恋は、やさしく

美凪ましろ

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act58. 二回目のプロポーズ *

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 十一月に、二人で彼の実家に帰った。そこで――


 彼の過去を、知った。


 東京に戻る飛行機のなかで、プロポーズされた。突然過ぎてこころの準備ができず。照れくささもあいまって、TPOを考えて欲しい、と言ってしまったことを、彼女は密かに後悔している。

 嬉しかったのに。

 そのことに触れてしまうと。要らぬプレッシャーをかけてしまうようで、二度とこの話題には触れられないのだが。

 クリスマスイブの夜。

 愛を確かめ合った恋人同士が、二人きり。彼女は、タオルで髪を拭き、コップに入れたオレンジジュースを飲んでいた。

「――紘花」

「わ。蒔田さん。どうしたの、この花束……」いった何本あるのだろうか。見たこともないくらいの、大きな、すべて赤の薔薇の花束を蒔田が、持っていた。

 その花束を置くと、蒔田が、彼女の足元に跪く。「紘花」

「なぁに、蒔田さん……」


「おれと、結婚、してください」


 彼と目が合う。男のくせに色っぽくて、真摯な眼差し。彼女は、その瞳がどんなふうに変わるかを知っている。彼女を求めるとき。貪るとき。感情を動かさぬ、仕事のとき。そのひとつひとつを。

 これから彼の傍でずっと。確かめていきたいと彼女は、思った。


「はい。喜んで」


 立ち上がる彼の残像。消えぬうちに重なる唇。

 一生を、このひとと生きていくのだ……。そのことへの喜びが、彼女の胸のうちを満たしていく。

「蒔田さん。あたし……


 幸せになろうね、一緒に」


「おれも」音を立てて彼女のまぶたに口付ける。「ずっと、一緒に、いような……」

「蒔田さん……」ふたたび抱擁。さっきまでセックスをしていた肉体が、ふたたび確かめ合う。

 互いの、尊さと、想いとを。言葉や行動などでは、とても表現しきれない……。

「ねえ蒔田さん」彼女は彼の、漆黒の髪を撫でて訊いた。「どうして、家でしようと思ったの」

「うちが一番落ち着く。……外のほうが、よかったか」

「ううん。あたし、……蒔田さんらしくっていいなと思った」彼女は、彼から離れ、花束を手に取る。意外と重い。

 実は二人ともパジャマ姿だ。時刻は二十三時。

 と。蒔田が、ポケットから小箱を取り出す。「あ」と彼女は声を上げる。彼は笑ってキスをすると、それを開き取り出した指輪を、彼女の指にはめた。

「きれ、い……」彼女はその手を挙げ、自分の顔のまえに持ってくる。

 指輪のまんなかに透明な石が輝いている。

 蒔田への想いのように、光を反映して石がきらめく……。

「紘花。愛している……」見つめる彼女のまぶたにふたたびキス。だけじゃ足らなくなったらしく彼が彼女に覆いかぶさる。さっきまで。彼の肌を貪っていたというのに、もう、欲しくなる。

 恋愛とは、なにかの病気だと思う。

 彼のことが欲しくて欲しくてたまらなくなるという種の。

「ベッドに、連れて行って欲しい?」

 彼女の様子に気づいた彼が問うと、こくこく、と彼女は頷く。もう――

 あの大きな手でさらって。

 見えないところに連れて行って欲しかった。「蒔田さん。あたし。

 好きなの。本当に。蒔田さんのことが……」

 ――どうしたら伝わるのだろう、この狂おしい想いが。

 彼女の表情を見守りながら、彼は、彼女の膝の下に手を入れ、背中を支えつつ抱き運ぶ。ベッドのうえの布団がまだひとのかたちを保っていて二人の早すぎる帰還に驚いているかのようだった。

 彼の、彼女を脱がせる手に応えつつ、彼女は言う。「蒔田さん。あたし――

 そのままの蒔田さんが、欲しいの」

「いいのか」と彼の瞳が見開く。彼女は、彼の手を自分の胸にやり鼓動を聞かせるようにし、頷いた。

 過去に二度、したことがある。大丈夫だとは言わないが、しかし、どんなことがあっても蒔田とずっと過ごしていくと決めたのだ。

 生のままの蒔田が、欲しかった。

 全裸となった二人は抱きしめ合う。互いの肌を知り、体温を味わい、想いを共有する。

 大切な宝物のような想いを抱えた男女が二人。言葉はもうなにも、いらない。

「あ。あ、蒔田さ、ん……」あらぬところに彼の指が伸びる。そこはもう十分に潤っているのに、丹念に、引き出していく。

 いつもながらのやり方に、彼女は翻弄される。まただ。過去何千回と彼の指でいかされているその歴史を、彼女のこころとからだが、受け入れる。

「だめ」と彼女は彼の手を止めた。「あたし、

 蒔田さんと、いきたいの……だから」

 ちょうだい、と言うと噛みつくようなキスが与えられた。彼女の内部は既に指の侵入を許し。彼の動きに応じて激しく波打つ。

 彼が、笑ったのが、彼女には分かった。「ん。ん……」

 彼女は腰を揺らす。自分から気持ちいい方向を求めて。すると彼の指が折り曲げられ。

 もっとも感じる部分を、探り当てる。「あ……だめ、それ……」

 彼女が首を振るのにも関わらず。くん、と彼が内側をこすりあげる。彼女の息が荒くなる。やがて涙目になり、

「……蒔田さん。だめよ、あたし、それ……」

 いっちゃう、と言いかけた唇は彼に塞がれ。離したと思いきや。


「いっちゃえよ、紘花」


 浅く笑う男の指と色香に翻弄され。

 涙と情動の行き着く場所を知る。そこは――

 信じられぬほどの快楽の泉。投じられた意識を撹拌し、新たなる答えを導く。さらなる高みへと。


 激しく締めつけ。

 激しく噴き出したのが、分かった。


(ああ、もう)


 こうなるとなにも考えられなくなる。ぐったりとして打ち上げられたクジラみたいに。寝そべるしか、脳がなくなる。

 なのに。

 彼女の膝を割り開く手がある。


「挿れるぞ」


 朦朧とした彼女に確認を取る、律儀な男。

 この男のセックスは、どうにも魅力的でやみつきになる。

 もはや、病気みたいなもの。

 深く彼女の内部に潜り。

 感情のありったけを伝え。彼女を揺さぶる。

 自分の想いと彼の想いとで、引き裂かれそうな自分自身すら感じる。それくらい彼の気持ちが、強いのだ。彼はもはや遠慮を知らない。

 彼女を、限界まで、追い込む。残る理性など奪い去る嵐のようなキスを与え。

 肉体を激しく打ちつけ。しかし愛の言葉を吐く。

 彼女の望む種の、愛の誓いを。どうして――


 ひとは、確かめ合いたくなるのだろう。


 うすらぼんやりしていく意識のなかで。彼女は、そのことを思った。

 *
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