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第31章 思い出
悪友
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「そう言えば……軍のどこだ?陸軍……海軍……」
監督の質問ももっともだと思った誠に笑みがこぼれる。実際、誠も幹部候補生過程修了の際には希望すれば体育学校の野球部への編入をすると教官から言われたのを断った前例がある。
「いえ、同盟司法局ですよ、僕は」
その一言で監督の目が驚きに変わった。
「あれか?この前、都心部でアサルト・モジュールを起動して格闘戦をやったあの……」
「その部隊です」
きっぱりと言い切るカウラの言葉が響く。監督の驚きはしばらくして唖然とした表情に変わる。大体が司法実働部隊と言う性格上、公表される活動はどれも司法局実働部隊の一般市民からの評価を下げるものばかりなのは十分知っていた。
「もしかして……パイロットとかをやっているわけじゃ無いだろうな」
「ええ、彼は優秀なパイロットですよ。隊長の私が保証します。現にスコアーは8機撃破。エースとして認定されています」
カウラの言葉にしばらく黙って考え事をしていた監督がぽんと手を打った。
「ああ、だからあんなふざけた塗装をしていたわけだな」
『ああ、やっぱりそうなるか』
誠は自分の機体の魔法少女のデザインで統一された塗装を思い出して苦笑いを浮かべた。あの派手を通り越してカオスだと自分でも思う痛い塗装は、全宇宙の注目を集めていた。
「そうだよなあ。お前は確かアニメ研究会にも所属して……なんだっけ?あの人形」
「フィギュアです」
「ああ、それをたくさん作って文化祭で飾ってたよな」
すべてを思い出した。そんな表情の監督を見てさすがのカウラまでも苦笑いを浮かべる状況となっていた。そして誠は悟った。このまま高校時代のネガティブな印象をカウラに植え付けることは得策とはいえないことを。
「じゃあ……僕達はこれで」
「いいのか?他の先生とかも会わないのか?」
明らかに誠の考えを読んだようにかなめを挑発するときのように目を細めてカウラがそう言った。
「いいんです!また来ますから!その時は……」
「おう!あいつ等にアドバイスとかしてくれよ!」
監督もさすがにわかっているようで部員時代は見なかったような明るい表情で立ち去ろうとする誠を見送った。
「急いでどうするんだ?そんなに」
早足で裏門から出た誠はそのまま駅の反対側に向かってそのままの勢いで歩く。後ろから先ほどの後輩達がランニングシューズに履き替えたらしく元気に走って二人を抜いていく。
「そうか……」
カウラはうれしそうに誠を見上げる。
「ランニングコースなんかの思い出を教えてくれるんだな」
「ええ……まあ、そんなところです」
実は特に理由は無かったのだが、カウラに言われてそのとおりと言うことにしておくことに決めてようやく誠の足は普通の歩く速度に落ち着いた。
常緑樹の街路樹。両脇に広がる公営団地に子供達の笑い声が響いている。カウラは安心したと言うように誠のそばについて歩いている。
「この先に川があって、そこの堤防の上を国営鉄道と私鉄の線路の間を三往復してから帰るんですよ」
誠はそう言いながら昔を思い出した。考えればいつもそう言うランニングだけは高校時代から続けてきたことが思い出される。現在も勤務時には5キロ前後のランニングを課せられており、誠の生活の軸であるランニングは昔と特に変わることは無い。
「そうなのか」
しばらく考えた後カウラは納得したようにうなづく。そしてそんな二人の前に大きな土の壁が目に入ってきた。
「あれがその堤防か?」
カウラが興味深そうに目の前の枯れた雑草が山になったような土手を指差した。誠はうなづくとなぜか走り出したい気分になっていた。
「それじゃああそこまで競争しましょう」
突然の提案。元々こう言うことを言い出すことの少ない誠の言葉にうれしそうにうなづいたカウラが走り出す。すぐに誠も続く。
およそ百メートルくらいだろう。追い上げようとした誠が少し体勢を崩したこともあり、カウラがすばやく土手を駆け上がっていくのが見えた。
「これが……お前の見てきた景色か」
息も切らさずに向こうを見つめているカウラに誠は追いついた。そしてその目の前には東都の町の姿があった。
ガスタンクや煙突など。おそらく他の惑星系では見ることの出来ない化石エネルギーに依存する割合の高い遼州らしい建物が見える。そしてその周りには高層マンションと小さな古い民家が混在している奇妙な景色。
「まあ、こうしてみると懐かしいですね」
誠は思わずそう口にしていた。
「懐かしい……か」
カウラの表情が曇った。彼女は姿こそ大人の女性だがその背後には8年と言う実感しか存在しない。彼女は生まれたときから今の姿。軍人としての知識と感情を刷り込まれて今まで生きてきた。誠のように子供時代から記憶を続けて今に至るわけではない。
「すいません」
「何で謝る……まあいいか」
そう言うとカウラはうれしそうに思い切り両手を挙げて伸びをした。
「それにしても素敵な景色だな」
川原の広がりのおかげで、対岸の町並みが一望できる堤の上。カウラは伸びの次は大きく深呼吸していた。誠は満足げにそれに見とれていた。
「お前等もそう思うだろ!」
突然カウラが後ろを向いて怒鳴るのを聞いて誠は驚いて振り向く。しばらくして枯れた雑草の根元からかなめとアイシャが顔を出した。
「なんだよ……ばれてたのかよ」
かなめが頭を掻く。アイシャはそのままニコニコしながら誠に向かって走り寄ってくる。
「大丈夫?誠ちゃん。怖くなかった?襲われたりしなかった?」
「私は西園寺じゃないんだ」
「カウラ言うじゃねえか……それに誰がこいつを襲うんだ?」
突然の二人の登場に困惑している誠を尻目に三人は勝手に話を進める。
「そりゃあ襲うと言えばかなめちゃんでしょ?」
アイシャは誠が困惑するのとかなめが切れるのが面白いと言うように挑発的な視線をかなめに向ける。
「人を色魔みたいに言いやがって……」
「怖い!誠ちゃん助けて!」
胸倉をつかもうとするかなめをかわしてアイシャが狙い通り抱きついてくる。誠はただ呆然と立ち尽くしてまとわりついてくるアイシャを受け止めるしかなかった。わざと胸の当たりを押し付けてくる感覚に苦笑いを浮かべながら誠はカウラを見る。
「もしかしてカウラさんかなり前から気づいてました?」
さらに胸を押し付けてくるアイシャを引き剥がそうとしながら誠はカウラに声をかけた。
「駅を出たときにはすでに尾行されていたのがわかった。さっき走ったときにはかなりあわてて飛び出していたから神前もわかっていると思ったんだが……」
そう言うとカウラはいかにも不満そうな顔を誠に向ける。相変わらずアイシャは誠にしがみついている。
「いい加減離れろ!」
アイシャの首根っこをつかんだかなめが引っ張るのでようやくアイシャは誠から離れた。
「勝手に尾行したのは悪かったけどな……」
そう言うとかなめはカウラの首のマフラーの先を手に取った。
「うわ!」
思い切りその端の縫い取りに向けてかなめが怒鳴った。突然の出来事にアイシャが思わず誠から手を離した。そしてそれを見てかなめは満足げにうなづく。
「あれ見て」
すぐに我に返ったアイシャが指をさす対岸の遊歩道に、耳を押さえて座り込む男女の姿があった。
「島田先輩……」
さすがに目立つ赤い髪の色のサラをつれている島田が耳を押さえて立ちすくむ姿は百メートル以上離れていても良くわかった。
「盗聴器まで仕掛けて……あの馬鹿。暇なのか?姐御に言いつけるぞ?」
かなめが舌打ちをする。そして島田達と同じように耳を押さえながら土手をあがってくるのは菰田と警備部の面々だった。
「ばれてたんですか……」
お手上げと言うように頭を掻く菰田をカウラがにらみつける。
「隊長だな。こう言うことを仕込む悪趣味な人は」
そう言ってカウラは菰田が手にしている小さなケースを取り上げる。
「悪趣味はよしてもらいたいですね」
カウラは一言ケースにそう言うとそのケースを握りつぶした。
監督の質問ももっともだと思った誠に笑みがこぼれる。実際、誠も幹部候補生過程修了の際には希望すれば体育学校の野球部への編入をすると教官から言われたのを断った前例がある。
「いえ、同盟司法局ですよ、僕は」
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きっぱりと言い切るカウラの言葉が響く。監督の驚きはしばらくして唖然とした表情に変わる。大体が司法実働部隊と言う性格上、公表される活動はどれも司法局実働部隊の一般市民からの評価を下げるものばかりなのは十分知っていた。
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カウラの言葉にしばらく黙って考え事をしていた監督がぽんと手を打った。
「ああ、だからあんなふざけた塗装をしていたわけだな」
『ああ、やっぱりそうなるか』
誠は自分の機体の魔法少女のデザインで統一された塗装を思い出して苦笑いを浮かべた。あの派手を通り越してカオスだと自分でも思う痛い塗装は、全宇宙の注目を集めていた。
「そうだよなあ。お前は確かアニメ研究会にも所属して……なんだっけ?あの人形」
「フィギュアです」
「ああ、それをたくさん作って文化祭で飾ってたよな」
すべてを思い出した。そんな表情の監督を見てさすがのカウラまでも苦笑いを浮かべる状況となっていた。そして誠は悟った。このまま高校時代のネガティブな印象をカウラに植え付けることは得策とはいえないことを。
「じゃあ……僕達はこれで」
「いいのか?他の先生とかも会わないのか?」
明らかに誠の考えを読んだようにかなめを挑発するときのように目を細めてカウラがそう言った。
「いいんです!また来ますから!その時は……」
「おう!あいつ等にアドバイスとかしてくれよ!」
監督もさすがにわかっているようで部員時代は見なかったような明るい表情で立ち去ろうとする誠を見送った。
「急いでどうするんだ?そんなに」
早足で裏門から出た誠はそのまま駅の反対側に向かってそのままの勢いで歩く。後ろから先ほどの後輩達がランニングシューズに履き替えたらしく元気に走って二人を抜いていく。
「そうか……」
カウラはうれしそうに誠を見上げる。
「ランニングコースなんかの思い出を教えてくれるんだな」
「ええ……まあ、そんなところです」
実は特に理由は無かったのだが、カウラに言われてそのとおりと言うことにしておくことに決めてようやく誠の足は普通の歩く速度に落ち着いた。
常緑樹の街路樹。両脇に広がる公営団地に子供達の笑い声が響いている。カウラは安心したと言うように誠のそばについて歩いている。
「この先に川があって、そこの堤防の上を国営鉄道と私鉄の線路の間を三往復してから帰るんですよ」
誠はそう言いながら昔を思い出した。考えればいつもそう言うランニングだけは高校時代から続けてきたことが思い出される。現在も勤務時には5キロ前後のランニングを課せられており、誠の生活の軸であるランニングは昔と特に変わることは無い。
「そうなのか」
しばらく考えた後カウラは納得したようにうなづく。そしてそんな二人の前に大きな土の壁が目に入ってきた。
「あれがその堤防か?」
カウラが興味深そうに目の前の枯れた雑草が山になったような土手を指差した。誠はうなづくとなぜか走り出したい気分になっていた。
「それじゃああそこまで競争しましょう」
突然の提案。元々こう言うことを言い出すことの少ない誠の言葉にうれしそうにうなづいたカウラが走り出す。すぐに誠も続く。
およそ百メートルくらいだろう。追い上げようとした誠が少し体勢を崩したこともあり、カウラがすばやく土手を駆け上がっていくのが見えた。
「これが……お前の見てきた景色か」
息も切らさずに向こうを見つめているカウラに誠は追いついた。そしてその目の前には東都の町の姿があった。
ガスタンクや煙突など。おそらく他の惑星系では見ることの出来ない化石エネルギーに依存する割合の高い遼州らしい建物が見える。そしてその周りには高層マンションと小さな古い民家が混在している奇妙な景色。
「まあ、こうしてみると懐かしいですね」
誠は思わずそう口にしていた。
「懐かしい……か」
カウラの表情が曇った。彼女は姿こそ大人の女性だがその背後には8年と言う実感しか存在しない。彼女は生まれたときから今の姿。軍人としての知識と感情を刷り込まれて今まで生きてきた。誠のように子供時代から記憶を続けて今に至るわけではない。
「すいません」
「何で謝る……まあいいか」
そう言うとカウラはうれしそうに思い切り両手を挙げて伸びをした。
「それにしても素敵な景色だな」
川原の広がりのおかげで、対岸の町並みが一望できる堤の上。カウラは伸びの次は大きく深呼吸していた。誠は満足げにそれに見とれていた。
「お前等もそう思うだろ!」
突然カウラが後ろを向いて怒鳴るのを聞いて誠は驚いて振り向く。しばらくして枯れた雑草の根元からかなめとアイシャが顔を出した。
「なんだよ……ばれてたのかよ」
かなめが頭を掻く。アイシャはそのままニコニコしながら誠に向かって走り寄ってくる。
「大丈夫?誠ちゃん。怖くなかった?襲われたりしなかった?」
「私は西園寺じゃないんだ」
「カウラ言うじゃねえか……それに誰がこいつを襲うんだ?」
突然の二人の登場に困惑している誠を尻目に三人は勝手に話を進める。
「そりゃあ襲うと言えばかなめちゃんでしょ?」
アイシャは誠が困惑するのとかなめが切れるのが面白いと言うように挑発的な視線をかなめに向ける。
「人を色魔みたいに言いやがって……」
「怖い!誠ちゃん助けて!」
胸倉をつかもうとするかなめをかわしてアイシャが狙い通り抱きついてくる。誠はただ呆然と立ち尽くしてまとわりついてくるアイシャを受け止めるしかなかった。わざと胸の当たりを押し付けてくる感覚に苦笑いを浮かべながら誠はカウラを見る。
「もしかしてカウラさんかなり前から気づいてました?」
さらに胸を押し付けてくるアイシャを引き剥がそうとしながら誠はカウラに声をかけた。
「駅を出たときにはすでに尾行されていたのがわかった。さっき走ったときにはかなりあわてて飛び出していたから神前もわかっていると思ったんだが……」
そう言うとカウラはいかにも不満そうな顔を誠に向ける。相変わらずアイシャは誠にしがみついている。
「いい加減離れろ!」
アイシャの首根っこをつかんだかなめが引っ張るのでようやくアイシャは誠から離れた。
「勝手に尾行したのは悪かったけどな……」
そう言うとかなめはカウラの首のマフラーの先を手に取った。
「うわ!」
思い切りその端の縫い取りに向けてかなめが怒鳴った。突然の出来事にアイシャが思わず誠から手を離した。そしてそれを見てかなめは満足げにうなづく。
「あれ見て」
すぐに我に返ったアイシャが指をさす対岸の遊歩道に、耳を押さえて座り込む男女の姿があった。
「島田先輩……」
さすがに目立つ赤い髪の色のサラをつれている島田が耳を押さえて立ちすくむ姿は百メートル以上離れていても良くわかった。
「盗聴器まで仕掛けて……あの馬鹿。暇なのか?姐御に言いつけるぞ?」
かなめが舌打ちをする。そして島田達と同じように耳を押さえながら土手をあがってくるのは菰田と警備部の面々だった。
「ばれてたんですか……」
お手上げと言うように頭を掻く菰田をカウラがにらみつける。
「隊長だな。こう言うことを仕込む悪趣味な人は」
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