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Vol.4.高まる想い
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「おれはきみが大好きで。きみは、おれが、大好き。美紗。……おれたち、付き合おう」
大樹の台詞は、確かに魅力的ではあった。でも。
「いやいやいや!!」咄嗟にあたしは手を振った。「いやいや! まだまだ、お互いのことを知らないのに付き合おうとか時期尚早じゃ、……ないですか!?」
「じゃあ、どんくらいお互いのことを知ったら、おれたち、お付き合い出来るの?」
「……え」考えてもなかった。「いや……知らない同士だし。あたしがあなたのワイシャツの脇の匂いを嗅ぎまくる変態で。パンツの匂いくんくんしてほへぇーってなる、犬みたいなド変態って可能性もありますよ?」
「……犬。いいねえ……」くしゃっと彼は笑う。「調教しがいがありそうで楽しみだ。うんうん」
あたしは膝を守ってみた。「えーっと。篠田さん、ジェントルマンに見せかけて、どSの貴公子だったりします?」
すると彼は、人差し指を一本立てて、ノンノン、と首を振り、「そーゆーのは、付き合う前から言っちゃ駄目。知らないほうが、盛り上がるでしょう。――まあ。美紗が。
M寄りだってのは、おれの目には丸わかりなんだけどね」
誰ですか。黒執事を呼んだのは。
「は。話を戻すと……とにかく。ある程度、お互いのことを知って、ある程度、信頼できる人だな、って安心感を得てから、それから、お付き合いをすれば、いいんじゃないかなと」
すると彼は背筋を正して座り直し、「うん。じゃあ、おれについて、訊きたいこと、言ってみて? なんでも答えるよ」
にっこりと笑う彼は明らかに善人……なのだが。
「お。……お仕事は、なにをされて……」
「あー名刺だけじゃ分かんなかったか」舌を出す彼。歯ブラシでおえっとなっても舌磨きを続ける持田香織を敬服してか。綺麗なピンク色をしている。「簡単に言うと。システムを作る仕事。ぼくは、マネージャーだから。システム頑張って作るひとたちを、見守ったり、評価したり、時にはプレイングマネージャーもやったりするよ。プログラムや設計書を書くんだ。建築で言う建築家や大工さんみたいなもん」
……へえ。「すごいですね。あたし、実は、新卒でIT系入ったんですが。過労で辞めちゃいました」
「へえそうなんだ。大変だったね。うちの業界、鬱とか多いもんね。離職率も高いし」
「し、……篠田さんは。どうして、IT系で働こうと思ったんですか。あんな過酷な仕事を続けられる理由は……」
「なんだろ」考えるときの癖か。細い顎をつまむ彼。「気が付いたら……って感じだったかな。ぼく、留学してるし。早く就職したくて。就活しているうちに自然とそうなったんだよなぁ。みんなで和気あいあいと、ひとつのものを作るのってやっぱ楽しいし……」
「あ。それです」
「なにが?」質問するときも彼の声音は穏やかだ。正直、彼の話術にすっかり乗せられている自分がいる。
「あたしも、……学生時代、吹奏楽やってたんで。それで……就活しているうちに、自分は、みんなで、ひとつの物事を作るのが好きなんだ、って実感して……それで」
「んで。アパレルに転職したのは何故?」
「好き、だから……」あたしは素直に答えた。「退職して。休養して。ゆっくり、考えたんです。自分になにが、出来るのか。なにが……したいのか。
残業代がっぽがっぽ出ても、遣う時間なかったんで、毎日ショッピング行ったりして。……友達はみんな仕事や家庭があるから、会えないし……で。
孤独を、ファッションが、癒してくれたんです。
可愛い服見つけて、試着室入って、テンションあがって、やさしい店員さんに声かけられて。お似合いですね、って言われて、こっちから、わたし寒色系多いんですけど。って言うと向こうはこの色が合いますよこう着こなせますよとかアドバイス貰えて。
落ち込んでいたわたしを、救ってくれたんです……服が。
そっからわたしは。自分が、幸せを与えられるだけではない。提供する側の人間になりたい、って……強く思ったんです」
「うんうん」と彼は微笑みながら頷く。「きみといると、なんだろう……こころが、洗われる気がするなあ」
「い、いや別にそんな……た、大したことは……」
「正直に言うとね」と、頬杖を外しまた彼は座り直す。「おれねぇ。いますっごい忙しい。近いうちにまた新規案件のPMやんなきゃだし、面接がっつりやってる最中なんだ。
きみとは休みの日が会わないし、なかなか会えないかもしれない。……それでも。おれは。
きみと、……付き合いたい。
駄目かな……美紗」
その眼差し、反則。考えさせてください、と伝えて、その日はお開きになった。
*
大樹の台詞は、確かに魅力的ではあった。でも。
「いやいやいや!!」咄嗟にあたしは手を振った。「いやいや! まだまだ、お互いのことを知らないのに付き合おうとか時期尚早じゃ、……ないですか!?」
「じゃあ、どんくらいお互いのことを知ったら、おれたち、お付き合い出来るの?」
「……え」考えてもなかった。「いや……知らない同士だし。あたしがあなたのワイシャツの脇の匂いを嗅ぎまくる変態で。パンツの匂いくんくんしてほへぇーってなる、犬みたいなド変態って可能性もありますよ?」
「……犬。いいねえ……」くしゃっと彼は笑う。「調教しがいがありそうで楽しみだ。うんうん」
あたしは膝を守ってみた。「えーっと。篠田さん、ジェントルマンに見せかけて、どSの貴公子だったりします?」
すると彼は、人差し指を一本立てて、ノンノン、と首を振り、「そーゆーのは、付き合う前から言っちゃ駄目。知らないほうが、盛り上がるでしょう。――まあ。美紗が。
M寄りだってのは、おれの目には丸わかりなんだけどね」
誰ですか。黒執事を呼んだのは。
「は。話を戻すと……とにかく。ある程度、お互いのことを知って、ある程度、信頼できる人だな、って安心感を得てから、それから、お付き合いをすれば、いいんじゃないかなと」
すると彼は背筋を正して座り直し、「うん。じゃあ、おれについて、訊きたいこと、言ってみて? なんでも答えるよ」
にっこりと笑う彼は明らかに善人……なのだが。
「お。……お仕事は、なにをされて……」
「あー名刺だけじゃ分かんなかったか」舌を出す彼。歯ブラシでおえっとなっても舌磨きを続ける持田香織を敬服してか。綺麗なピンク色をしている。「簡単に言うと。システムを作る仕事。ぼくは、マネージャーだから。システム頑張って作るひとたちを、見守ったり、評価したり、時にはプレイングマネージャーもやったりするよ。プログラムや設計書を書くんだ。建築で言う建築家や大工さんみたいなもん」
……へえ。「すごいですね。あたし、実は、新卒でIT系入ったんですが。過労で辞めちゃいました」
「へえそうなんだ。大変だったね。うちの業界、鬱とか多いもんね。離職率も高いし」
「し、……篠田さんは。どうして、IT系で働こうと思ったんですか。あんな過酷な仕事を続けられる理由は……」
「なんだろ」考えるときの癖か。細い顎をつまむ彼。「気が付いたら……って感じだったかな。ぼく、留学してるし。早く就職したくて。就活しているうちに自然とそうなったんだよなぁ。みんなで和気あいあいと、ひとつのものを作るのってやっぱ楽しいし……」
「あ。それです」
「なにが?」質問するときも彼の声音は穏やかだ。正直、彼の話術にすっかり乗せられている自分がいる。
「あたしも、……学生時代、吹奏楽やってたんで。それで……就活しているうちに、自分は、みんなで、ひとつの物事を作るのが好きなんだ、って実感して……それで」
「んで。アパレルに転職したのは何故?」
「好き、だから……」あたしは素直に答えた。「退職して。休養して。ゆっくり、考えたんです。自分になにが、出来るのか。なにが……したいのか。
残業代がっぽがっぽ出ても、遣う時間なかったんで、毎日ショッピング行ったりして。……友達はみんな仕事や家庭があるから、会えないし……で。
孤独を、ファッションが、癒してくれたんです。
可愛い服見つけて、試着室入って、テンションあがって、やさしい店員さんに声かけられて。お似合いですね、って言われて、こっちから、わたし寒色系多いんですけど。って言うと向こうはこの色が合いますよこう着こなせますよとかアドバイス貰えて。
落ち込んでいたわたしを、救ってくれたんです……服が。
そっからわたしは。自分が、幸せを与えられるだけではない。提供する側の人間になりたい、って……強く思ったんです」
「うんうん」と彼は微笑みながら頷く。「きみといると、なんだろう……こころが、洗われる気がするなあ」
「い、いや別にそんな……た、大したことは……」
「正直に言うとね」と、頬杖を外しまた彼は座り直す。「おれねぇ。いますっごい忙しい。近いうちにまた新規案件のPMやんなきゃだし、面接がっつりやってる最中なんだ。
きみとは休みの日が会わないし、なかなか会えないかもしれない。……それでも。おれは。
きみと、……付き合いたい。
駄目かな……美紗」
その眼差し、反則。考えさせてください、と伝えて、その日はお開きになった。
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