後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第44話 出来る事

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「よし、早速私の出番でございますね」

 夢の中での出来事をしっかり覚えている美華は、目が見えないにもかかわらず閨から飛び出すと、両手を前へと掲げてすごい速度で走っていく。それを浩明は目を丸くさせながら追いかけた。

「おい美華! どこへ向かうのだ!」
「後宮でございます! この力を遺憾なく発揮するのです! 御仏様のお言葉に従って!」
「……もしかして、夢でも見ていたのか?」
「はい!」

 いきいきとした彼女の表情と言葉に、浩明はふっと笑った。

「わかった。思いっきり力を発揮すると良い」

 ふふっと笑顔を持って返した美華は、後宮の入り口に到着するとそこで足を止める。

(……なんだか、波動の力が増したように感じる。これも御仏様のお力かな?)

 みなぎってくる波動の力を感じ取っていた美華は、誰に言われるまでもなく無意識に両手を石畳の地面へとかざした。

「……皆、治りますように!」

 そして一気に両手から波動の力を放出させる。空気の渦が美華の両手を中心に広がっていき、馬が駆けるよりも早く後宮の中から外まで広がっていった。

「なんだ、この力は……!」

 後ろで美華が波動の力を放出するのを見ていた浩明は、これまでにないくらいの驚きを見せる。

(まるで、御仏が乗り移ったかのような……)
「はあっ……はあっ」

 一気に波動の力を放出したせいか、美華の息は切れた。慌てて浩明が駆け寄り彼女の背中に手を置く。

「ありがとうございます……ちょっと時間が経てば落ち着きますから」
「しかしさっきの力はなんだ? すごい空気の渦が見えたぞ」
「波動の力が増したように思います。これも御仏様のおかげでございますね」

 手ごたえを感じるかのような美華の口元を見た浩明は、いつもの美華が帰って来たな。と感じたのだった。

◇ ◇ ◇

 美華の放った波動の力により、宮廷内での感染者は皆回復する事が出来た。死者も出ず感染拡大はこれでようやく停止したのである。
 だが、街はまだ感染が広まっている為、感染が落ち着くまでの間治療院は閉鎖が決まった。だがいつ感染が落ち着くのかは誰にも予測できない。

「……いっそ、こないだのように力を放出してみましょうか」
「いいのか? また君が倒れるような事があったら俺は耐えられん」
「陛下……」

 床に視線を落としながらも語る浩明に、美華は大丈夫です! といつものようなあっけらかんとした口調で答えた。

「そう言われたら、なんだか大丈夫そうな気がしてきたな」
「もし、私が死んだら葬式は簡素なもので大丈夫ですから」
「やめろ、そんな事を言うんじゃない」
「すみません、冗談です」

 冗談を言えるくらいには回復したんだな、いや進化していないか……? と浩明は美華のちょっとした進化ぶりに気が付いていた。が、美華にはそのような意識はそんなに無いようである。

「ここまで、ですね」

 浩明がいた大広間から歩いて移動し、宮廷と街の大通りをつなぐ門の前に立った美華はすうっと大きく息を吸い込む。

「よし、コツは掴んだからあんな感じで……」

 両掌を一気に地面へとかざし、力を放出するとこの間のような空気の渦が瞬く間に発生し、宮廷近くの街はては龍の国全土まで広がっていく。

「……これで、何とかなったでしょう……」

 力を放出した事による疲労感と満足感に覆われながら、後ろ向きに倒れていく美華をそばにいた宦官らが受け止めた。

「皇后様、無茶をなさっては……」
「陛下が心配なされますよ」
(もっと、体力を増やさないといけないかしら)

 だが、見えない空を見上げる美華の表情はすっきりとしていた。街では流行病に倒れていた者達が続々と起き上がったり行動を開始したりして、病がすっかり無くなった事を実感する。

「おおっ、だいぶ楽になったな」
「さっきまで動けなかったのに、今はこんなに動けるぞ……?」

 また、運よく感染していなかった者達は、あの空気の渦について語り合う。

「あれ、何だったんだろうな」
「そうだな、ぶわんっ! って音がしてたよな」
「まるで空気の刃みたいだったが……痛くはなかった」
「私もよ、全然痛くなかったし、幻かと思ったわ」


 美華の能力のおかげである事は庶民は知らないまま、回復を喜び合ったり流行病収束を祝うお祭り騒ぎが連日続いたのだった。
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