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Vol.33.いちゃいちゃシンドローム
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……こんなに一緒にいて。いちゃいちゃして。大樹的には不安じゃないんだろうか。
すこし、不安になることがある。……大樹。仕事が忙しいのに、毎日自炊とか、頑張ってくれてるし……帰宅はあたしのほうが遅い場合が多いので。
あたしが休日の日も、自宅勤務で、電話会議が多い旨を彼は不安視していたが、モウマンタイ。買い出しで出かけることも多いし、どうしても気になる、って場合は、カフェに入ってマッタリしたり。やはり、仕事柄他店のファッションが気になるので、他店舗や他ブランドもチェックしている。あとは美容室に行ったりもするし。
なんとなく一日部屋でまったりする日もたまにはある。音を立てないようにし、こちらに背を向けて職務を遂行する大樹に見入る。……男の働く後ろ姿ってなんか素敵だよね。インカムつけて、にこやかに談笑しているさまは、もう、芸能人の風格すら漂う。「QA票投げて頂いたの、田中さんでカバーしきれない部分があったら、それはぼくのほうに回してください」「資格も大事ですけども、資格があるからってそのプロジェクトでの業務に耐えうるスキルがあるとは限らないじゃないですか。資格だけではなくもっとこう……人間性、協調性とか重視しないと、同じ間違いが繰り返されてしまいますよね。BPさんだと、金額が高ければいい、ってものではありませんし」――結構きつめの発言をするときも、基本、大樹は、穏やかだ。
大樹は、自宅勤務のときは、昼ごはんも自分で用意するとは言っており。ご飯を冷凍しておいて、お茶漬けや、+インスタントのお味噌汁&お漬物を食べることが多いそうだ。出勤する場合は、客先常駐の彼は、セキュリティの関係上自席で食べることが許可されていないので、外に食べに行くそうな。なるだけワンコインで済む食堂に。……彼が自宅勤務であたしがランチタイムに家にいるのはごめんなさい、前述の事情からレアケースなんだけど。それに、あたしは、宅にいるときの昼ご飯はパスタやうどんなどの麺類が多いし。普段あまり食べないからお昼に食べたくなるのだ。……となると、作り置きが出来ない。諸々承知して、大樹は、「美紗のしたいようにしていいよ」と肯定してくれる。……ありがたい話だ。
流行色は基本濃いものから流行りはじめ、薄い色に落ち着くのが、ファッション業界の定番ではあるが。今期目立つのはグリーンやオレンジの存在だ。当然ヘアメイクやメイクアップのトレンドも押さえる必要があり、その手の店もチェックをする。グリーンについては、以前に流行った濃いグリーンも引き続き。だが、ライムグリーンとか、ライトで鮮やかなグリーンも目立つ。オレンジも然りで、オレンジに関してはすっかり定番化した様相だ。ボトムスでもトップスでも見かける。
……という情報を、色々と店を回りながら脳内に叩き込む。アイパレットは、台湾製や中国製の美麗なパッケージのを取り扱う専門店があるので、そちらもチェック。特に、アイメイクのトレンドを押さえておかないといけない。お客様が気に入った商品を見つけた場合に、色をどれにしようか迷われるのは、よくあることだ。……そういったとき、お客様のメイク、髪型や髪色、バッグ、アクセサリー、ファッションや全体的な雰囲気、……あとは、お客様がどういった系統の色合いや雰囲気の服を主にお持ちなのか。そういった諸々の情報から判断した上で、必要に応じてアドバイスしている。
マスクをし始めたあたりからアイメイクが明らかに変わったので。瞼キワに濃い茶色を仕込むブラウンメイクは廃れ、締め色を入れず、下瞼目尻側三分の一に、カラーを仕込むメイクが隆盛だ。この、ドラスティックなアイメイクの変化を取り入れているのかも、判断する重要な指針となる。勿論、販売するこちらが、置いてきぼりのアイメイクをしていてはお話にならないので、アイメイクの情報アップデートは、趣味でもあるが、責務でもある。
なお、当方のパーソナルカラーはブルベ夏だが。ただし、こだわりにとらわれないようにしている。トップスを試着してみると、真っ白なホワイトよりも、案外マスタードイエローが似合うことなんかもあるあるだし。試着室や出たところにて、店員さんの許可を得たうえで写真を撮らせて頂き、それから判断する。……もう、慣れているので、写真なしでも、マスクを外して、試着したトップスの顔映りがどうなのか。マスクをつけても綺麗に映るのか。写真なしでも判断出来るようになってきた。
一連の店舗巡礼を終えただけでもう、あっという間に夕方近くで。週に1~2回の休日など、瞬く間に過ぎていく。大樹とお昼は一緒にいられないぶん、夜はちゃんと作ろうと思っている。作り置きがうまく出来ないのが悩みだが。こちら花見町は、利便性が高いので、自転車移動が多く、二駅先程度であれば自転車。新宿まで行くなら電車、……だが、このご時世、都心まで行くのは憚られる。でなければ、新宿もよく行っていた。とにかく店舗やビルが圧倒的に多いし、ルミネエストなんて回るだけで半日以上はかかる。流行の最先端なだけあって、街ゆくひとを見ているだけでも勉強になる。……落ち着いたら新宿散策も是非、堪能したいところではあるが。
花見町のカフェも大好きなのだが、……テイクアウトをして、公園か。自宅で飲むことがほとんどだ。毎回ちゃんとこぼれないようにセットしてくれる店員さんには感謝をしている。せっかくなのでと。重たいスーパーの食材入りエコバッグを持ち歩きながら、カフェにて大樹の好きなコーヒーを買い、帰宅した。
「ただいまー」と必ず挨拶をする。と、「おかえりー」とすぐ反応が来るのがいじらしい。独り暮らしでは味わえない、特権だ。あたしだけの優先権。
大樹がいなかったとしたら、大樹の『おかえりー』を録音して、毎晩聞き倒したいくらいには、大樹が、好き。その自覚はある。
振り返って微笑む大樹は、マスクを着用している。ぼちぼちクーラーを入れ始めたが、このアパートはとにかく蒸す。……引っ越しも、考えたほうがいいなあと、思い始めている。いくらクーラーをかけても、そもそものこのアパートの作りがね。とにかく暑いので。風呂上がりとかもう大変だし。……大樹の体調面が心配だ。手洗いうがいをぱぱっと済ませ、
「コーヒー置いておくね。お疲れ様」
「うん。サンキュ」
前を向いて仕事に戻る彼の邪魔をしないよう、キッチンに戻ると食材を取り出し、調理に取り掛かる。ぐびぐびコーヒーを飲みつつ(こちらはコールドブリューにした)、あっついけど、敢えてのチャーハンに挑戦。結構簡単なレシピで、たくわんとウインナーを炒め、溶き卵と白ご飯と、醤油ごま油少量ずつを入れれば完成。その前にパパッと野菜スープを作っておく。お腹にやさしいものが、作りたかった。
調理が終わると19時くらいにはなっているので。そろそろ大樹が仕事が終わる頃だ。普段はもっと仕事終わりは遅いらしいが、自宅勤務なので、彼は、朝六時台には仕事を始めている。子育てを頑張るママさんだと、五時台六時台勤務開始が珍しくないんだとか。七時台はお子さんの朝食準備とかでばたばたするらしいし。……ということを把握している大樹は、流石だな、なんて思う。
手を洗い、テーブルに並ぶ料理を見た大樹は、おー、なんかうまそー、と、心底嬉しそうな顔をする。……それが実は嬉しい。
「チャーハンセットだなー。うわー。中華料理屋みてえー」
「大げさな」とまんざらでもない気分であたしは笑って座った。お皿にもこだわって、ちゃんと、中華料理っぽいのにしたんだから。チャーハンの盛り付けはお玉に入れて逆さにして円形。そこから覗くお皿の、チャイナっぽい絵柄がかわいらしい。小人が鍋を振っているものもあるな。「ただし、スープは洋風にございますが。……召し上がれっ」
大樹はあたしと目を合わせて微笑むと、同時に、「いただきまーす」
……つい、大樹の、もりもり食べる姿に、見惚れてしまう。
なまじっか、ついさっきまで、彼が仕事をしていたパソコンが彼の後方に見えるだけに、……コントラストがそそるというか。仕事中の大樹。こうしてチャーハンを掻きこむ大樹。むしゃぶりつきたいくらいに、可愛い……。むかーし動画で見たけど、男の人が黙々と一心不乱に、お茶漬けを掻きこむCMがあったらしく。なるほど確かに妙にそそられるものがあった。
ただ、まあ、大樹は……仕事は出来るのに、プライベートだと案外抜けてるところがあって。くすりとあたしは笑った。
「……ついてるよ。こっち。大樹の右側」
「えーこっち? どこ? ……美紗。取ってよ」
「んもう。仕方がないなあ……」腰を浮かせ、彼に手を伸ばし、彼のほっぺについている米粒を取る。――と、大樹があたしの指に食らいついた。餌を貰う魚のように。
ちょっとびっくりしたあたしに、大樹は微笑みかけると、「サンキュ。美紗の味も、美味しいね」
かーっ、と心臓が熱くなる。このひとの言動は時々――いや、高確率で、心臓に、悪い。あーまあ、そっか、と、あいまいに濁しながら、席に戻り、チャーハンにありつく。
……もうちょっと作ってもよかったかな? なんて、大樹が綺麗に食べ終えたさまなんか見ると、大樹のほうは既に立ち上がっており、
「美紗。なんか飲む? コーヒーはもう飲んだんだよな? ……おれ、無糖炭酸水をお酢で割ったやつ飲むけど。何味がいい?」
嬉しい提案だ。おおっと、料理を準備するので手いっぱいで、食後の飲み物まで気が回らなかった。「あ。ありがとう。じゃ、ざくろで」
「うんおれもおんなじのにする」
そしてチャーハンを咀嚼。……うん。たくあんの塩気と、ウィンナーの旨味がかみ合って超絶美味い。ほんわかした卵の風味といい、もう、……たまらない。
適当に、キャベツや玉ねぎかぼちゃトマトを刻み、コンソメで煮込んだスープも上出来だ。ルクルーゼで作るとやっぱ味が違う。
あたしが半分食べ終えた頃に、大樹は、透明なレッドの炭酸の入ったグラスを二つ手に、戻ってきた。おまたせー、と。
そして彼は、グラスを手渡すと、……あたしがぐいーっと飲むさまを見て微笑む。「なぁに?」と聞けば、大樹は、
「美紗の飲みっぷりって気持ちがいいよね。豪快で」
「あ……なんかチャーハン作るとき暑くって。つい……」
「おれのことを考えるのも大事だけど。水分補給も大事だよー」
「……外ではちゃんと、水筒持ち歩いているし。コールドブリュー飲んでましたし。仕事中も水は飲むのよ。……あ。前に、無糖炭酸水、水筒に入れてったら、どえらいことになりました」
理解したふうの大樹は、「『ローマの噴水』みたいな?」
感心してあたしは言う。「レスピーギなんてよく……知ってるね」
「美紗が吹奏楽好きって聞いたから。在宅んときはBGMで結構聴いてるよ。ブラスバンドだけど、フィリップ・スパークの『宇宙の音楽』とかたまらないよね。超絶技巧で」
……吹奏楽とブラスバンドの違いすら分からないひとだって珍しくはないのに。研究熱心な大樹の姿に、じーん、としびれた。
(吹奏楽は木管楽器が入るが、『ブラスバンド』は、金管楽器と打楽器のみ。吹奏楽は、厳密には英語では『ウィンド・オーケストラ』という。なお、吹奏楽とオーケストラは、吹奏楽にのみサックスが入る。オーケストラは弦楽器が入る点で吹奏楽とは異なる。吹奏楽でもコントラバスは使うし、ナンバーによってはエレキギターも使う。)
興奮を感じながら、「……あたしは、『華麗なる舞曲』や『ダフクロ』も好きだな。いつからか、吹奏楽の大会では、超難曲を演奏するようになったんだよね……『宇宙の音楽』を小学生が演奏するのは流石に行き過ぎ感があるけどね」
「じゃあさ」と大樹は身を乗り出し、「飯の後片付けとか終わったら一緒に音楽聴こうか。……まったりしよう」
* * *
『宇宙の音楽』は、元々とあるブラスバンド、YBSのために、スパークが、『これ以上難しい曲は作れないという曲を作って欲しい』依頼されたのか、或いは、スパーク自身がどS性を目覚めさせたのか、……たぶん両方だと思うが、それで作られた、全体で16分の、難曲である。吹奏楽版もあるが、コンクールではカットされて演奏されている。
冒頭、ホルンのソロで、宇宙の孤独を思わせる壮大なメロディーが奏でられると、流星群が爆発するような、轟く金管群の超絶パッセージが雪崩れ込む。この時点で、聴衆は圧倒される。――なんだこのすごい曲は。
大樹に背後からくるまれながら、メロディーに浸る。……なんか、癒されるな。『ハルモニア』に差し掛かる頃にはもう、すっかり、大樹の体温とあたしの体温が一体化した感覚を味わっていた。セックスもしていないのに。
ホルンを気絶させる気かと。本当、金管楽器でここまで運指でいじめるかと。木管楽器で難しいパッセージがあるのは吹奏楽ではあるあるなんだけど、ブラスや金管にここまで要求する曲はちょっと珍しい。タンギングなんてダブルでは追い付かず、トリプルタンギングをしているのかもしれない。ラストは本当に、宇宙の爆発を見届けたかのような感動を覚え、曲は――終幕する。
動画でブラス版見たときに、コルネットトップ奏者の横にお花が置かれていて。『酸素吸入のために必要なんだよ』とニコ動の民が突っ込むくらいには、酸欠になっちゃいそうな曲だ。あたしが吹奏楽をしていた時代に、この曲は存在しなかったが(比較的新しい曲だ)、果たしてプレイ出来ていたものか……いや、無理だろう。ここまでは。
あたしがなにも言わず、曲の余韻を噛みしめていると、大樹が、見守ってくれている気配。少しの間をおいて、あたしは自分から動いた。「……お洗濯、やっちゃうね」
洗濯物は、お寝坊さんなゆえに、夜する派だ。洗濯物を取り込むのと、帰宅直後にセットして洗われた洗濯物を干さなければならない。スペースの関係で、ベランダにだが。
「おれもする」
「いい」とあたしは彼の胸を押した。「あたしは休日だったんだから。たまには大樹、ゆっくりお風呂入ってきなよ。疲れてるでしょう?」
風呂は、音楽を聴く前に湯を溜めておいたから、いまが頃合いだ。
なにかを思った風だった大樹だったが、「……じゃあ、お言葉にあまえて」
あたしを立ち上がらせると、大樹は、あたしの手を取り、手の甲にちゅ、とキスをする。「行ってまいります。お姫様」
――まあ、大樹のこういうキザったらしいところ、嫌いじゃないんだけどね。――いえ、むしろ……。
それから、大樹といちゃいちゃしながら、互いに洗面所のほうへと向かい、互いにしたいことに取り掛かった。
* * *
「お風呂サンキュ。おれもするよ」
「ドライヤー乾かしてからでいいよ」
風呂上がりの大樹は、さっぱりとした、Tシャツにハーフパンツ姿。いいなああれ。
女性のハーフパンツって一時期流行ったんだけど、廃れたよね。二十年前くらい?
うちの店でもメンズだと取り扱いがあるし、足元が涼し気で羨ましい。……まあ、女性は、日焼けの心配とかあるんだけどね。確かに。でも、男性が履くみたいなハーフパンツ、夏はスースー気持ちよさそうだし、履きたいなあ……。
で。首からタオルを下げ、タオルで頭をわしゃわしゃする大樹は、明らかにドライヤーがまだだ。ういしょ、と言って大樹はあぐらをかいて座り、
「おれの場合、この時期になると自然に乾くから」と微笑み、「どれどれ。美紗のスケパンはどこだ。どこどこ」
ジョークを飛ばす大樹にあたしは笑った。「ざーんねん。最初に仕舞っておいたよ」
「ちぇー」と、一転。大樹は口許を引き締めると、「なんかおれ、一日に何枚も着替えてるから大変でしょう。ごめんね」
「いいのよ」とあたしは首を振り、「あたしももうちょっとしたら、インナー、店で着替えるかも。夏はほら、やっぱりね。自転車だと汗だくになるじゃない? 真夏だと着替えなきゃなんだよねえ」
「夏ももうすぐだな」タオルを慣れた手つきで畳む大樹が、「夏になったらなんか……したいことある? そういや、誕生日聞いてなかったな。美紗はいつ生まれ?」
控えめにあたしは言ってみた。「……七月七日」
「おお。七夕じゃん。ロマンティックだね。……てか、あと一ヶ月切ってるじゃん」
「そうだね」とあたしは大樹と同じタオルの畳み方をしつつ答えた。「大樹はいつ?」
「十月十日」
ふっ、とあたしは笑った。「互いになんか、……覚えやすい誕生日だね」
「うん。忘れられない。相手も忘れにくい。便利だよね。――ねえ。美紗……」
ずずい、と顔を寄せる大樹は、
「――おれたちの子ども、いつ、産もっか」
「ちょ。大樹……」
「だーめ。雨天により試合は一旦中断します。それまでは過去の試合の映像をお楽しみくださーい」
やさしく押し倒されながらもあたしは笑った。「なに言ってんの。大樹。試合する気満々じゃない」
大樹は悪びれる様子もなく言う。「だーって。美紗が好きなプレイ、いまからするつもりだもん。リプレイだよ」
「まったくもう……」彼が、あたしのうえに馬乗りになり、Tシャツを脱ぐと、――いよいよそのときかと。欲情する。ランニング及び筋トレの効果あってか、大樹は華奢なのに綺麗な筋肉がついており――目を、奪われる。しなやかなからだにしっかりと、影が刻まれている。彫刻のような美しさだった。
そのままそっとTシャツを置くと、あたしに覆いかぶさり、首筋を吸い上げるものだからあたしは当惑した。「大樹。で。電気……」
「つけたままで」と大樹は、あたしの背に手を回し――ホックを外す。その瞬間、理性が千切れたかのようだった。彼の手が――
「あ……そんな……」
大樹は、そのとき特有の、低い、ウィスパーボイスで、「あかるい場所で、美紗のはだかが――見たいんだ」
そんな彼の妖力に逆らえるはずがなく。されるがままに。あたしは、求められてしまった。
* * *
一緒にベッドに入るたびふと思う。――あと何回、このときが残されているのであろうか。
情勢は不安だ。いつ、誰になにがあってもおかしくはない。だから――死ぬまでの残された時間をずっと……大樹と、愛し合って生きていきたい。
狭い小さなベッドで大樹と足を絡ませ、一体となりながら、互いのぬくもりを味わう。大樹に触れるとあたし、幸せ……。蕩けちゃいそう……。
彼の首筋の匂いを嗅ぎながらあたしは、「……大好き」
「おれも。美紗。……愛している」
大樹が、あたしの頬に手を添えた。唇を交わし、互いの真実を、確かめ合う。
そうしてまた、抱きしめあいながら眠りに落ちる。――幸せな眠りが訪れ、愛する者だけがたどり着ける、静寂の世界へと身を委ねた。
*
すこし、不安になることがある。……大樹。仕事が忙しいのに、毎日自炊とか、頑張ってくれてるし……帰宅はあたしのほうが遅い場合が多いので。
あたしが休日の日も、自宅勤務で、電話会議が多い旨を彼は不安視していたが、モウマンタイ。買い出しで出かけることも多いし、どうしても気になる、って場合は、カフェに入ってマッタリしたり。やはり、仕事柄他店のファッションが気になるので、他店舗や他ブランドもチェックしている。あとは美容室に行ったりもするし。
なんとなく一日部屋でまったりする日もたまにはある。音を立てないようにし、こちらに背を向けて職務を遂行する大樹に見入る。……男の働く後ろ姿ってなんか素敵だよね。インカムつけて、にこやかに談笑しているさまは、もう、芸能人の風格すら漂う。「QA票投げて頂いたの、田中さんでカバーしきれない部分があったら、それはぼくのほうに回してください」「資格も大事ですけども、資格があるからってそのプロジェクトでの業務に耐えうるスキルがあるとは限らないじゃないですか。資格だけではなくもっとこう……人間性、協調性とか重視しないと、同じ間違いが繰り返されてしまいますよね。BPさんだと、金額が高ければいい、ってものではありませんし」――結構きつめの発言をするときも、基本、大樹は、穏やかだ。
大樹は、自宅勤務のときは、昼ごはんも自分で用意するとは言っており。ご飯を冷凍しておいて、お茶漬けや、+インスタントのお味噌汁&お漬物を食べることが多いそうだ。出勤する場合は、客先常駐の彼は、セキュリティの関係上自席で食べることが許可されていないので、外に食べに行くそうな。なるだけワンコインで済む食堂に。……彼が自宅勤務であたしがランチタイムに家にいるのはごめんなさい、前述の事情からレアケースなんだけど。それに、あたしは、宅にいるときの昼ご飯はパスタやうどんなどの麺類が多いし。普段あまり食べないからお昼に食べたくなるのだ。……となると、作り置きが出来ない。諸々承知して、大樹は、「美紗のしたいようにしていいよ」と肯定してくれる。……ありがたい話だ。
流行色は基本濃いものから流行りはじめ、薄い色に落ち着くのが、ファッション業界の定番ではあるが。今期目立つのはグリーンやオレンジの存在だ。当然ヘアメイクやメイクアップのトレンドも押さえる必要があり、その手の店もチェックをする。グリーンについては、以前に流行った濃いグリーンも引き続き。だが、ライムグリーンとか、ライトで鮮やかなグリーンも目立つ。オレンジも然りで、オレンジに関してはすっかり定番化した様相だ。ボトムスでもトップスでも見かける。
……という情報を、色々と店を回りながら脳内に叩き込む。アイパレットは、台湾製や中国製の美麗なパッケージのを取り扱う専門店があるので、そちらもチェック。特に、アイメイクのトレンドを押さえておかないといけない。お客様が気に入った商品を見つけた場合に、色をどれにしようか迷われるのは、よくあることだ。……そういったとき、お客様のメイク、髪型や髪色、バッグ、アクセサリー、ファッションや全体的な雰囲気、……あとは、お客様がどういった系統の色合いや雰囲気の服を主にお持ちなのか。そういった諸々の情報から判断した上で、必要に応じてアドバイスしている。
マスクをし始めたあたりからアイメイクが明らかに変わったので。瞼キワに濃い茶色を仕込むブラウンメイクは廃れ、締め色を入れず、下瞼目尻側三分の一に、カラーを仕込むメイクが隆盛だ。この、ドラスティックなアイメイクの変化を取り入れているのかも、判断する重要な指針となる。勿論、販売するこちらが、置いてきぼりのアイメイクをしていてはお話にならないので、アイメイクの情報アップデートは、趣味でもあるが、責務でもある。
なお、当方のパーソナルカラーはブルベ夏だが。ただし、こだわりにとらわれないようにしている。トップスを試着してみると、真っ白なホワイトよりも、案外マスタードイエローが似合うことなんかもあるあるだし。試着室や出たところにて、店員さんの許可を得たうえで写真を撮らせて頂き、それから判断する。……もう、慣れているので、写真なしでも、マスクを外して、試着したトップスの顔映りがどうなのか。マスクをつけても綺麗に映るのか。写真なしでも判断出来るようになってきた。
一連の店舗巡礼を終えただけでもう、あっという間に夕方近くで。週に1~2回の休日など、瞬く間に過ぎていく。大樹とお昼は一緒にいられないぶん、夜はちゃんと作ろうと思っている。作り置きがうまく出来ないのが悩みだが。こちら花見町は、利便性が高いので、自転車移動が多く、二駅先程度であれば自転車。新宿まで行くなら電車、……だが、このご時世、都心まで行くのは憚られる。でなければ、新宿もよく行っていた。とにかく店舗やビルが圧倒的に多いし、ルミネエストなんて回るだけで半日以上はかかる。流行の最先端なだけあって、街ゆくひとを見ているだけでも勉強になる。……落ち着いたら新宿散策も是非、堪能したいところではあるが。
花見町のカフェも大好きなのだが、……テイクアウトをして、公園か。自宅で飲むことがほとんどだ。毎回ちゃんとこぼれないようにセットしてくれる店員さんには感謝をしている。せっかくなのでと。重たいスーパーの食材入りエコバッグを持ち歩きながら、カフェにて大樹の好きなコーヒーを買い、帰宅した。
「ただいまー」と必ず挨拶をする。と、「おかえりー」とすぐ反応が来るのがいじらしい。独り暮らしでは味わえない、特権だ。あたしだけの優先権。
大樹がいなかったとしたら、大樹の『おかえりー』を録音して、毎晩聞き倒したいくらいには、大樹が、好き。その自覚はある。
振り返って微笑む大樹は、マスクを着用している。ぼちぼちクーラーを入れ始めたが、このアパートはとにかく蒸す。……引っ越しも、考えたほうがいいなあと、思い始めている。いくらクーラーをかけても、そもそものこのアパートの作りがね。とにかく暑いので。風呂上がりとかもう大変だし。……大樹の体調面が心配だ。手洗いうがいをぱぱっと済ませ、
「コーヒー置いておくね。お疲れ様」
「うん。サンキュ」
前を向いて仕事に戻る彼の邪魔をしないよう、キッチンに戻ると食材を取り出し、調理に取り掛かる。ぐびぐびコーヒーを飲みつつ(こちらはコールドブリューにした)、あっついけど、敢えてのチャーハンに挑戦。結構簡単なレシピで、たくわんとウインナーを炒め、溶き卵と白ご飯と、醤油ごま油少量ずつを入れれば完成。その前にパパッと野菜スープを作っておく。お腹にやさしいものが、作りたかった。
調理が終わると19時くらいにはなっているので。そろそろ大樹が仕事が終わる頃だ。普段はもっと仕事終わりは遅いらしいが、自宅勤務なので、彼は、朝六時台には仕事を始めている。子育てを頑張るママさんだと、五時台六時台勤務開始が珍しくないんだとか。七時台はお子さんの朝食準備とかでばたばたするらしいし。……ということを把握している大樹は、流石だな、なんて思う。
手を洗い、テーブルに並ぶ料理を見た大樹は、おー、なんかうまそー、と、心底嬉しそうな顔をする。……それが実は嬉しい。
「チャーハンセットだなー。うわー。中華料理屋みてえー」
「大げさな」とまんざらでもない気分であたしは笑って座った。お皿にもこだわって、ちゃんと、中華料理っぽいのにしたんだから。チャーハンの盛り付けはお玉に入れて逆さにして円形。そこから覗くお皿の、チャイナっぽい絵柄がかわいらしい。小人が鍋を振っているものもあるな。「ただし、スープは洋風にございますが。……召し上がれっ」
大樹はあたしと目を合わせて微笑むと、同時に、「いただきまーす」
……つい、大樹の、もりもり食べる姿に、見惚れてしまう。
なまじっか、ついさっきまで、彼が仕事をしていたパソコンが彼の後方に見えるだけに、……コントラストがそそるというか。仕事中の大樹。こうしてチャーハンを掻きこむ大樹。むしゃぶりつきたいくらいに、可愛い……。むかーし動画で見たけど、男の人が黙々と一心不乱に、お茶漬けを掻きこむCMがあったらしく。なるほど確かに妙にそそられるものがあった。
ただ、まあ、大樹は……仕事は出来るのに、プライベートだと案外抜けてるところがあって。くすりとあたしは笑った。
「……ついてるよ。こっち。大樹の右側」
「えーこっち? どこ? ……美紗。取ってよ」
「んもう。仕方がないなあ……」腰を浮かせ、彼に手を伸ばし、彼のほっぺについている米粒を取る。――と、大樹があたしの指に食らいついた。餌を貰う魚のように。
ちょっとびっくりしたあたしに、大樹は微笑みかけると、「サンキュ。美紗の味も、美味しいね」
かーっ、と心臓が熱くなる。このひとの言動は時々――いや、高確率で、心臓に、悪い。あーまあ、そっか、と、あいまいに濁しながら、席に戻り、チャーハンにありつく。
……もうちょっと作ってもよかったかな? なんて、大樹が綺麗に食べ終えたさまなんか見ると、大樹のほうは既に立ち上がっており、
「美紗。なんか飲む? コーヒーはもう飲んだんだよな? ……おれ、無糖炭酸水をお酢で割ったやつ飲むけど。何味がいい?」
嬉しい提案だ。おおっと、料理を準備するので手いっぱいで、食後の飲み物まで気が回らなかった。「あ。ありがとう。じゃ、ざくろで」
「うんおれもおんなじのにする」
そしてチャーハンを咀嚼。……うん。たくあんの塩気と、ウィンナーの旨味がかみ合って超絶美味い。ほんわかした卵の風味といい、もう、……たまらない。
適当に、キャベツや玉ねぎかぼちゃトマトを刻み、コンソメで煮込んだスープも上出来だ。ルクルーゼで作るとやっぱ味が違う。
あたしが半分食べ終えた頃に、大樹は、透明なレッドの炭酸の入ったグラスを二つ手に、戻ってきた。おまたせー、と。
そして彼は、グラスを手渡すと、……あたしがぐいーっと飲むさまを見て微笑む。「なぁに?」と聞けば、大樹は、
「美紗の飲みっぷりって気持ちがいいよね。豪快で」
「あ……なんかチャーハン作るとき暑くって。つい……」
「おれのことを考えるのも大事だけど。水分補給も大事だよー」
「……外ではちゃんと、水筒持ち歩いているし。コールドブリュー飲んでましたし。仕事中も水は飲むのよ。……あ。前に、無糖炭酸水、水筒に入れてったら、どえらいことになりました」
理解したふうの大樹は、「『ローマの噴水』みたいな?」
感心してあたしは言う。「レスピーギなんてよく……知ってるね」
「美紗が吹奏楽好きって聞いたから。在宅んときはBGMで結構聴いてるよ。ブラスバンドだけど、フィリップ・スパークの『宇宙の音楽』とかたまらないよね。超絶技巧で」
……吹奏楽とブラスバンドの違いすら分からないひとだって珍しくはないのに。研究熱心な大樹の姿に、じーん、としびれた。
(吹奏楽は木管楽器が入るが、『ブラスバンド』は、金管楽器と打楽器のみ。吹奏楽は、厳密には英語では『ウィンド・オーケストラ』という。なお、吹奏楽とオーケストラは、吹奏楽にのみサックスが入る。オーケストラは弦楽器が入る点で吹奏楽とは異なる。吹奏楽でもコントラバスは使うし、ナンバーによってはエレキギターも使う。)
興奮を感じながら、「……あたしは、『華麗なる舞曲』や『ダフクロ』も好きだな。いつからか、吹奏楽の大会では、超難曲を演奏するようになったんだよね……『宇宙の音楽』を小学生が演奏するのは流石に行き過ぎ感があるけどね」
「じゃあさ」と大樹は身を乗り出し、「飯の後片付けとか終わったら一緒に音楽聴こうか。……まったりしよう」
* * *
『宇宙の音楽』は、元々とあるブラスバンド、YBSのために、スパークが、『これ以上難しい曲は作れないという曲を作って欲しい』依頼されたのか、或いは、スパーク自身がどS性を目覚めさせたのか、……たぶん両方だと思うが、それで作られた、全体で16分の、難曲である。吹奏楽版もあるが、コンクールではカットされて演奏されている。
冒頭、ホルンのソロで、宇宙の孤独を思わせる壮大なメロディーが奏でられると、流星群が爆発するような、轟く金管群の超絶パッセージが雪崩れ込む。この時点で、聴衆は圧倒される。――なんだこのすごい曲は。
大樹に背後からくるまれながら、メロディーに浸る。……なんか、癒されるな。『ハルモニア』に差し掛かる頃にはもう、すっかり、大樹の体温とあたしの体温が一体化した感覚を味わっていた。セックスもしていないのに。
ホルンを気絶させる気かと。本当、金管楽器でここまで運指でいじめるかと。木管楽器で難しいパッセージがあるのは吹奏楽ではあるあるなんだけど、ブラスや金管にここまで要求する曲はちょっと珍しい。タンギングなんてダブルでは追い付かず、トリプルタンギングをしているのかもしれない。ラストは本当に、宇宙の爆発を見届けたかのような感動を覚え、曲は――終幕する。
動画でブラス版見たときに、コルネットトップ奏者の横にお花が置かれていて。『酸素吸入のために必要なんだよ』とニコ動の民が突っ込むくらいには、酸欠になっちゃいそうな曲だ。あたしが吹奏楽をしていた時代に、この曲は存在しなかったが(比較的新しい曲だ)、果たしてプレイ出来ていたものか……いや、無理だろう。ここまでは。
あたしがなにも言わず、曲の余韻を噛みしめていると、大樹が、見守ってくれている気配。少しの間をおいて、あたしは自分から動いた。「……お洗濯、やっちゃうね」
洗濯物は、お寝坊さんなゆえに、夜する派だ。洗濯物を取り込むのと、帰宅直後にセットして洗われた洗濯物を干さなければならない。スペースの関係で、ベランダにだが。
「おれもする」
「いい」とあたしは彼の胸を押した。「あたしは休日だったんだから。たまには大樹、ゆっくりお風呂入ってきなよ。疲れてるでしょう?」
風呂は、音楽を聴く前に湯を溜めておいたから、いまが頃合いだ。
なにかを思った風だった大樹だったが、「……じゃあ、お言葉にあまえて」
あたしを立ち上がらせると、大樹は、あたしの手を取り、手の甲にちゅ、とキスをする。「行ってまいります。お姫様」
――まあ、大樹のこういうキザったらしいところ、嫌いじゃないんだけどね。――いえ、むしろ……。
それから、大樹といちゃいちゃしながら、互いに洗面所のほうへと向かい、互いにしたいことに取り掛かった。
* * *
「お風呂サンキュ。おれもするよ」
「ドライヤー乾かしてからでいいよ」
風呂上がりの大樹は、さっぱりとした、Tシャツにハーフパンツ姿。いいなああれ。
女性のハーフパンツって一時期流行ったんだけど、廃れたよね。二十年前くらい?
うちの店でもメンズだと取り扱いがあるし、足元が涼し気で羨ましい。……まあ、女性は、日焼けの心配とかあるんだけどね。確かに。でも、男性が履くみたいなハーフパンツ、夏はスースー気持ちよさそうだし、履きたいなあ……。
で。首からタオルを下げ、タオルで頭をわしゃわしゃする大樹は、明らかにドライヤーがまだだ。ういしょ、と言って大樹はあぐらをかいて座り、
「おれの場合、この時期になると自然に乾くから」と微笑み、「どれどれ。美紗のスケパンはどこだ。どこどこ」
ジョークを飛ばす大樹にあたしは笑った。「ざーんねん。最初に仕舞っておいたよ」
「ちぇー」と、一転。大樹は口許を引き締めると、「なんかおれ、一日に何枚も着替えてるから大変でしょう。ごめんね」
「いいのよ」とあたしは首を振り、「あたしももうちょっとしたら、インナー、店で着替えるかも。夏はほら、やっぱりね。自転車だと汗だくになるじゃない? 真夏だと着替えなきゃなんだよねえ」
「夏ももうすぐだな」タオルを慣れた手つきで畳む大樹が、「夏になったらなんか……したいことある? そういや、誕生日聞いてなかったな。美紗はいつ生まれ?」
控えめにあたしは言ってみた。「……七月七日」
「おお。七夕じゃん。ロマンティックだね。……てか、あと一ヶ月切ってるじゃん」
「そうだね」とあたしは大樹と同じタオルの畳み方をしつつ答えた。「大樹はいつ?」
「十月十日」
ふっ、とあたしは笑った。「互いになんか、……覚えやすい誕生日だね」
「うん。忘れられない。相手も忘れにくい。便利だよね。――ねえ。美紗……」
ずずい、と顔を寄せる大樹は、
「――おれたちの子ども、いつ、産もっか」
「ちょ。大樹……」
「だーめ。雨天により試合は一旦中断します。それまでは過去の試合の映像をお楽しみくださーい」
やさしく押し倒されながらもあたしは笑った。「なに言ってんの。大樹。試合する気満々じゃない」
大樹は悪びれる様子もなく言う。「だーって。美紗が好きなプレイ、いまからするつもりだもん。リプレイだよ」
「まったくもう……」彼が、あたしのうえに馬乗りになり、Tシャツを脱ぐと、――いよいよそのときかと。欲情する。ランニング及び筋トレの効果あってか、大樹は華奢なのに綺麗な筋肉がついており――目を、奪われる。しなやかなからだにしっかりと、影が刻まれている。彫刻のような美しさだった。
そのままそっとTシャツを置くと、あたしに覆いかぶさり、首筋を吸い上げるものだからあたしは当惑した。「大樹。で。電気……」
「つけたままで」と大樹は、あたしの背に手を回し――ホックを外す。その瞬間、理性が千切れたかのようだった。彼の手が――
「あ……そんな……」
大樹は、そのとき特有の、低い、ウィスパーボイスで、「あかるい場所で、美紗のはだかが――見たいんだ」
そんな彼の妖力に逆らえるはずがなく。されるがままに。あたしは、求められてしまった。
* * *
一緒にベッドに入るたびふと思う。――あと何回、このときが残されているのであろうか。
情勢は不安だ。いつ、誰になにがあってもおかしくはない。だから――死ぬまでの残された時間をずっと……大樹と、愛し合って生きていきたい。
狭い小さなベッドで大樹と足を絡ませ、一体となりながら、互いのぬくもりを味わう。大樹に触れるとあたし、幸せ……。蕩けちゃいそう……。
彼の首筋の匂いを嗅ぎながらあたしは、「……大好き」
「おれも。美紗。……愛している」
大樹が、あたしの頬に手を添えた。唇を交わし、互いの真実を、確かめ合う。
そうしてまた、抱きしめあいながら眠りに落ちる。――幸せな眠りが訪れ、愛する者だけがたどり着ける、静寂の世界へと身を委ねた。
*
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