Marry Me?

美凪ましろ

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Vol.5.恋の自覚

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「……どうしよう……」

 ひとり、ベッドのうえで、枕を胸に抱き、ごろごろしながら考える。考えようとする。

『きみとは休みの日が会わないし、なかなか会えないかもしれない。……それでも。おれは。

 きみと、……付き合いたい。

 駄目かな……美紗』

 きゃーっ、って枕に顔をうずめてばたばたしてしまう。活きのいい魚か。……どうしよう。

 わっかんない。

 男性経験はあるし、これでも接客を頑張っているほうだから、ひとを見る目には多少は自信がある。……変な人じゃない。おかしなひとじゃない、って、分かっている。帰りだって、途中まで送ってくれて、アパートまで突き止めよう、ってしなかったし。ジェントルマン。

 いままでに見たことのないくらいの、ジェントルマン。

「……なだけに。悩むんだよなあ……」

 過去の恋を思い返してみる。SE、っていうか、PG(プログラマー)レベルだった頃。彼の言うところの、大工さんだった頃。忙しくて、周りには快活な男たちばっかで。飲み会好きな、ちょっと体育会系の会社で……毎日飲みまくって、楽しかったな。

 別のプロジェクトに移り、残業半端なくなった頃に病んだんだけど。それまでは、むしろ、忙しさを楽しんでいた。

 やけになっていたわけではないが、モテたし、男に誘われればほいほい飲みに行った。……無事でよかったなあたし。

 でも。生活がある以上、同じ勤務先の子に、なにかひどいことしたら、仕事を失うことになるわけで。会社関係のひとと飲む限りにおいては、完全に、セーフだった。

 だからまぁ。会社外で、変な男に、引っ掛かったことはあったけれど……。

 うーん。

 正直、いまの環境には満足している。労働環境もいいし、人間関係も良好。美男美女に囲まれて、お客様に恵まれて幸せに暮らしている。アラサー29歳、という年齢は引っ掛かるが、今日日独身で人生を終える女性だって珍しくはないんだし。結婚出産だけが女の幸せではない。

 勿論。

 結婚式に出席したりすると、寂しくなるんだけどね……。いいなあ。あたしもウェディングドレス着たい、ちやほやされたいなぁ、って。――突然。

 彼の、笑顔が思い出された。……あたしの前で、躊躇なく、膝をつき、あたしの足にパンプスを履かせた王子様。彼のおかげで無事、本社の会議には間に合ったが、彼がいなかったらどうなっていただろう。半べそで。

「うぅーん。やっぱり。好き。……好き?」

 がばっ、と身を起こした。――ひょっとしてあたし。

「篠田さんのこと、……本気で好きになっちゃってる?」

 うわーっ、と頭を抱える。恥ずかしい。恥ずかしいよーぉ!! この年になって一目惚れとか! いやいや篠田さんだって一目惚れって……他の女の子にはこんなことしないって……言っていたもん。

 モテるだろうなぁ。あのビジュアル……あの紳士的な態度。咄嗟にあんな行動取れるってどんな女衒よ。罪だわ罪。あたしはまっとうな、ひとりの人間として、彼をパトロールする必要があ……

「……る」

 ぴろりん♪ と携帯が鳴った。メッセージを確認する。

『いま、着いた』
『悩ませちまってごめんな』
『でもおれ、美紗のこと、本気だから』
『本気で好きだから』

 ぽいっと携帯をベッドに置き、くぅーッと枕に顔をうずめてもだもだ。……重い。エモいのかよ。エモいんだよ。ポエマーか。三段活用☆彡

 ……なんか、もんのすごく思い込みの激しいひとで、変態、って可能性も捨てきれないんだけど。

 や、男のワイシャツ脇の下やトランクスくんくんするのが好きな時点であたしのほうが変態だわ。普通、引くよね? ……引かないのか……。

「ふう」

 ……彼、笑ってたな。あたしと一緒にいるとなんか、彼、笑ってばかりいて。顔が整っているのに、笑った顔が、くしゃっとなるのなんか、可愛いわんこみたいで……一見すると端正な美青年! って感じなのに、隙のある感じが素敵で……ああ。

 熱くなったほっぺをベッドに預け、ひとり、ぼやく。「……もしかしてあたし。ちゃんと……」

 ――篠田さんのこと、好きなのかもしれないな。

 しかしながら、この恋が進展するには、まだ少しの時間を要す。薄紅の桜が散り始め、世の儚さを思わせる春の終わり頃の、出来事だった。

 *
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