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第29話 噴火
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日没を迎え医師や女官らが治療院の戸を閉めようとしていた中、いきなり即席の担架に乗せられた庶民達が治療院に運び込まれてきた。
「皇后様! お助けください! 彼らが死にそうなんです!」
「治療院をお開けください! 大変なんです!」
運び込まれたのは計4名。若い男性に中年位の夫婦と思わしき男女2人、そして少女という内訳となる。
皆高熱にうなされているのだろうか、担架の上で脂汗をかきながら激しく咳き込みを見せていた。
「皇后様、あれは……流行病の類やもしれませんわ」
「劉貴妃様……流行り病、ですか」
「ええ、見て取れるのは高熱と咳に倦怠感……流行り病によくある症状ですわ。皆様、お気をつけて!」
劉貴妃の判断により、皆口もとに布を巻いてから彼らの分級が始まる。
その頃。浩明は中々訪れない美華に対し、苛立ちと焦りを感じていた。
(何かあったのか……)
浩明の心配をよそに、分級をする医師団の中にに加わる美華。結果、医者達が相手をする事に決まるが美華は自分が治すと張り合いを見せる。
「どのような病かわからない以上、私が適任だと思うのですが」
「皇后様のお気持ちはわかります。しかし、皇后様にご病気を移しては……」
結局美華は医師団からの圧に負けた形で、処置をお願いする事になった。
しかし次は胸を抑えて苦しむ中年くらいの男性が仲間の肩を借りて現れる。治療院を閉める直前に相次いだ患者達に、美華はかかりきりとなっていた。
(……あ、陛下との約束を忘れていた!)
だが、治療院が大変な事になっている今、自分だけが抜け出して陛下に会いに行くなどとは美華からすれば言い出せない状況である。自分の志に反するからだ。
(最後までいた方がいいよね……)
結局、患者が1人残らず退去するまで、美華は治療院に留まり、看病にあたったのであった。
浩明は治療院での出来事を知らないまま、美華を待ち続けている。
(まだ来ないか……まさか、約束をすっぽかしている訳ではあるまいな)
我慢できないので家臣に美華はどうなっているのかを調べるように命じると、体感で数十秒後に美華が女官を引き連れた状態で慌てて浩明の前へとはせ参じる。
「へ、陛下……遅くなって申し訳ありません……!」
「遅い。約束を忘れたのかと思ったわ」
「っ途中までは忘れておりました……大変申し訳ございません」
(……やっぱりこいつは、俺よりも治療院の事が大事なのだな)
席に座れと浩明が促すと、美華は宦官らの助けを借りて椅子に着席する。女官達は一礼してその場から去っていった。
贅を尽くした料理が運び込まれる中、浩明はなぜ遅れたのか? と美華に冷たさを孕んだ声で詰め寄る。
「治療院を閉める前に、急病人が続々と運び込まれてきまして、その対応に当たっておりました……」
「分級はしていたのか?」
「しております」
患者は薬を貰うなり、美華の力により1人残らず治療院から自宅へと戻っている。この事も浩明に美華は包み隠さず申し伝えた。
「なら、君がずっと治療院に留まる理由も無いだろう。途中で抜け出せばよかったものの。医者らに任せておけば良いのだから」
確かに浩明の持論は正論かもしれない。美華は皇后なのでそのような権限もある。だが、美華はこの考えに賛同できないでいた。
「私は……病に倒れている皆さんを見捨てる訳にはいかないのです。たとえ私の力が必要ないとしても」
「なんだと?」
浩明の眉にしわが寄る。そんな彼の表情は美華には見えない。
「確かにあの場に私は必要なかったかもしれないです。でも私は皇后として、治療院を束ねる者としてその場に留まる必要があると考えました」
「……皇后として、か」
(ここで皇后としてだなんて言うとはな……)
「では問おう。君は皇后として俺のそばにいるのと、今の治療院での仕事……どっちが大事なんだろうか)」
美華からすれば突如として繰り出された質問。だが、美華の中で答えはすでに決まったも同然だった。
「後者でございます。分け隔てなく治すというのが私ですから。勿論陛下の事も大事でございますが」
「っ!」
「私はこの治療院での仕事に、自らを賭しています。陛下含めこの世界の民を治すのが大事なのです」
「……っ!」
自分だけでなく全ての人々に彼女の愛が向けられている。そう感じた浩明の腹の底で、言葉には言い表せないどす黒さを纏った溶岩が噴火した。
「……俺の事はっ……どうだっていいのか……!」
「っ! 違います! 陛下の事も……!」
「俺含めて、と言っただろう! 俺だけとは言っていないではないか!」
自分でも驚くくらいに大きな声で美華を傷つける如き言葉を言い放ってしまった浩明は、目をぎゅっとつむって顔をくしゃくしゃにする。そんな顔も美華には見えていない。
「……すまない、もう下がって良い」
浩明は食事に殆ど手をつけないまま、自室へと足早に去っていく。美華は彼の姿が消えていくのを波動で感じ取りながら、椅子にただ座り込むしかできないのであった。
「皇后様! お助けください! 彼らが死にそうなんです!」
「治療院をお開けください! 大変なんです!」
運び込まれたのは計4名。若い男性に中年位の夫婦と思わしき男女2人、そして少女という内訳となる。
皆高熱にうなされているのだろうか、担架の上で脂汗をかきながら激しく咳き込みを見せていた。
「皇后様、あれは……流行病の類やもしれませんわ」
「劉貴妃様……流行り病、ですか」
「ええ、見て取れるのは高熱と咳に倦怠感……流行り病によくある症状ですわ。皆様、お気をつけて!」
劉貴妃の判断により、皆口もとに布を巻いてから彼らの分級が始まる。
その頃。浩明は中々訪れない美華に対し、苛立ちと焦りを感じていた。
(何かあったのか……)
浩明の心配をよそに、分級をする医師団の中にに加わる美華。結果、医者達が相手をする事に決まるが美華は自分が治すと張り合いを見せる。
「どのような病かわからない以上、私が適任だと思うのですが」
「皇后様のお気持ちはわかります。しかし、皇后様にご病気を移しては……」
結局美華は医師団からの圧に負けた形で、処置をお願いする事になった。
しかし次は胸を抑えて苦しむ中年くらいの男性が仲間の肩を借りて現れる。治療院を閉める直前に相次いだ患者達に、美華はかかりきりとなっていた。
(……あ、陛下との約束を忘れていた!)
だが、治療院が大変な事になっている今、自分だけが抜け出して陛下に会いに行くなどとは美華からすれば言い出せない状況である。自分の志に反するからだ。
(最後までいた方がいいよね……)
結局、患者が1人残らず退去するまで、美華は治療院に留まり、看病にあたったのであった。
浩明は治療院での出来事を知らないまま、美華を待ち続けている。
(まだ来ないか……まさか、約束をすっぽかしている訳ではあるまいな)
我慢できないので家臣に美華はどうなっているのかを調べるように命じると、体感で数十秒後に美華が女官を引き連れた状態で慌てて浩明の前へとはせ参じる。
「へ、陛下……遅くなって申し訳ありません……!」
「遅い。約束を忘れたのかと思ったわ」
「っ途中までは忘れておりました……大変申し訳ございません」
(……やっぱりこいつは、俺よりも治療院の事が大事なのだな)
席に座れと浩明が促すと、美華は宦官らの助けを借りて椅子に着席する。女官達は一礼してその場から去っていった。
贅を尽くした料理が運び込まれる中、浩明はなぜ遅れたのか? と美華に冷たさを孕んだ声で詰め寄る。
「治療院を閉める前に、急病人が続々と運び込まれてきまして、その対応に当たっておりました……」
「分級はしていたのか?」
「しております」
患者は薬を貰うなり、美華の力により1人残らず治療院から自宅へと戻っている。この事も浩明に美華は包み隠さず申し伝えた。
「なら、君がずっと治療院に留まる理由も無いだろう。途中で抜け出せばよかったものの。医者らに任せておけば良いのだから」
確かに浩明の持論は正論かもしれない。美華は皇后なのでそのような権限もある。だが、美華はこの考えに賛同できないでいた。
「私は……病に倒れている皆さんを見捨てる訳にはいかないのです。たとえ私の力が必要ないとしても」
「なんだと?」
浩明の眉にしわが寄る。そんな彼の表情は美華には見えない。
「確かにあの場に私は必要なかったかもしれないです。でも私は皇后として、治療院を束ねる者としてその場に留まる必要があると考えました」
「……皇后として、か」
(ここで皇后としてだなんて言うとはな……)
「では問おう。君は皇后として俺のそばにいるのと、今の治療院での仕事……どっちが大事なんだろうか)」
美華からすれば突如として繰り出された質問。だが、美華の中で答えはすでに決まったも同然だった。
「後者でございます。分け隔てなく治すというのが私ですから。勿論陛下の事も大事でございますが」
「っ!」
「私はこの治療院での仕事に、自らを賭しています。陛下含めこの世界の民を治すのが大事なのです」
「……っ!」
自分だけでなく全ての人々に彼女の愛が向けられている。そう感じた浩明の腹の底で、言葉には言い表せないどす黒さを纏った溶岩が噴火した。
「……俺の事はっ……どうだっていいのか……!」
「っ! 違います! 陛下の事も……!」
「俺含めて、と言っただろう! 俺だけとは言っていないではないか!」
自分でも驚くくらいに大きな声で美華を傷つける如き言葉を言い放ってしまった浩明は、目をぎゅっとつむって顔をくしゃくしゃにする。そんな顔も美華には見えていない。
「……すまない、もう下がって良い」
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