虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま

文字の大きさ
28 / 71

28 お茶会1

しおりを挟む
 お茶会は二週間後で、場所は王太子宮内にあるサロンだという。シーナはその日に向けてマリベルから色々と教わった。
 マリベルは元々アグネスの侍女だったので、社交界のことはよく知っているのだ。母が亡くなってからは社交から遠ざかったが、当時の作法はいまだに変わることなく受け継がれているので、影響はないだろうとの事だった。

「アグネス様もとんでもない美人だったからね。そりゃあもう、令嬢たちのやっかみが多かったのよ」

「ふうん……。お母さまもいじめられたりしたのかしら」

「いじめはあったけど、アグネス様は見た目に反して強いお方だったからねぇ。可憐な顔でニコッと笑いながら嫌味を受け流すと、大抵の娘さんはすごすごと引き下がっていったよ。でも今日お会いする方は手強いかもしれない。なんたって王太子の婚約者だし……しかもマシュウ様とはいとこ同士だからね。自分も王族みたいな気分なんだろうよ」

 お茶会が開かれる日、シーナの髪を結いながらマリベルが言った。マシュウの母はダゥゼン公爵の妹なので、シェリアンヌとマシュウはいとこという間柄なのだ。プライドが高くなるのも分かる気がする。

 今日のシーナはいつもとは違い、髪を編みこみにして後ろでひとつにまとめるスタイルにした。まだ若いがすでに夫人となったのだから、侮られないためにも髪は下ろさない方がいいらしい。髪を結い上げたシーナを見たマリベルは「アグネス様そっくりだね」と懐かしそうに呟いた。

 最後にネックレスと耳飾りをつけて支度を終える。ルターナの指輪がついたネックレスは首にはつけず、ドレスの胸元に隠しておいた。

「さ、これでいいわ。派手に飾るより上品なほうがいいでしょ。なんたって、公爵夫人ですもんね。シーナ、レクオン様に用意して頂いた物は持った?」

「うん、大丈夫」

 用意を終えたシーナとマリベルは、レクオンの執務室へ向かった。着飾った妻の姿をみたレクオンは眩しそうに目を細めたが、すぐに心配そうな顔になる。

「つらかったらすぐ戻っていいんだぞ。マリベル、シーナのことをよろしく頼む」

「お任せくださいませ」

「行って参りますね、レクオン様」

 シーナが挨拶すると、彼は不安そうな表情のまま妻の頬に軽いキスをした。エントランスにはレクオンに命じられた騎士が控えており、今日の護衛を務めるという。馬車のなかにシーナとマリベルが乗り、騎士は騎乗して王宮へ向かった。古城からだと一時間ほどだ。

 街道を進んでいると、物欲しそうな顔で道の端に佇む子供の姿が見えた。家には人影がなく、王都を離れだした人々もいるようだ。

「あの子供たちに、なにかしてやれる事はないかしら……。このままじゃ王都が寂れちゃうような気がするわ」

「そうねぇ……。バザーを開いてみたらどうかしらね。平民の人たち向けに、かなり安い金額で提供したら喜んでもらえるかもしれないよ。公爵夫人が開催するなら、かなり人が集まるでしょうね」

「バザーはいちど見たことがあるわ。お姉さまの代わりをしたときに……。その時は通りすぎただけだったけど、確かにすごく安かった。お茶会が終わったら考えてみるわ」

 マリベルと話している間に王宮の門をくぐったが、馬車はとまることなく王太子宮へ進む。王宮は広大なので、門で馬車を降りた場合かなり歩くことになるらしい。窓から外を見ると他にも馬車が走っていて、お茶会に参加する令嬢が乗っている様子だ。

 王太子宮の近くで馬車を降り、マリベルと騎士を伴って会場まで歩く。サロンに到着すると騎士は外で待つと告げた。本当に女性限定のお茶会なのだ。

「まぁ……本当に女性ばかりだわ」

 サロンに足を踏み入れた瞬間、思わずひとり言がもれた。右も左も女性ばかり。こんな世界があったなんて驚きだ。令嬢たちはシーナを見ると、扇で口元を隠しながらひそひそと何か囁いている。

「わたし、なにか変かしら?」

「ふふ、シーナが社交界で噂になってる公爵夫人だからよ。令嬢たちの憧れだったレクオン様が迎えた妻だし、すごい美人だからね……。なにか言わないと気がすまないのよ」

 そんなものだろうか。シーナは今まで生きるだけで精一杯だったので、他人の容姿や噂に耳を傾ける余裕はなかった。でもマリベルによると、貴族の令嬢というのはかなり暇を持て余すものらしい。だから噂に夢中になるのよ、とマリベルは呆れた口調で呟いていたものだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。 楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。  皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!  ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。  聖女はあちらでしてよ!皆様!

完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。

水鳥楓椛
恋愛
 男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

処理中です...