恋は、やさしく

美凪ましろ

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閑話休題――愛されるということ *

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 日課であるジョギングを終え、シャワーを浴びる。


 昨日観た兄の姿が脳裏に浮かぶ。おれはもうあんなふうに綺麗に走れない。仕事でそれをしている人間と、趣味でしている人間の違いとは残酷だ。

 ベッドから出るときに彼女を起こさないようにした。連日連夜の性的交渉で間違いなく疲れている。しかしおれは緩める気もない。

 毎回、激しく彼女を愛す。それに彼女はいじらしいくらいに、応えてくれている。

 身も、こころも、おれに捧げて。「一臣さん」と言う彼女の口の動き。

 おれを愛すとき。彼女が髪を耳にかけるときの動き。セクシャルな指。唇のなまめかしさ――


 変な気が起こったときに、タイミング悪く、浴室のドアが開いた。


「おはよ、蒔田さん」彼女は、パジャマ姿だ。寝起きの割にはすっきりした顔をしている。

「おはよう」とおれが返すと彼女は下方に目線をやる。「ねえ。なんで、立ってんの」

「さあな」悪びれずもせずにおれは答える。

 すると彼女は自分のパジャマに手をかけ、


「ねえ。そっち、行ってもいい?」


 おれはシャワーを止めた。


 * * *


 別にそういう事態を招くために、念入りにソープで洗ったわけではない。

 しかし、彼女は、念入りだ。念入りにおれを愛する。

 口と手を駆使する彼女がいじらしく髪を撫でる。

 自分の、感度に集中する。頭に思い浮かぶ彼女の裸体。ああ……

 貫きたい。

 彼女の口にすっぽり包まれているから、肥大していくのがよく分かる。不器用ながらもスライドし、懸命におれを追いやろうとしている。

 因みに彼女はまだパジャマ姿。座るおれの股のあいだに跪き行為に、集中している。

 彼女が、おれのやわらかい部分に手をかける。乱暴にやられると痛い部分だが、おれを思いやる彼女は、慎重だった。

「痛かったら、言って……?」

 断りをいれ、しごき始める。

 誰かを愛するとき。ひとは真剣になり真摯に向き合うことになる。

 自分の性と、相手の性に。

 おれを導く彼女の顔は美しくその瞬間を切り取って眺めておきたいくらいだった。

 彼女は、髪を後ろにやる。そして再び集中する。

 時折、ちらっとおれの目を確かめるのが愛らしい。このまま彼女の顔に噴きかけてみたい気持ちもあったが、おれは彼女を止めた。

 やっぱり彼女のなかでいくのが、最高だから。

 
 パジャマ姿じゃ盛り上がらないから、おれは彼女を脱がした。ショーツを脱がすときに焦らした。

 彼女は、恥ずかしがったが、その顔もおれは、見たかった。

 敢えてそのことは言わないが。

 後ろから貫かれるとおれの顔が見れないのが彼女は寂しいらしい。それはおれのほうも同じだ。だが――

 彼女の白い背中を見ながら達するのも捨てがたい心地よさだった。乳房を弄びながら、あの華奢なからだを強く抱くと男としての本能が、燃えあがる。

 おれを愛すことで彼女が十分な状態に至ったことは分かっていたが、それでも。

 自分の欲を抑えてまでも彼女に触りたくなる。

 あの顔が見たいのだ。恍惚とした、ほかの誰にも見せない彼女の顔を――

「ん。やああ……」おれが貫くと、甘い声を彼女は出した。

 首筋を吸ってやると、内壁がびくんと震える。可愛い。胸なんか激しく揉んでやるとますます震える。

 彼女の内面の動きをダイレクトに感じれることが、幸せだった。幸せとは自分ひとりで達成できるもんだと、おれは思い込んでいたが、世の中にはこんな幸せもある。

 彼女を満足させることでおれも満足する。

 彼女に愛し愛されることでおれは満たされる。

 おれは、彼女の弱い部分を知り抜いているから、後ろから伸し掛かられるやや苦しい体勢のなかで、存分に攻めた。都度、彼女は歓喜し、震え、おれを締めつけた。それは甘すぎる快楽だった。いくら従事しても物足りないくらいに。くせになる。

 浴槽の蓋に手をついていた彼女の身を起こす。違うところを突かれるのが弱いらしく、また彼女が声をあげる。乳房を揉みしだき、耳に息を吹きかける。どころか、舐める。すると彼女はがくんと、揺れると、達した。

 彼女が激しく波打つ。おれの快楽を、呼び覚ます。抜き差しすると激しく反応した。

 おれは彼女の上体を倒すと今度は自分の欲を追い求めることに集中した。彼女は、足に力が入らないらしく、上体を投げ出すような体勢だった。もとより、力など入るはずもないが。

 おれは思い切って、一旦抜いて、彼女をぐるんと横たえた。いまだ絶頂のさなかにある彼女は、なすがままだ。眉間に皺を寄せ、涙さえ流している。

 おれは、再び、彼女の中心に入った。彼女をもっと知りたくて。

「あ、はあ……」苦悶する彼女の喉仏をなぞる。すると上体が揺れる。すごく敏感だ。

 おれは彼女の唇を貪った。びくびくと彼女は震えどこまでも感度を深める。これ以上攻めたらどうなるのだろうというおれの征服欲を毎度、駆り立てる。

「あ。く……」胸に触れた。一部固く、とてもやわらかい。汗かなにかに濡れていて。中指でぶるんとすれば益々震える。

「か、ずおみさん、や……」残された彼女の最後の抵抗力。それすら許す気のない、獰猛なおれが顔を出す。

 ためらいなく、貪る。彼女がおれの頭を抱え、叫ぶ。風呂場だから随分と響く。

 朝から近所迷惑を起こし変な気を起こす輩も現れるかもしれない。

 しかし、おれは、止める気がなかった。この声は一度聞くとやみつきになる。

 おれは持続させながら、口と手で乳房への愛撫を続けた。彼女はその間ずっと叫び続けていた。

 彼女がまたも、達したときおれは彼女を抱きしめた。

 腕のなかで震え涙する彼女は、おれにとって愛おしいひとだった。彼女以上に大切なものなど見つからない。

 見つかりやしない。なのにおれの本能が鎌首をもたげ。

 さらなる境地へと、彼女を追いやる。おれはもはや自分の欲を満たすだけを求める、獣と化した。

 彼女のやわらかい肉がおれの激しさを受け入れてくれる。抜き差しするたび、新たなる愛液をしたたらせ動きを潤滑にする。それがおれの欲望を開花させ衝動を加速させる。

 ことが終わったとき、荒い息を吐きながら彼女を抱きしめた。

 うわごとのように彼女は、「……好き。大好き」と呟いていた。


 * * *


 朝食の席は、静かだった。だが、彼女が口火を切る。

「蒔田さんあたし」

「うん」

「……正直、引いてませんか」味噌汁をすする彼女が器から唇を離し、おれの顔を覗きこむ。

 真剣に悩んでいるはずだろうに、なんだか、可笑しかった。

「いいや。なんのことだ」

「わかってるくせに。意地悪」ぷうと頬を膨らまし、ほうれん草のおひたしに箸をつける。一口食べて、彼女は、

「ほんとあんなに声出しちゃって、いいのかなとか、思うんですけど、でも、止められなくて……」

「構わないさ。おれは、おまえの声が、好きだ」

 本心から言ったのに。

 ぎょっと彼女は目を剥く。「えええ? 好きなんですか? 変人ぽくないですか、あたしの声……」

「おれはむしろおまえのあの声を聞きたくてしている」

「う」どうしてだか、額を抑え、彼女が俯く。「……蒔田さん。あの、その。……」

「なんだ」

「……どうして蒔田さんは、そう、心臓に悪い台詞を、さらっと言えるんでしょうね……」


「好きだからに決まっているじゃないか」


 とうとう、テーブルに額を預けた。湯気が目に見えるようだ。

 本当のことを伝えるのは簡単だが、受け入れてもらうのは難しい……。

 彼女の反応は、おれに素直になることの困難を学習させた。しかし。

 これだけ惚れ込んだ女と向き合える機会を、逃しちゃならない。

「あのな。紘花。……おれは。

 歯に衣着せぬ物言いをする男だということを、おまえは知っていると思う。……もしかしたら。

 もうすこし手加減すべき場面など、今後出てくるかもしれん。……しかし。それは時期が来れば考えることとして。


 本音で、おまえと、向き合いたいんだ」


「蒔田さん……」彼女が顔を起こした。涙目だった。「あたし。そんなに、価値のある人間です?」

「自信が持てないんなら、これから一緒に作っていけばいいさ。それともまだ。

 ……愛され足りない?」おれが笑ってみせると、「いえ! とんでもない!」と、彼女は急いで朝食の残りを食べだした。

 そういうところも、好きなんだ……。

 おれは、彼女が食事する姿を、微笑んで、見守った。


 愛し愛されることの幸せを噛み締めながら。


 *
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