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32 友人2
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「き、気が付かなくて、ごめんなさい……。私は、あの……外の事情に疎くて……」
「構いませんよ。わたしにも、外の事情を知らない時期があったから」
「え……?」
「そうだわ。シーナ様、お茶会の話をブリジットに聞かせてあげてください。きっとブリジットの力になると思うんです」
「ええ、分かったわ」
シーナは快諾し、シェリアンヌとのやり取りを聞かせた。自分の生い立ちが特殊なことも、それゆえ隠れて育ってきたことも。すでにシェリアンヌのお茶会によってシーナの素性は明かされてしまったので、今さら隠す必要もないのだ。
話を聞いたブリジットは目を丸くし、もじもじと手を動かしている。
「そんな事情を持つ方もいるんだ……。シーナ様は、すごいです……」
「わたしの場合は運が良かったんです。レクオン様に出会うことが出来ましたから……。本当は今でも、自分は公爵夫人に相応しくないのではと思うこともあります。レクオン様に失礼になるので、絶対に言いませんけど」
「むしろそれがいいんじゃないでしょうか。特殊な事情をかかえるシーナ様が公爵夫人になったのは、シェリアンヌ様にとって相当、滅茶苦茶に、面白くないはずです。プライド丸つぶれってものですよ」
「私……もうちょっと頑張って、外に出てみようかな……」
「えっ、本当に!?」
クレアが叫んでブリジットの手を握ると、彼女は小さくこくんと頷いた。
「あのね……お部屋の窓から、今日のお茶会に誰が来てるか覗いてたの……。いつもだと、ブローチの人が何人かいるんだけど、今日は一人もいなかったから……だから出て来られたの。シーナ様のおかげだったんですね」
「ブローチの人?」
シーナは不思議に思い、周囲を見渡してみた。二、三人は胸にブローチを付けた令嬢がいるようだが、あの人たちは違うのだろうか――首をかしげたとき、クレアが小さな声で言った。
「ブローチの人というのは、シェリアンヌ様の取り巻きのことです。王太子宮でのお茶会で、胸のあたりに大きな宝石が嵌ったブローチを付けてる人がいたでしょう?」
「ああ――あの人たちの事だったのね。確かに見たわ。わたしはあの日シェリアンヌ様と同じテーブルだったけれど、みんな色違いの似たようなブローチを付けているなと思ったのよ」
「あれはね、シェリアンヌ様のお気に入りの令嬢という証なんです。あの人の機嫌が良くなるような事をすると、ダゥゼン公爵家の御用達のジュエリー店で、ブローチを買ってもらえるんですって」
「おかしいよね……。私だったら、ブローチのために取り巻きになるなんて、絶対にいやだわ……」
「勿論そういう人もいるでしょうけど、ブローチの人たちの父親ってダゥゼン公爵の側近でしょ。だから仲良くするしかないんじゃない? あの人たち時々お茶会に潜り込んでは、シェリアンヌ様の悪口をいってる令嬢がいないかチェックしてるらしいわ」
「そっ……そんな事までするの? それじゃお互いに、お茶なんて楽しめないと思うけれど」
シーナが仰天した声を出すと、クレアがこくんと頷く。
「全然楽しくないですよ。悪口の情報がダゥゼン公爵の耳にまで入ると、その令嬢の父親が降格処分を受けたりするみたいだし……。だからお茶会を開いても、自由にお喋りなんてできない雰囲気でした」
「でも今日は自由だね……。シーナ様のおかげです」
ブリジットがとても嬉しそうにウフフと笑う。シーナは複雑な思いで彼女の笑顔を見つめた。
(レクオン様が言っていた、王宮での様子と同じだわ……)
クレアとブリジットの話は、レクオンがシーナに話した事と同じだった。大声で自由に喋っていいのはダゥゼン公爵家に関係する者だけで、それ以外の人間は裏でこそこそ愚痴をつぶやくしかない。堂々と反論すれば父親にまで危害が及び、家全体の問題に発展してしまう。
シーナの場合は恵まれていたのだ。王子の妃だったからこそシェリアンヌに堂々と反論できたし、お茶をはね返しても何の咎めもなかった。
(――という事は、シェリアンヌにとってわたしはかなり目障りなのね、きっと)
ディルトース家とロイネルデン家はかなり歴史のある名家で、ダゥゼン公爵家の傘下に加わっていない事でも有名である。だからこそシーナは両家のお茶会に参加したのだが、シェリアンヌもシーナの行動を予測していたのだろう。
ブリジットの母は取り巻きたちの何人かを一応招待したらしいが、シーナが参加した瞬間に権力のバランスが崩れ、そのお茶会はシェリアンヌ達にとって敵地になってしまう。悪口をチェックするどころか、やり込められてすごすご帰る羽目になりかねないので、ブローチの令嬢たちを参加させなかったのだ。
今まで参加したお茶会に、ブローチの令嬢はいたのだろうか。クレアによると日によってブローチを付けなかったり、わざと目立たないドレスで参加したりするそうだから、気づかなかったかもしれない。
何となくだが、シェリアンヌのいない場所でブローチの令嬢と話してみたいと思った。
「構いませんよ。わたしにも、外の事情を知らない時期があったから」
「え……?」
「そうだわ。シーナ様、お茶会の話をブリジットに聞かせてあげてください。きっとブリジットの力になると思うんです」
「ええ、分かったわ」
シーナは快諾し、シェリアンヌとのやり取りを聞かせた。自分の生い立ちが特殊なことも、それゆえ隠れて育ってきたことも。すでにシェリアンヌのお茶会によってシーナの素性は明かされてしまったので、今さら隠す必要もないのだ。
話を聞いたブリジットは目を丸くし、もじもじと手を動かしている。
「そんな事情を持つ方もいるんだ……。シーナ様は、すごいです……」
「わたしの場合は運が良かったんです。レクオン様に出会うことが出来ましたから……。本当は今でも、自分は公爵夫人に相応しくないのではと思うこともあります。レクオン様に失礼になるので、絶対に言いませんけど」
「むしろそれがいいんじゃないでしょうか。特殊な事情をかかえるシーナ様が公爵夫人になったのは、シェリアンヌ様にとって相当、滅茶苦茶に、面白くないはずです。プライド丸つぶれってものですよ」
「私……もうちょっと頑張って、外に出てみようかな……」
「えっ、本当に!?」
クレアが叫んでブリジットの手を握ると、彼女は小さくこくんと頷いた。
「あのね……お部屋の窓から、今日のお茶会に誰が来てるか覗いてたの……。いつもだと、ブローチの人が何人かいるんだけど、今日は一人もいなかったから……だから出て来られたの。シーナ様のおかげだったんですね」
「ブローチの人?」
シーナは不思議に思い、周囲を見渡してみた。二、三人は胸にブローチを付けた令嬢がいるようだが、あの人たちは違うのだろうか――首をかしげたとき、クレアが小さな声で言った。
「ブローチの人というのは、シェリアンヌ様の取り巻きのことです。王太子宮でのお茶会で、胸のあたりに大きな宝石が嵌ったブローチを付けてる人がいたでしょう?」
「ああ――あの人たちの事だったのね。確かに見たわ。わたしはあの日シェリアンヌ様と同じテーブルだったけれど、みんな色違いの似たようなブローチを付けているなと思ったのよ」
「あれはね、シェリアンヌ様のお気に入りの令嬢という証なんです。あの人の機嫌が良くなるような事をすると、ダゥゼン公爵家の御用達のジュエリー店で、ブローチを買ってもらえるんですって」
「おかしいよね……。私だったら、ブローチのために取り巻きになるなんて、絶対にいやだわ……」
「勿論そういう人もいるでしょうけど、ブローチの人たちの父親ってダゥゼン公爵の側近でしょ。だから仲良くするしかないんじゃない? あの人たち時々お茶会に潜り込んでは、シェリアンヌ様の悪口をいってる令嬢がいないかチェックしてるらしいわ」
「そっ……そんな事までするの? それじゃお互いに、お茶なんて楽しめないと思うけれど」
シーナが仰天した声を出すと、クレアがこくんと頷く。
「全然楽しくないですよ。悪口の情報がダゥゼン公爵の耳にまで入ると、その令嬢の父親が降格処分を受けたりするみたいだし……。だからお茶会を開いても、自由にお喋りなんてできない雰囲気でした」
「でも今日は自由だね……。シーナ様のおかげです」
ブリジットがとても嬉しそうにウフフと笑う。シーナは複雑な思いで彼女の笑顔を見つめた。
(レクオン様が言っていた、王宮での様子と同じだわ……)
クレアとブリジットの話は、レクオンがシーナに話した事と同じだった。大声で自由に喋っていいのはダゥゼン公爵家に関係する者だけで、それ以外の人間は裏でこそこそ愚痴をつぶやくしかない。堂々と反論すれば父親にまで危害が及び、家全体の問題に発展してしまう。
シーナの場合は恵まれていたのだ。王子の妃だったからこそシェリアンヌに堂々と反論できたし、お茶をはね返しても何の咎めもなかった。
(――という事は、シェリアンヌにとってわたしはかなり目障りなのね、きっと)
ディルトース家とロイネルデン家はかなり歴史のある名家で、ダゥゼン公爵家の傘下に加わっていない事でも有名である。だからこそシーナは両家のお茶会に参加したのだが、シェリアンヌもシーナの行動を予測していたのだろう。
ブリジットの母は取り巻きたちの何人かを一応招待したらしいが、シーナが参加した瞬間に権力のバランスが崩れ、そのお茶会はシェリアンヌ達にとって敵地になってしまう。悪口をチェックするどころか、やり込められてすごすご帰る羽目になりかねないので、ブローチの令嬢たちを参加させなかったのだ。
今まで参加したお茶会に、ブローチの令嬢はいたのだろうか。クレアによると日によってブローチを付けなかったり、わざと目立たないドレスで参加したりするそうだから、気づかなかったかもしれない。
何となくだが、シェリアンヌのいない場所でブローチの令嬢と話してみたいと思った。
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