
(良かったな……って何を言っているんだ俺は)

 美華はそうなんです! 良かったんです! と両手を合わせてにこやかに語る。
 そのにこやかな顔も、浩明にはいつもと違ってまぶしく感じた。

「嬉しそうだな。充実しているような顔つきをしている」
「ふふっ、陛下の仰る通りでございます。今すごく楽しいです!」
「楽しい、だと?」
「はい!」

 子供のように笑う美華が、微笑ましいと感じる浩明。これまで以上に美華への気持ちが変わっていくのを戸惑いと共に感じている。

(こんなに美華は……魅力的というか……好きなのか? なんだこの気持ちは……)
「陛下? いかがなされました?」
「なあ、美華。美華は……その……」
(やめろ! そんな事を美華に聞くな!)

 だが、一度芽を出した興味心を抑えるのは、今の浩明には無理な話だった。

「美華は俺の事をどう思っているのだ?」
「え? ど、どうって……」
(陛下はただ、偉大な皇帝陛下で……治療院で働けるのも、ある意味では陛下のおかげだけど……)

 とりあえず美華は思った事をそのまま浩明に伝えてみた。
 浩明は思ったよりも当たり障りのない無難な回答に胸の中で息を吐いたのと同時に、もっと踏み込んでみたいと更に欲を抱いてしまう。

「その、そのだな……」
「? 陛下?」
「もっと君の考えを聞きたい」
「考え、でございますか」

 美華は患者への応対を進めながら、なんて答えるべきかと考える。
 だが、美華には浩明を愛しているとかそういう類の感情は無い。いくら考えても彼は素晴らしい皇帝陛下であるという事しか浮かんでこなかった。

「先ほど申し上げたのと同じでございます」 
「そうか……」
(これで良い。これ以上は俺が持たんかもしれない)
「すまないな。仕事中に」

 いつもより優しい雰囲気を醸し出している浩明に美華はいえ。と返す。

「なんだか今日の陛下はお優しいですね」
「は?」

 美華から指摘された浩明の顔が茹でダコのように熱く赤くなっていく。
 それは美華には見えないが、女官や妃達からはばっちり見えていた。

「陛下、お顔が赤いですよ?」
「何かございましたか?」

 勿論、浩明はなぜ自分の顔が赤いのか、その理由は知覚できている。しかし女官や美華達には分かっていないようだ。

「陛下、顔が赤いという事は……もしかして熱があるのですか?」
「熱? ……風邪は引いていないぞ、美華」
「風邪でなくとも熱が出る事はあると聞きます。さあ、私が……」
「いや、大丈夫だ。一過性のものだからすぐに引く」

 一過性なら治さなくても放っておいたら大丈夫かなと考えた美華は、恥ずかしさの余り治療院から出ようとする浩明に、気になるなら氷で冷やしたら楽なりますよ~! と声をかけたのだった。

「分かった! ……じゃあな!」
「はい!」
(何なんだ! なぜ心が……こんなにもときめいているのだ!)

 玉座に戻ってからも、脳裏に美華の顔がちらつく度に高揚感と似た感情が湧いてくるので、平常心を保てなくなっている浩明であった。

「陛下、治療院から戻ってきてからずっと顔が赤いですよ?」

 当然の如く顔が赤いのを家臣や宦官からも指摘された浩明は悪いか? と返すのがやっとだ。

「いえ、むしろ楽しい事でもありましたかと」
「楽しい?」
(アイツに会えたのは……楽しかった)
「ああ……そうだ。……今日の夜伽は……皇后を指名する」

 浩明の言葉に宦官らがおおっ! と大歓声を挙げた。

「皇后様でございますね!」
「おお~皇后様!」
「陛下が皇后様と夜を共にするぞ!」
「待て待て! 美華を選んだだけでなぜそこまで盛り上がるのだ!」

 より顔を赤く染める浩明のツッコミに、宦官らはだって皇后様でございますよ!? と揃って声を挙げた。

「皇后様との間にお子が生まれれば、きっと素晴らしいお子に育つに違いありません!」
「あの波動の力も遺伝するかも……!」
「私は世継ぎを産むのは皇后様が良いです!」
(どいつもこいつも……! まあ良い、久しぶりの夜伽だ。緊張するな……)

 浩明が夜伽相手に美華を指名した事は、宦官によりすぐに夕食中の美華の元に伝えられた。
 お祭り騒ぎになる女官達をよそに、美華は特に何も特別な感情を抱いてないようだ。

(夜伽かあ……なんか陛下いきなり優しくなった気がするなぁ)
「皇后様! 食事が終わりましたら湯殿へ身を清めに参りましょう!」 
「わ、わかりました」

 女官からの圧を感じながら、美華は白身魚の揚げ物をパリパリと音を立てながら食べていた。

「皇后様。雪家のご嫡男様より文が届いておりますが、いかがなさいますか?」
「わかりました。湯殿に行く前に音読お願いしてもいいですか?」
「かしこまりました」

 夕食を終えた美華は、福勝から届いた手紙を女官に音読してもらう。
 内容は、福勝の母親の具合が悪く、もうこの先は長くはないという事だった。

(余命幾許もない、か……正直、この力をあの方に使いたくはない……)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~

二位関りをん
キャラ文芸
数多の女達が暮らす暁月国の後宮。その池のほとりにて、美雪は目を覚ました。 彼女は自分に関する記憶の一部を無くしており、彼女を見つけた医師の男・朝日との出会いをきっかけに、陰謀と毒が渦巻く後宮で薬師として働き始める。 毒を使った事件に、たびたび思い起こされていく記憶の断片。 はたして、己は何者なのか――。 これは記憶の断片と毒をめぐる物語。 ※年齢制限は保険です ※数日くらいで完結予定

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

処理中です...