12 / 45
好きじゃ足らない(2)
しおりを挟む
無防備な寝顔を晒すきみをいつまでも永遠に見ていたい。僕だけのプリンセス。未来永劫、僕のもの。
昨晩、きみだけを追い込んで僕は満足していたつもりだった。が、一緒に高みに上り詰める僥倖に比べればなんのその。
再会したとき、きみは、警戒心を露わにしていたね。同期たちが大学生の延長みたいなノリで、楽しそうにしているときみは嫌な顔をしていたね。
研修の終盤で同じチームとなったコバをびしばし鍛えた。その手腕は他のチームにいる僕の耳にもちゃんと届いていたよ。
僕は敢えて、配属先がきみと同じにならないように仕向けた。毎日見る人事の顔を見ればなにを考えているのかは大体分かる。仲のいい同志を敢えて別のチーム、配属先に配属させる。配属先が別となっても彼らの交流は別に続くわけだから会社としてはWin-winだ。ま、トヨみたいに配属から一週間で辞めたやつは別として。
その後のきみも追い続けていた。でなければ意味がないからだ。
敢えてきみと同じ路線の電車に毎日乗り、きみの動向をこの目で追い続けた。自分の目で見て確かめる。そのことに意味がある。
他人から聞いた噂話とか、その気になれば調査会社を入れることも簡単だったけれど僕はその道は選ばない。きみに対して誠実にありたいからだ。
「花……」愛おしい、最愛のファタール。そのすこし丸みを帯びた鼻先を撫でてやると、胸の奥からどうしようもない情愛が湧いてくる。こんなにも愛おしい。僕の最愛のひと。
きみが自然に目を覚ますまでずっとずっと見守っている。僕の永遠のひと。永久に、どんなことが起きようとも僕は、この心臓が動く限り、きみを、愛している。
*
目を覚ますと目が合った。自然と笑みがこぼれる。
「いま、……何時?」
「窓の外を見れば分かるかな」
そのとき、グゥウと私のお腹が鳴った。うう。恥ずかしい。
「ちょうどいい時間だね。マキノさんを呼んで、軽くご飯作って貰おうか」と私の髪を撫でて立ち上がる恋生。「花は、どんなものが食べたい? 和食でいいかな」
「うん。ちょうど、そういうのが食べたかったの。急に……涼しくなったでしょう?」
すると恋生は、ベッドに手をつくと顔を寄せ、
「僕らの仲はあっつあつだけれどね」
固い彼の胸を押す。「んもう! 恋生ったら……」
「あはは」身を起こした彼は、「僕は電話一本入れてくるから。花はゆっくり支度してて? 夕飯、たぶん、六時くらいになると思う。アメニティも、ドレッサーも、好きに使って?」
優雅な身のこなしで王子様は部屋を出て行く。改めてじっくりと眺めるとこの部屋……凄い……天井が高い……二十平米はあるだろうか……こんなに空間を遊ばせて……凡人には思いつかないアイデア。
瀟洒な天蓋つきのベッドの離れた奥に、ドレッサーがそびえていた。鏡はまるく、まばゆいジュエリーで飾られている。まさかこれ、ダイヤモンド……?
白いテーブルと、座ってみるとふっかふかな、王室のお姫様みたいなセットのドレッサー。椅子の背の高さにも驚く。――それから。
鏡のなかの自分を見て更に驚く。愛されただけで女はこんなになる。
引き出しを探るとRefaのドライヤーやブラシがあり、ブルガリのアメニティまで。うおお。ブルガリのアメニティなんて初めて見た……!
度重なる行為でお化粧が少々崩れてしまっていたので、遠慮なく。新品のクッションファンデを使う。おお、これ、韓国の高級ブランドのだ。諭吉ファンデとして話題になっていたやつ。もう諭吉じゃないけどね。
「ふぁあ……しっとりする……」ファンデを重ねただけなのに美肌が爆誕。おお、あがるぅー!
上段の浅めの引き出しのなかには新品のコスメがたくさん入っていて。気分は美容系Youtuberだ。これ一個一個検証してみたい!
「ってこれ、……私のために……?」
恋生って、昔から私のことを知っている風なことを匂わせているよね。私がコスメ好きなことをどこで……。
ええい。そんなの関係ねえ! 頭のなかでよしおを踊らせたのちに、ばんばん開封していって好きに付き合ってやる!
これは、愛だ。神宮寺恋生の本気の塊だ。
向こうが本気で来るのならば、こちらも本気で返す。なんだか、ラリーを超えて真剣なショットを打ち込んでいるかのような気分になった。体力の温存とか、まったく考えていなかった中学の頃。田舎で。することがなくて暇で。ただ一心に打ち込んだあの頃。
お化粧直しをばっちり決めて振り返ると背後の壁に黒い、ロングドレスがかけられていた。左の引き出しを引くとジュエリーが。おお。重そう……!
「これに着替えようという話だよね。よし来た」
天下の神宮寺財閥の御曹司と初ディナーと来ては。完全装備するほかあるまい。
昨晩、きみだけを追い込んで僕は満足していたつもりだった。が、一緒に高みに上り詰める僥倖に比べればなんのその。
再会したとき、きみは、警戒心を露わにしていたね。同期たちが大学生の延長みたいなノリで、楽しそうにしているときみは嫌な顔をしていたね。
研修の終盤で同じチームとなったコバをびしばし鍛えた。その手腕は他のチームにいる僕の耳にもちゃんと届いていたよ。
僕は敢えて、配属先がきみと同じにならないように仕向けた。毎日見る人事の顔を見ればなにを考えているのかは大体分かる。仲のいい同志を敢えて別のチーム、配属先に配属させる。配属先が別となっても彼らの交流は別に続くわけだから会社としてはWin-winだ。ま、トヨみたいに配属から一週間で辞めたやつは別として。
その後のきみも追い続けていた。でなければ意味がないからだ。
敢えてきみと同じ路線の電車に毎日乗り、きみの動向をこの目で追い続けた。自分の目で見て確かめる。そのことに意味がある。
他人から聞いた噂話とか、その気になれば調査会社を入れることも簡単だったけれど僕はその道は選ばない。きみに対して誠実にありたいからだ。
「花……」愛おしい、最愛のファタール。そのすこし丸みを帯びた鼻先を撫でてやると、胸の奥からどうしようもない情愛が湧いてくる。こんなにも愛おしい。僕の最愛のひと。
きみが自然に目を覚ますまでずっとずっと見守っている。僕の永遠のひと。永久に、どんなことが起きようとも僕は、この心臓が動く限り、きみを、愛している。
*
目を覚ますと目が合った。自然と笑みがこぼれる。
「いま、……何時?」
「窓の外を見れば分かるかな」
そのとき、グゥウと私のお腹が鳴った。うう。恥ずかしい。
「ちょうどいい時間だね。マキノさんを呼んで、軽くご飯作って貰おうか」と私の髪を撫でて立ち上がる恋生。「花は、どんなものが食べたい? 和食でいいかな」
「うん。ちょうど、そういうのが食べたかったの。急に……涼しくなったでしょう?」
すると恋生は、ベッドに手をつくと顔を寄せ、
「僕らの仲はあっつあつだけれどね」
固い彼の胸を押す。「んもう! 恋生ったら……」
「あはは」身を起こした彼は、「僕は電話一本入れてくるから。花はゆっくり支度してて? 夕飯、たぶん、六時くらいになると思う。アメニティも、ドレッサーも、好きに使って?」
優雅な身のこなしで王子様は部屋を出て行く。改めてじっくりと眺めるとこの部屋……凄い……天井が高い……二十平米はあるだろうか……こんなに空間を遊ばせて……凡人には思いつかないアイデア。
瀟洒な天蓋つきのベッドの離れた奥に、ドレッサーがそびえていた。鏡はまるく、まばゆいジュエリーで飾られている。まさかこれ、ダイヤモンド……?
白いテーブルと、座ってみるとふっかふかな、王室のお姫様みたいなセットのドレッサー。椅子の背の高さにも驚く。――それから。
鏡のなかの自分を見て更に驚く。愛されただけで女はこんなになる。
引き出しを探るとRefaのドライヤーやブラシがあり、ブルガリのアメニティまで。うおお。ブルガリのアメニティなんて初めて見た……!
度重なる行為でお化粧が少々崩れてしまっていたので、遠慮なく。新品のクッションファンデを使う。おお、これ、韓国の高級ブランドのだ。諭吉ファンデとして話題になっていたやつ。もう諭吉じゃないけどね。
「ふぁあ……しっとりする……」ファンデを重ねただけなのに美肌が爆誕。おお、あがるぅー!
上段の浅めの引き出しのなかには新品のコスメがたくさん入っていて。気分は美容系Youtuberだ。これ一個一個検証してみたい!
「ってこれ、……私のために……?」
恋生って、昔から私のことを知っている風なことを匂わせているよね。私がコスメ好きなことをどこで……。
ええい。そんなの関係ねえ! 頭のなかでよしおを踊らせたのちに、ばんばん開封していって好きに付き合ってやる!
これは、愛だ。神宮寺恋生の本気の塊だ。
向こうが本気で来るのならば、こちらも本気で返す。なんだか、ラリーを超えて真剣なショットを打ち込んでいるかのような気分になった。体力の温存とか、まったく考えていなかった中学の頃。田舎で。することがなくて暇で。ただ一心に打ち込んだあの頃。
お化粧直しをばっちり決めて振り返ると背後の壁に黒い、ロングドレスがかけられていた。左の引き出しを引くとジュエリーが。おお。重そう……!
「これに着替えようという話だよね。よし来た」
天下の神宮寺財閥の御曹司と初ディナーと来ては。完全装備するほかあるまい。
20
あなたにおすすめの小説
譲れない秘密の溺愛
恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる