花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

美凪ましろ

文字の大きさ
13 / 45

好きじゃ足らない(3)

しおりを挟む
「先ずは乾杯と行こうか」

 グラスを近づけて微笑みあう。ライトに照らされたあなたはいまなお美しい。神が気まぐれでこしらえた精巧な人形のよう。

「じゃあ、頂きます」

「いただきまーす」無邪気に手を合わせる恋生が可愛い。ぶんぶんと尻尾をする健気なわんこみたい。

 箸を伸ばし、切り分けると肉汁があふれた。「ふぉおぉ……!」

 透明な肉汁。ハンバーグ。さっきマキノさんが作ってくれた、ハンバーグのおろし醤油かけは、見るからに食欲をそそる……!

「はむ」とほおばる。すると……鮮烈なる旨味。暴力的なほどにこちらの煩悩を刺激する。肉肉肉。肉まみれで一ミリの余談も許さない。圧倒的肉汁。

 かむとほろり、と溶けてまた消えていく。それが惜しくてまた一口。「うんま……!」

 ああいけない。天下の神宮寺財閥の御曹司を前にうんま、だなんて。美味しい、とか、言い方があるでしょう。

「花は本当美味しそうに食べるから見ていて気持ちがいいよ」と微笑み返す。と気になって、「恋生は? 食べないの?」

「俺は、きみを見ているだけで胸がいっぱい」

「またまた。はい、あーん」

「あむ」食べるのかよ。そう、食べよう。食べると活力が湧いてくる。生きてくるエネルギー。「とろける……」ととろけそうな顔をする恋生を見て思わず笑みがこぼれる。

「じゃあ、花も。はい、あーん」

 いただだきます。

 ……ってなんだこの新婚ごっこ。

 初ディナーだから気合の入りまくったご飯を想定していたが、あっさりめのハンバーグで拍子抜け。といっても、この秋の始まりにちょうどいいメニューである。まだ夏の疲れが残っていて、あんまり重たいものは食べたくないし……。

「私の大好物がハンバーグ、……って知っていたっけ?」

 グラスをあおる恋生は、「花のことならなんでも」

「そう? じゃ、付き合ってきた彼氏の人数とか、知ってる?」

 繊細な指先を示すかのように、グラスを置いた恋生は、まっすぐ私を見据え、

「いまの花にしか興味がない。過去は過去」

 そうか。「恋生って、いつの間にそんなに私のことが好きになったの?」

「出会った瞬間から」即答。迷いがない。「もう、このひとは運命だ、……って思い込んでいた。花。俺たち運命なんだよ」

 運命。恋生が言うと妙に決まるというか、異国の貴公子に見えてくるから不思議である。その整いすぎた顔立ちは日本社会ではあまりに目立つ。

「恋生って、運命とか信じるタイプなんだ?」とハンバーグを切り分けつつ、「私はいままで……信じてこなかったな。あんまり」

「僕といると信じられるようになるさ」

「そうなのね。結構強気?」

「でもないさ。こう見えて足がっくがく」

「あはは」場を和ます恋生のジョーク。このひと、こんなに恵まれていて、育ちもよくて性格も顔も頭もいいのに、ひけらかすようなことは決してしない。

「恋生は、……ねえ。なにを大切にして生きていきたい?」

「花のこと。……せっかく一緒になれたんだし、いっぱいくっついて、いっぱい、花のことを愛しまくりたい」

「そうなのね? 恋生、ちっとも食事が進んでいない……」

「俺はもう、幸せすぎてとろけそうなのよ。チーズみたいに」

「あはは。溶けたら恋生のことは私が食べてあげるね」

「花の胃袋におさまれるのなら本望だよ」

「んもう。冗談言ってばっか」

「俺はね。……自分がいままで見てきて信じてきたものをこれからも大事にして生きていきたいし、出会えた同期も、経験してきたすべてのことを、礎にして、もっともっと成長したい。欲張りなんだよ」

「夢が……あるのね恋生は」

「花だって未来は希望だらけさ。なんだって出来る」

 ふと思う。こんな、一介の小娘に過ぎない私にいったいなにが出来るというのだろう。

 分からない。ただ、純粋に、恋生のことが好きなだけ――。

「生きていれば必ずチャンスはめぐってくる」と私のこころを読んだかのように恋生は、「諦めないで、続けていれば、必ず、平等にチャンスというものは訪れる。問題はね花。チャンスがめぐってきたときに、ちゃんと準備を整えておいて、挑戦出来るか、って話なんだよ」

 チャンス。「恋生とこうなったことも、私にとってのチャンス、なのかな……」

「そうだね。少なくとも俺は、寄り添うことが出来るよ。花のしたいと思うことがあれば、応援するし、場所だって提供してやれる。――急に言われてもなにがしたいかって、すぐに答えなんて見つからないものだから、いまは、整えて、この生活に慣れて、花らしさを優先して」

「私――恋生とずっと一緒にいられるの?」

 ふわりと花が開くように笑うんだ。私の永遠の王子様は。

「勿論さ。未来永劫、離さない」

 *

「夢みたい。恋生とこうやってくっついて眠れるの……夢だったんだ」

「ふふ。我慢してたからね」

「恋生だって……」と身を起こす私は、恋生の髪を撫で、「毎晩私を置いて帰るのって、本当は辛かったんじゃない?」

「そうだね。……きみが眠るのを毎晩見届けて……」恋生の手が私へと伸びる。私の手を握り返し、「ずっとずっと一緒にいられたらいいのに、って思いながら毎晩花のアパートを後にするんだ。寂しかったよ。寂しすぎて時々夜の東京湾にドライブして、車ごと沈みたくなった」

「あはは。……恋生が死んだら私死んじゃうよ」

「死なない。生きて、生きていくんだ。一緒に」

 あまりに寝心地のいい、キングサイズのベッドに、私たちの愛が転がる。くっつきあって、足を絡ませあって、抱き合って、もう、離れない。離したくないこのぬくもりを。

「花。好きだ。……愛している」

 ぎゅっと私を抱き寄せるあなたは、私の髪に顔をうずめる。「花。……もう、離さない」

 すこし寒さの入り混じってきた人肌恋しい秋の夜。こうして私は、恋生のマンションに暮らし始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

譲れない秘密の溺愛

恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました

藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。 そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。 ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。 その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。 仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。 会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。 これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

処理中です...