レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第7章 小さな騎士

『アメリカ組』

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「ずいぶんと森が深くなりましたね 」 

 クリスは退屈していた。食事を済ませ、こうして森の中を進み続けてもう六時間経っている。時折、嵯峨は小休止をとりそのたびに端末を広げて敵の位置を確認していた。共和軍の主力は北兼台地の鉱山都市の基地に入り、動きをやめたことがデータからわかった。そこから索敵を兼ねたと思われるアサルト・モジュール部隊がいくつか展開しているが未だ嵯峨の部下達との接触は無い。

「なるほど、あちらも持久戦を覚悟しましたか 」 

 そう言って笑った嵯峨だが、正直あまり納得しているような顔ではなかった。

「あと30分くらいで合流できそうですね 」 

 嵯峨はそう言うと吸い終わったタバコを灰皿でもみ消した。

「この森には、人の手がまるで入っていないみたいですけど。なにかいわれでもあるのですか? 」 

 クリスは変わらない景色を眺めながら、自分用の端末で今日の出来事を記事にまとめ終わると嵯峨にそう尋ねた。嵯峨もその言葉に頷きながら意識したとでも言うように両脇に広がる巨木を見上げている。

「遼南王家にはこんな言い伝えがありましてね。初代女帝ムジャンタ・カオラが地球人移民達と独立のために立ち上がった時、この森に眠っていた騎士の助けを借りて戦ったと。その騎士はまるで幼い少女のような姿でありながら、一千万の地球軍に立ち向かい勝利した。独立がなりカオラが即位すると、騎士は再びこの森に帰り長い眠りについた。まあ良くある与太話ですよ 」 

 そう言って皮肉めいた笑いを浮かべる嵯峨。こう言う昔語りには一番向かない顔をしている。クリスが思ったのはそんなことだった。

「なるほど、そんな話があっても不思議ではない森のたたずまいですね 」 

 ただ森は際限なく続き手のつけられた形跡の無い木々がモニターの外を通り抜けていく。

「それに今じゃあ『悪魔の森』と呼ばれて遊牧民も近づかない秘境ですよ。共和軍の兵隊も本音はここに入り込みたくな……! 」 

 嵯峨は不意に機体に制動をかけた。

「なんですか? 」 

「敵さん動きましたね。相手も頭を使ったってことですか? 」 

 そう言うとすばやく四式のサーベルを抜いてモニターに地図を表示させる。

「この動き、新手だな。しかも配置は悪くない。それなりの手だれが隠れてたってわけですか 」 

 嵯峨はしばらく敵の動きを待っていた。地図上のレーダーで捕らえた敵アサルト・モジュールの他に北兼軍の機体を示す正親町連翹のマークが三つ動いている。

「セニア、御子神、柴崎か。対して相手は七機。行くしかないかねえ 」 

 そう言うと嵯峨は一番手前の敵を示すランプの方へと機体を向けた。

「ブリフィスの。大丈夫か? 」 

 嵯峨はいきなりセニアへの通信画面を開いた、驚いたような顔をするセニア。

「いきなり通信入れないでください! 」 

 声は驚いているようだったが表情にその面影は無かった。クリスはやはり彼女が作られた存在であることを確認する。戦う為に作られた彼女の意識はそのように作られているんだろう。クリスはそう思いながら表情に乏しいセニアが画面に映っているのを眺めていた。

「突然で悪かったねえ。本隊はどうした? 」 

 嵯峨は戦闘中だというのにまたタバコを取り出して口にくわえた。

「本隊は現在拠点予定の村の下にある保養所跡に本部を建設中です 」 

「そうか、ならいい。敵さんも狙いは良いんだが! 」 

 そう言うと嵯峨はパルスエンジンを全開にして機体を飛び上がらせる。隠密侵攻中であ
った敵の胡州からの輸入アサルト・モジュール一式は完全に裏をかかれる形になり、レールガンの掃射の煙の中に飲み込まれて火を噴いた。 

「隊長! 俺達の分も取っといてくださいよ! 」 

 画面が開き町のチンピラと言う感じの若いパイロットの顔が映る。

「柴崎。お前なあ、一機でも敵を倒してからその台詞吐けよ! 」 

 地図の上の御子神の機体が敵編隊の左翼に接触したのを示している。嵯峨に気づいた御子神の表情が変わった。それを合図に柴崎とセニアも緊張したような表情を浮かべていた。

「ホプキンスさん。これからちょっと無茶しますんで! 」 

 そう言って着地した嵯峨の四式。一気に一番近い二機の一式への攻撃を開始する。見かけない装備を取り付けた共和軍の一式は強襲型の装備を積んでいるらしく、ミサイルの雨が降り注いだ。

「それは織り込み済みだ! 」 

 嵯峨は制動をかけると、いったん森の中に引いた。

「火力で押す? それにしてはさっきのミサイルの使用は命取りだったな 」 

 爆炎で見失った嵯峨を確認しようと飛び上がった一式の強襲仕様。しかし、嵯峨のレールガンはそのコックピットに照準をつけていた。

「さよならだ! 」 

 次第に赤みを帯びていく空に閃光が走る。一式のコックピットが貫かれて、そのまま大地に墜落していった。後ろに回り込もうとホバリングして森を走る標準装備の一式。嵯峨はそのままレールガンの銃口を向け、そのわき腹にレールガンを叩き込んだ。一式はエンジンを破壊されて炎に包まれる。

「隊長! 支援お願いします! 御子神が! 」

 突然のうろたえた声にクリスは動揺した。声の主は先ほどの無表情な人造人間のセニア。だが、明らかに彼女は驚き慌てているように声を震わせている。

『馬鹿な……。彼女は人造人間。兵器なんだぞ 』 

 そう思い込みながらクリスはこの機体の主の後頭部を眺めていた。 

「セニア、そんなに焦りなさんな。まだ後方に一機動いていないのがいる、それをやれ 」 

 そう指示を出すと、三機の敵機に苦戦している御子神と柴崎の援護に回った。

「あいつ等も戦闘経験は積んでるんだがねえ 」 

 嵯峨は一人つぶやくと火線の行きかう戦場へと低空を突っ切りながら進む。

「みんなあなたのように戦えるわけじゃないでしょう 」 

 そんなクリスの言葉に、皮肉のこもった笑みで振り返る嵯峨。

「また、無理させてもらいますよ! 」 

 火の付いていないタバコをくわえながら、嵯峨は敵の背後に着地した。共和軍のマーキングを取ってつけたような塗装の一式は背後に一機、警戒のために残してあった。

「コイツはアメリカ組だな! 」 

 そう言うと嵯峨はタバコを手にとって胸のポケットに戻した。格段に動きの違う三機の一式。嵯峨の言う『アメリカ組』の意味は米軍との軍事交流でアメリカでの訓練を経験したエースと言うことなのだろうとクリスは推察した。

 動きだけではなく、嵯峨の激しい機動を持ってしても死角を取ることが出来ない。嵯峨の四式はフレーム以外の部品がすべて換装されているとはいえ、先の大戦末期に開発された古い機体である。胡州が輸出用に5年前に開発した一式に比べれば性能面の差は歴然としていた。

「おい! 御子神! もっと一機に火線を集中しろ! 」 

「しかし! このままでは柴崎が! 」

 御子神の言葉の通りだった。マップでは明らかに柴崎の動きが鈍い機体を共和軍の実戦慣れしたパイロットは潰しにかかっていた。 

「浩二! テメエは下手なんだ! 逃げて囮になれ! 」 

 嵯峨はそう言いながら後方に陣取った指揮官機らしい一式の射撃に耐えていた。

「セニア! まだそっちは片付かないか! 」 

「動きは止めました! どうにか……うわ! 」 

 今度は明らかに驚いた表情のセニア。クリスも突然の出来事に目を見開く。

「ブリフィス大尉! 」 

 御子神の叫び声が響く。

「動きを止めても油断するな! 下手に情けをかければ死ぬぞ! 」 

 嵯峨はそう言うと、背後に気配を感じたように振り向いた敵一式に強襲を掛けた。虚を突かれた一式はレールガンを向けようと振り返ったが、それは遅すぎた。嵯峨の四式のサーベルがコックピットに突き立てられる。

「上には上がいるんだ。あの世で勉強しな! 」 

 一式はそのまま仰向けに倒れる。嵯峨は地図を見た。明らかに残り二機の敵の動きが単調になった。

「御子神。そいつ等お前にやろうか? 」 

「大丈夫です! 柴崎! 俺に続け! 」 

 御子神と柴崎の二式が遅れていた共和軍の一式を捉えた。

「じゃあ、残りは俺が食うかねえ 」 

 そう言うと嵯峨は敗走する一式の到達予測地点へと愛機を進めた。

「中佐! 弾が切れました! 」 

 柴崎の声が響く、思わず頭に手をやる嵯峨。

「お前、バカスカ撃ち過ぎなんだよ! もっと狙って撃て。御子神、援護しろ! 敵さんも疲れてきているはずだ 」 

 嵯峨はようやく捉えた敵の一式を追う。森の色と同じ色の二式が、灰色の一式に火線をあわせた。

「馬鹿! 正面から食らわしても無駄だ! 動いて側面を取れ! 」 

 嵯峨の言葉に不器用に反応する御子神の二式。

「セニア・ブリフィス! 敵機狙撃ポイントを確保しました! 」 

「よし! 喰っちまえ! 」 

 嵯峨の言葉と共に、嵯峨から逃げることで精一杯の一式の背中をロングレンジでのレールガンの火線が貫いた。火に包まれる僚機を見て背を見せて逃げ出す一式。 
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