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第43話 浩明の祈り、御仏の言葉
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「美華?」
浩明が声をかけても、美華は反応しない。そればかりか息はどんどん荒くなる。
「美華! 美華! しっかりしろ……!」
浩明は美華の身体を懸命に揺さぶるが、美華の意識ははっきりしない。
「皇后様!」
「皇后様、しっかり!」
「美華! しっかりしてくれ、君がいないと俺達はどうなるんだ……!」
「う……」
うめき声こそ出るが、それでもはっきりしない意識が続く。
(頼む! 死なないでくれ! 美華が死ぬなど、俺には耐えられない……!)
「頼む美華! 俺だ、浩明だ! 気づいてくれ……!」
「へ、へい、か……」
「! その調子だ、美華……!」
ここで、医者が気つけ薬を持って現れた。症状の緩和には繋がらないが、気はしっかりするだろうという判断で持ってきたらしい。
「この気つけ薬を飲めば、意識はしっかりするはずでございます」
「わかった、すぐに飲ませよう!」
浩明と医者は粉薬を美華に慎重に飲ませる。
「あ……陛下……」
「美華、意識がしっかりしてきたか?」
「さっきよりかは……」
「良かった、が……症状が……」
改めて美華は医者の診察により感染者である事が確認される。
これにより浩明も美華もどちらも感染者である事も判明した。
「……力は使わない方がいい気が、しますね……」
(いつもと違って、すぐに体力を持っていかれる……)
「そうだな、今は君の命が重要だ。君の考えもわかるがどうか、ギリギリまで粘ってほしい」
「……わかりました……」
美華は鶴龍殿に戻ろうとするも、倦怠感のせいで歩けない。感染をこれ以上ばら撒くわけにもいかないので回復するまでは浩明の閨に留まる事になった。
「夜伽でないのに……陛下と閨を共にするのは……」
「歩けないならここに留まると良い。遠慮はするな」
「すみません。ありがとうございます……」
閨は皇帝と妃の2人が寝るのを前提としている為に皇后らの架子床よりもさらに広々としている。
(陛下と一緒だからか、落ち着ける)
気がつけば美華はすうすうと寝息を立てながら寝入ってしまった。
「美華……寝てしまったな」
「そうでございますね」
「起こしはしないが、代わりに注意深く見ていてくれ」
「仰せのままに」
気持ちよさそうに眠る美華を眺めながら、浩明は祈る。どうか感染が一気に終息し、美華が回復出来ますように。
(美華……頼む。回復してくれ……代わりに俺が死んでも構わない)
浩明が祈る中、美華は夢の世界に落ちていった。
◇ ◇ ◇
「あれ? ここは……」
美華の視界に拡がるのは、かつて自身達が修復した周山の祠だ。
「私、目が見えている?」
はっきりと視界が開けている事から、ああ、これは夢の世界だと即座に見破った美華に、誰かが声をかけてきた。
(……聞いた事がある声だ)
「思い出したようですね。それにしてもあなたから頂いた目はよく見える」
祠が温かな黄金の光に包まれ、中から御仏の声が鳴り響いていた。
「御仏様……お久しぶりでございます」
「どうやら、今のあなたは病に蝕まれているようですね」
「さすがは御仏様。よくお見通しで」
ふふ……という御仏の笑みは、どこか両家の貴婦人のような品格に溢れている。
それでいて、気さくな話しかけやすい雰囲気も孕んでいた。
「困りましたね。こんなに流行病が広まるとは思いもしませんでした」
「美華にとっては、初めての体験ですね」
「早く治さないと陛下が心配しています。ですが治るのかどうか……」
すると、御仏は心配する必要はありません。と優しく語る。
「あなたの目を頂いた縁もありますし、あなたの病を治しましょう」
予期せぬ御仏からの提案に、美華はえっ。ときょとんとした顔つきを見せる。
「よろしいのですか?」
「ええ、今こそあなたの力を存分に使う時でしょうから。あと流行病の抗体も付与しますね。あとそれからあなたの力も……」
御仏は小さい声で勿論あの方にも。と話すが美華には聞こえなかったようだ。
「確かに言われてみればそうでございますね、波動の力が必要な時です」
「そうでしょう。それに、あなたの回復を祈る声もたくさん届いておりますから」
美華の身体がぽかぽかと橙色の光を放ち始めた。美華は驚きながらも御仏へ感謝を表す。
「そろそろお別れの時間のようです」
「えっ、もっと御仏様と話したかったです……」
「まあまあ、またいつか会えますからその時に」
美華の目に映る視界が黒く彩度を落としていく。最後美華は頑張ります! と力を込めて言い放つと、御仏は見ていますよ。と答えた所で視界は真っ暗になった。
「……?」
視界はいつものように真っ暗だが、閨の感触から美華は夢の世界から戻ってきた事を理解する。
「……全然身体が怠くない」
倦怠感も関節痛もその他諸々の症状も、綺麗に無くなっていた。
「御仏様が……治してくれた」
「ん、美華? 起きたのか?」
「陛下……おはようございます?」
「合っている。……身体が軽いな」
どうやら御仏は、浩明も治してくれたようだ。
「美華、……元気がありそうに見えるがもしかして治ったのか?」
「はい。そうみたいです。陛下もですか?」
「……そうみたいだな。症状が無くなっている気がする」
互いに回復したのを確かめ合うようにして抱きしめる。美華は御仏へ心の中でありがとうございます。と唱えたのだった。
浩明が声をかけても、美華は反応しない。そればかりか息はどんどん荒くなる。
「美華! 美華! しっかりしろ……!」
浩明は美華の身体を懸命に揺さぶるが、美華の意識ははっきりしない。
「皇后様!」
「皇后様、しっかり!」
「美華! しっかりしてくれ、君がいないと俺達はどうなるんだ……!」
「う……」
うめき声こそ出るが、それでもはっきりしない意識が続く。
(頼む! 死なないでくれ! 美華が死ぬなど、俺には耐えられない……!)
「頼む美華! 俺だ、浩明だ! 気づいてくれ……!」
「へ、へい、か……」
「! その調子だ、美華……!」
ここで、医者が気つけ薬を持って現れた。症状の緩和には繋がらないが、気はしっかりするだろうという判断で持ってきたらしい。
「この気つけ薬を飲めば、意識はしっかりするはずでございます」
「わかった、すぐに飲ませよう!」
浩明と医者は粉薬を美華に慎重に飲ませる。
「あ……陛下……」
「美華、意識がしっかりしてきたか?」
「さっきよりかは……」
「良かった、が……症状が……」
改めて美華は医者の診察により感染者である事が確認される。
これにより浩明も美華もどちらも感染者である事も判明した。
「……力は使わない方がいい気が、しますね……」
(いつもと違って、すぐに体力を持っていかれる……)
「そうだな、今は君の命が重要だ。君の考えもわかるがどうか、ギリギリまで粘ってほしい」
「……わかりました……」
美華は鶴龍殿に戻ろうとするも、倦怠感のせいで歩けない。感染をこれ以上ばら撒くわけにもいかないので回復するまでは浩明の閨に留まる事になった。
「夜伽でないのに……陛下と閨を共にするのは……」
「歩けないならここに留まると良い。遠慮はするな」
「すみません。ありがとうございます……」
閨は皇帝と妃の2人が寝るのを前提としている為に皇后らの架子床よりもさらに広々としている。
(陛下と一緒だからか、落ち着ける)
気がつけば美華はすうすうと寝息を立てながら寝入ってしまった。
「美華……寝てしまったな」
「そうでございますね」
「起こしはしないが、代わりに注意深く見ていてくれ」
「仰せのままに」
気持ちよさそうに眠る美華を眺めながら、浩明は祈る。どうか感染が一気に終息し、美華が回復出来ますように。
(美華……頼む。回復してくれ……代わりに俺が死んでも構わない)
浩明が祈る中、美華は夢の世界に落ちていった。
◇ ◇ ◇
「あれ? ここは……」
美華の視界に拡がるのは、かつて自身達が修復した周山の祠だ。
「私、目が見えている?」
はっきりと視界が開けている事から、ああ、これは夢の世界だと即座に見破った美華に、誰かが声をかけてきた。
(……聞いた事がある声だ)
「思い出したようですね。それにしてもあなたから頂いた目はよく見える」
祠が温かな黄金の光に包まれ、中から御仏の声が鳴り響いていた。
「御仏様……お久しぶりでございます」
「どうやら、今のあなたは病に蝕まれているようですね」
「さすがは御仏様。よくお見通しで」
ふふ……という御仏の笑みは、どこか両家の貴婦人のような品格に溢れている。
それでいて、気さくな話しかけやすい雰囲気も孕んでいた。
「困りましたね。こんなに流行病が広まるとは思いもしませんでした」
「美華にとっては、初めての体験ですね」
「早く治さないと陛下が心配しています。ですが治るのかどうか……」
すると、御仏は心配する必要はありません。と優しく語る。
「あなたの目を頂いた縁もありますし、あなたの病を治しましょう」
予期せぬ御仏からの提案に、美華はえっ。ときょとんとした顔つきを見せる。
「よろしいのですか?」
「ええ、今こそあなたの力を存分に使う時でしょうから。あと流行病の抗体も付与しますね。あとそれからあなたの力も……」
御仏は小さい声で勿論あの方にも。と話すが美華には聞こえなかったようだ。
「確かに言われてみればそうでございますね、波動の力が必要な時です」
「そうでしょう。それに、あなたの回復を祈る声もたくさん届いておりますから」
美華の身体がぽかぽかと橙色の光を放ち始めた。美華は驚きながらも御仏へ感謝を表す。
「そろそろお別れの時間のようです」
「えっ、もっと御仏様と話したかったです……」
「まあまあ、またいつか会えますからその時に」
美華の目に映る視界が黒く彩度を落としていく。最後美華は頑張ります! と力を込めて言い放つと、御仏は見ていますよ。と答えた所で視界は真っ暗になった。
「……?」
視界はいつものように真っ暗だが、閨の感触から美華は夢の世界から戻ってきた事を理解する。
「……全然身体が怠くない」
倦怠感も関節痛もその他諸々の症状も、綺麗に無くなっていた。
「御仏様が……治してくれた」
「ん、美華? 起きたのか?」
「陛下……おはようございます?」
「合っている。……身体が軽いな」
どうやら御仏は、浩明も治してくれたようだ。
「美華、……元気がありそうに見えるがもしかして治ったのか?」
「はい。そうみたいです。陛下もですか?」
「……そうみたいだな。症状が無くなっている気がする」
互いに回復したのを確かめ合うようにして抱きしめる。美華は御仏へ心の中でありがとうございます。と唱えたのだった。
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