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29 お茶会2
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「ヴェンシュタイン公爵夫人でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうです」
サロンのなかを散歩するように歩いていると、ふいに一人の女官が声をかけてきた。彼女はこちらへどうぞとシーナを促し、ひとつのテーブルへ案内する。サロンのほぼ中心に位置するテーブルで、ひとつの椅子を除いてすべて席が埋まっていた。他のテーブルはまだ椅子が空いているのに。
後ろを歩くマリベルが、小声で「あの方がシェリアンヌ様でしょう」と囁いた。シーナも軽くうなずきを返す。赤みがかったダークブラウンの髪、髪と同じ色の瞳――そして、鷲のように少し曲がった鼻。レクオンから聞いていた特長そのままだ。
シェリアンヌはテーブルを支配するかのように、堂々と座ってシーナを見つめている。ひとつだけ空いている椅子の前で、事前に打ち合わせたとおりにカーテシーをした。
公爵夫人であるシーナはこの場で最も身分の高い女性だが、社交界においてはまだ新参者だ。こびへつらう必要はないが、礼は先にしたほうがいいだろうとマリベルは助言したのだった。
「今日はお招きいただき、ありがとうございます。ヴェンシュタイン公爵が妻、シーナと申します」
「あなたがシーナ様ね。どうぞ、お座りになって」
マリベルが椅子を引き、それに合わせて腰かける。シーナが座ると他の令嬢たちも倣って次々と席につき始めた。王太子宮の女官がテーブルを回り、お茶とお菓子の用意をする。まだ婚約者という立場なのに、王太子宮をいいように使うシェリアンヌに驚いてしまった。
(本当は今日のお茶会だって、ダゥゼン公爵の屋敷でするべきだとレクオン様は言ってたわ……)
シェリアンヌがわざわざ王太子宮を指定したのは、国内の貴族に自分の権力を示すためだ。本来は婚約者といえど気軽に王宮に出入りすべきではない。気弱なマシュウがなにも言えないと分かっていて、王太子宮でのお茶会を強引に決めたのだろう。
お茶会が始まり、あちこちから朗らかな笑い声が聞こえてくる。が、シーナがついたテーブルは静まり返り、シェリアンヌ以外の令嬢はちらちらとシーナを見たりシェリアンヌを見たりと視線だけは忙しい。
彼女たちを観察する内に、みんな胸元に大きなブローチをしているのに気づいた。シェリアンヌは髪と瞳の色に合わせたようなルビーで、他の令嬢はサファイアやエメラルド、トパーズなど色も様々だ。
これがマリベルから聞いた取り巻きというものだろうか? シーナは新鮮な気持ちで彼女たちの様子を眺めた。
「シーナ様は、フェラーズ出身だそうですわね」
シェリアンヌが口を開くと、テーブルの周囲の空気がぴりっと締まるような感覚がした。取り巻きの令嬢たちが緊張している。
「ええ、そうです」
「じゃあ大変だわね」
大変――なにがだろう。シーナはきょとんとして問いかけた。
「なにがでしょうか? 特に大変な目には会ってませんけれど……」
「フェラーズは王都からかなり遠い、田園地帯にあるでしょう。馬車で五日はかかるんじゃないかしら。ご実家が遠いと何かと不便でしょう?」
口調は優しげだが、要するにシーナのことを田舎ものと馬鹿にしているらしい。ダゥゼンは大都市で人口も多いので、自分は都会出身だと自慢したいのだ。
周りに座った令嬢たちがシェリアンヌに合わせるようにくすくす笑っている。シーナも彼女たちに負けじと、にっこり微笑んだ。
「そうですね、とても風光明媚な場所です。自然が豊かで食べ物が美味しいですよ」
フェラーズに行ったことは一度もないので、レクオンから聞いたとおりのことを口に出した。シーナは王都から離れたことなどほとんどないが、ぎっしりと建物で埋め尽くされた王都に比べればフェラーズの方が景色は美しいだろう。
シーナの隣に座った令嬢が「は?」と変な声を出し、シェリアンヌはつまらなそうな顔をする。取り巻きのひとりがシェリアンヌの様子を伺いつつ、呆れた声した。
「それを田舎って言うんでしょう。嫌味だと気づかないなんて鈍感すぎるんじゃないかしら。空気を読まないと、貴族社会では生きていけませんよ」
「あら、今のは嫌味のうちに入りませんわ。フェラーズが素敵な場所なのは本当ですもの」
「すみませんねぇ。シーナ様は異様に打たれ強いお方で、嫌味を嫌味だと気づかないことも多いんですよ」
シーナの後ろに控えたマリベルが、ひどくのんびりした口調でいう。実際、シェリアンヌの嫌味なんて可愛いものだ。グレッグとイザベルからはもっとひどい罵倒を受けていたのだから。
シーナとマリベルを交互に見たシェリアンヌは、真っ赤な舌でぺろりと唇をなめた。茶褐色の瞳には獲物を見つけたかのような光が宿っている。
「久しぶりに面白い方に出会えたわ。もっとお話を伺ってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」
シェリアンヌは香りを楽しむようにゆっくり紅茶を飲んだあと、扇を少し開いて口元を隠した。扇の端から彼女の大きな口が笑っているのが見える。
「シーナ様は、レクオン殿下の婚約者だったルターナ様にそっくりだわね。どうしてなのかしら?」
「ルターナはわたしの姉です。わたし達はどちらも母に似たので同じ顔なのです」
「レクオン殿下ったら、よほどシーナ様のお顔が好きなのねぇ」
「亡くなった婚約者の妹を、代わりのように妻にするなんてね。恋愛結婚で羨ましいですわ。顔をうまく使いましたのね」
くすくす、くすくす――。取り巻きたちが小鳥の囀りのように楽しげに笑う。口元を扇で隠す姿は上品だが、口にした言葉はひどいものだ。
(反論はもう少し待った方がいいわよね)
ちらりとマリベルへ視線を投げかけると、彼女はふっと母親のように微笑む。こんな嫌味は序の口だというサインだ。シーナは黙したまま、温かい紅茶をひとくち飲んだ。反論しないシーナになにを思ったのか、シェリアンヌはさらに上機嫌になる。
「ええ、そうです」
サロンのなかを散歩するように歩いていると、ふいに一人の女官が声をかけてきた。彼女はこちらへどうぞとシーナを促し、ひとつのテーブルへ案内する。サロンのほぼ中心に位置するテーブルで、ひとつの椅子を除いてすべて席が埋まっていた。他のテーブルはまだ椅子が空いているのに。
後ろを歩くマリベルが、小声で「あの方がシェリアンヌ様でしょう」と囁いた。シーナも軽くうなずきを返す。赤みがかったダークブラウンの髪、髪と同じ色の瞳――そして、鷲のように少し曲がった鼻。レクオンから聞いていた特長そのままだ。
シェリアンヌはテーブルを支配するかのように、堂々と座ってシーナを見つめている。ひとつだけ空いている椅子の前で、事前に打ち合わせたとおりにカーテシーをした。
公爵夫人であるシーナはこの場で最も身分の高い女性だが、社交界においてはまだ新参者だ。こびへつらう必要はないが、礼は先にしたほうがいいだろうとマリベルは助言したのだった。
「今日はお招きいただき、ありがとうございます。ヴェンシュタイン公爵が妻、シーナと申します」
「あなたがシーナ様ね。どうぞ、お座りになって」
マリベルが椅子を引き、それに合わせて腰かける。シーナが座ると他の令嬢たちも倣って次々と席につき始めた。王太子宮の女官がテーブルを回り、お茶とお菓子の用意をする。まだ婚約者という立場なのに、王太子宮をいいように使うシェリアンヌに驚いてしまった。
(本当は今日のお茶会だって、ダゥゼン公爵の屋敷でするべきだとレクオン様は言ってたわ……)
シェリアンヌがわざわざ王太子宮を指定したのは、国内の貴族に自分の権力を示すためだ。本来は婚約者といえど気軽に王宮に出入りすべきではない。気弱なマシュウがなにも言えないと分かっていて、王太子宮でのお茶会を強引に決めたのだろう。
お茶会が始まり、あちこちから朗らかな笑い声が聞こえてくる。が、シーナがついたテーブルは静まり返り、シェリアンヌ以外の令嬢はちらちらとシーナを見たりシェリアンヌを見たりと視線だけは忙しい。
彼女たちを観察する内に、みんな胸元に大きなブローチをしているのに気づいた。シェリアンヌは髪と瞳の色に合わせたようなルビーで、他の令嬢はサファイアやエメラルド、トパーズなど色も様々だ。
これがマリベルから聞いた取り巻きというものだろうか? シーナは新鮮な気持ちで彼女たちの様子を眺めた。
「シーナ様は、フェラーズ出身だそうですわね」
シェリアンヌが口を開くと、テーブルの周囲の空気がぴりっと締まるような感覚がした。取り巻きの令嬢たちが緊張している。
「ええ、そうです」
「じゃあ大変だわね」
大変――なにがだろう。シーナはきょとんとして問いかけた。
「なにがでしょうか? 特に大変な目には会ってませんけれど……」
「フェラーズは王都からかなり遠い、田園地帯にあるでしょう。馬車で五日はかかるんじゃないかしら。ご実家が遠いと何かと不便でしょう?」
口調は優しげだが、要するにシーナのことを田舎ものと馬鹿にしているらしい。ダゥゼンは大都市で人口も多いので、自分は都会出身だと自慢したいのだ。
周りに座った令嬢たちがシェリアンヌに合わせるようにくすくす笑っている。シーナも彼女たちに負けじと、にっこり微笑んだ。
「そうですね、とても風光明媚な場所です。自然が豊かで食べ物が美味しいですよ」
フェラーズに行ったことは一度もないので、レクオンから聞いたとおりのことを口に出した。シーナは王都から離れたことなどほとんどないが、ぎっしりと建物で埋め尽くされた王都に比べればフェラーズの方が景色は美しいだろう。
シーナの隣に座った令嬢が「は?」と変な声を出し、シェリアンヌはつまらなそうな顔をする。取り巻きのひとりがシェリアンヌの様子を伺いつつ、呆れた声した。
「それを田舎って言うんでしょう。嫌味だと気づかないなんて鈍感すぎるんじゃないかしら。空気を読まないと、貴族社会では生きていけませんよ」
「あら、今のは嫌味のうちに入りませんわ。フェラーズが素敵な場所なのは本当ですもの」
「すみませんねぇ。シーナ様は異様に打たれ強いお方で、嫌味を嫌味だと気づかないことも多いんですよ」
シーナの後ろに控えたマリベルが、ひどくのんびりした口調でいう。実際、シェリアンヌの嫌味なんて可愛いものだ。グレッグとイザベルからはもっとひどい罵倒を受けていたのだから。
シーナとマリベルを交互に見たシェリアンヌは、真っ赤な舌でぺろりと唇をなめた。茶褐色の瞳には獲物を見つけたかのような光が宿っている。
「久しぶりに面白い方に出会えたわ。もっとお話を伺ってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」
シェリアンヌは香りを楽しむようにゆっくり紅茶を飲んだあと、扇を少し開いて口元を隠した。扇の端から彼女の大きな口が笑っているのが見える。
「シーナ様は、レクオン殿下の婚約者だったルターナ様にそっくりだわね。どうしてなのかしら?」
「ルターナはわたしの姉です。わたし達はどちらも母に似たので同じ顔なのです」
「レクオン殿下ったら、よほどシーナ様のお顔が好きなのねぇ」
「亡くなった婚約者の妹を、代わりのように妻にするなんてね。恋愛結婚で羨ましいですわ。顔をうまく使いましたのね」
くすくす、くすくす――。取り巻きたちが小鳥の囀りのように楽しげに笑う。口元を扇で隠す姿は上品だが、口にした言葉はひどいものだ。
(反論はもう少し待った方がいいわよね)
ちらりとマリベルへ視線を投げかけると、彼女はふっと母親のように微笑む。こんな嫌味は序の口だというサインだ。シーナは黙したまま、温かい紅茶をひとくち飲んだ。反論しないシーナになにを思ったのか、シェリアンヌはさらに上機嫌になる。
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