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27 レクオンとマシュウ2
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「なぜ王太子だと言わない?」
「僕みたいなお飾りの王太子が威張ったところで、格好悪いだけだから……。僕、兄上のお嫁さんに挨拶したかったんです。本当に綺麗な方ですね……。お会いできて良かった」
やはりレクオンの弟のようだ。マシュウが握手を求めてきたので、シーナも彼の手を握った。とても華奢な手で、細い指は女性みたいだ。こんなところもレクオンとは全く違う。
(この方が、王太子……)
マシュウがいつ王太子になったのか、グラーダにいたシーナは当然知らない。でも何となく、レクオンが公爵になると決めた時期と重なるのではないか、レクオンは弟に王太子の座を譲ったのではないのか――そんな気がする。
「もう王宮へ戻れ。おまえが長く席を外すのはまずい。それにおまえの本当の目的は、俺にややこしい公務を押し付けるためだろう。手に持ったその紙の束は何なんだ」
「……すみません。そういわれたら返す言葉もないです……。でも兄上だって、なにもこんな森の中に引っ込まなくてもいいでしょう。王宮には数え切れないほど部屋があるのに」
「俺がどこで暮らそうが俺の勝手だろ」
全く似ていない兄弟だが、仲は悪くないらしい。レクオンはつっけんどんな口調だけど、二人の間には親しい空気があった。
しばらく微笑ましい兄弟げんかのようなものを繰り返したのち、レクオンがマシュウの背を押して無理やり帰らせようとする。マシュウは慌てて一つの封筒をシーナに差し出した。上品な香水の香りがする封筒だ。
「シーナさんにも渡すものがあったんです。あなたをお茶会に誘いたいらしくて……僕の婚約者が」
「あの女がお茶会だと? シーナ、行かなくていい。きっと嫌な思いをするぞ」
「行きます」
『あの女』と口走った辺りでレクオンの顔はひどい渋面だったが、シーナが行くと答えたらさらに苦々しい顔になった。
「あのな。お茶会なんて言葉の響きはいいが、内容はひどいものだぞ? テーブルを囲んでひとりの令嬢をネチネチ嫌味でいじめたり、ひどいときには熱いお茶をかけたりするんだ。しかもこのお茶会は女性しか参加できないから、俺は守ってやれないし……」
「マリベルに来てもらいます。それにわたし、嫌味とかいじめられたりするのは慣れてますから」
「いつの間にそんなに強くなったんだ……。いや、嬉しいことではあるが」
「本当に兄上にお似合いの方ですね。でも兄上が言ったことは本当なので、充分気をつけてください。僕は多分、役に立てないと思うので……」
マシュウは最後まで、自信がなさそうな顔のまま帰っていった。王太子と呼ぶにはあまりにも頼りなく、シーナは少し不安になった。
婚約者がいじめをしていても王太子が止められないなんて、どういうことだろう。王太子より身分の高い者なんて国王しかいないはずなのに。
怪訝そうな顔をしたせいで伝わったのか、レクオンが説明するように話し出した。
「マシュウの婚約者は、シェリアンヌという名で――ダゥゼン公爵の娘なんだ。あの家は建国時からずっと王家に仕えてきた重臣でな。王宮内の重要な職は、ほとんどダゥゼン公爵の親族で埋まっている。ほとんど乗っ取られたみたいな状態だから、国王も王太子も強く言えない空気があるんだ」
「それでお飾りの王太子なんて仰ったんですね……」
「マシュウが悩んでいるのは分かってるんだ。でも俺にはもう、どうする事も出来ない……。お茶会もきっとシェリアンヌが仕切るだろう。それでも行くのか?」
「はい。わたしは公爵夫人となったのですから、社交に顔を出すべきだと思います。マリベルと対策を立てて、乗り切れるように頑張ります」
レクオンの目を真っすぐに見つめながらいうと、彼は少し悲しそうな顔でシーナの頭を撫でた。もどかしそうな、申し訳なさそうな――それがさらにシーナの心を奮い立たせる。
(わたしは今まで、守られてばかりだった。お姉さまからも、レクオン様からも……)
だから今からは、自分で自分の身を守れるようになろう。ルターナに生かされたこの命を、今こそ役立てるべきだ。シーナは首にさげた指輪に触れながらそう思った。
「僕みたいなお飾りの王太子が威張ったところで、格好悪いだけだから……。僕、兄上のお嫁さんに挨拶したかったんです。本当に綺麗な方ですね……。お会いできて良かった」
やはりレクオンの弟のようだ。マシュウが握手を求めてきたので、シーナも彼の手を握った。とても華奢な手で、細い指は女性みたいだ。こんなところもレクオンとは全く違う。
(この方が、王太子……)
マシュウがいつ王太子になったのか、グラーダにいたシーナは当然知らない。でも何となく、レクオンが公爵になると決めた時期と重なるのではないか、レクオンは弟に王太子の座を譲ったのではないのか――そんな気がする。
「もう王宮へ戻れ。おまえが長く席を外すのはまずい。それにおまえの本当の目的は、俺にややこしい公務を押し付けるためだろう。手に持ったその紙の束は何なんだ」
「……すみません。そういわれたら返す言葉もないです……。でも兄上だって、なにもこんな森の中に引っ込まなくてもいいでしょう。王宮には数え切れないほど部屋があるのに」
「俺がどこで暮らそうが俺の勝手だろ」
全く似ていない兄弟だが、仲は悪くないらしい。レクオンはつっけんどんな口調だけど、二人の間には親しい空気があった。
しばらく微笑ましい兄弟げんかのようなものを繰り返したのち、レクオンがマシュウの背を押して無理やり帰らせようとする。マシュウは慌てて一つの封筒をシーナに差し出した。上品な香水の香りがする封筒だ。
「シーナさんにも渡すものがあったんです。あなたをお茶会に誘いたいらしくて……僕の婚約者が」
「あの女がお茶会だと? シーナ、行かなくていい。きっと嫌な思いをするぞ」
「行きます」
『あの女』と口走った辺りでレクオンの顔はひどい渋面だったが、シーナが行くと答えたらさらに苦々しい顔になった。
「あのな。お茶会なんて言葉の響きはいいが、内容はひどいものだぞ? テーブルを囲んでひとりの令嬢をネチネチ嫌味でいじめたり、ひどいときには熱いお茶をかけたりするんだ。しかもこのお茶会は女性しか参加できないから、俺は守ってやれないし……」
「マリベルに来てもらいます。それにわたし、嫌味とかいじめられたりするのは慣れてますから」
「いつの間にそんなに強くなったんだ……。いや、嬉しいことではあるが」
「本当に兄上にお似合いの方ですね。でも兄上が言ったことは本当なので、充分気をつけてください。僕は多分、役に立てないと思うので……」
マシュウは最後まで、自信がなさそうな顔のまま帰っていった。王太子と呼ぶにはあまりにも頼りなく、シーナは少し不安になった。
婚約者がいじめをしていても王太子が止められないなんて、どういうことだろう。王太子より身分の高い者なんて国王しかいないはずなのに。
怪訝そうな顔をしたせいで伝わったのか、レクオンが説明するように話し出した。
「マシュウの婚約者は、シェリアンヌという名で――ダゥゼン公爵の娘なんだ。あの家は建国時からずっと王家に仕えてきた重臣でな。王宮内の重要な職は、ほとんどダゥゼン公爵の親族で埋まっている。ほとんど乗っ取られたみたいな状態だから、国王も王太子も強く言えない空気があるんだ」
「それでお飾りの王太子なんて仰ったんですね……」
「マシュウが悩んでいるのは分かってるんだ。でも俺にはもう、どうする事も出来ない……。お茶会もきっとシェリアンヌが仕切るだろう。それでも行くのか?」
「はい。わたしは公爵夫人となったのですから、社交に顔を出すべきだと思います。マリベルと対策を立てて、乗り切れるように頑張ります」
レクオンの目を真っすぐに見つめながらいうと、彼は少し悲しそうな顔でシーナの頭を撫でた。もどかしそうな、申し訳なさそうな――それがさらにシーナの心を奮い立たせる。
(わたしは今まで、守られてばかりだった。お姉さまからも、レクオン様からも……)
だから今からは、自分で自分の身を守れるようになろう。ルターナに生かされたこの命を、今こそ役立てるべきだ。シーナは首にさげた指輪に触れながらそう思った。
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