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お茶会で派手に暴れてしまったのだから、もうお誘いは来ないだろう――と思っていたのだが、予想は見事に外れた。
お茶会以降、連日のようにお誘いの手紙が届く。まだすべての貴族を覚えていないシーナはマリベルに協力してもらって、手紙がどこの誰から来たものか仕分けした。
「すごいわねぇ、大貴族からのお誘いも多いわよ。ディルトース家はダゥゼン公爵と並ぶ古い歴史のある名家だし……代々近衛騎士を輩出することで有名なロイネルデン家からも来てるわ。迷っちゃうわねぇ」
「ダゥゼン公爵に連なる家からは、お誘いが来てないみたい」
「お茶会でハッキリと決別したからね、さすがにもう誘わないでしょう。でもその代わりのように、ダゥゼン公爵家に反発する貴族たちから誘われるようになった……。ダゥゼン公爵は王宮を仕切ってるけど、皆が喜んで従ってる訳じゃないからね。公爵夫人のシーナを味方につけたいんでしょう。シェリアンヌ様の対抗馬ってとこかしらね」
「それなら尚のこと、お誘いには応えるようにしたいわ。日程はどうなってるかしら……」
お茶会のあと、レクオンの許可をもらって少しずつバザーの準備も始めている。母の故郷フェラーズから取れすぎた野菜を送ってもらい、布問屋からは半端な大きさの布キレをもらい受けたりした。その準備をしながらお茶会となると、かなり忙しそうだ。でも諦めたくない。
シーナは日程を調節し、ほとんどのお茶会に参加した。誘いをくれた貴族たちはみな王都に屋敷を構えていたので、宿泊する必要もなくその日の内に帰ってこられる。
どのお茶会でもシェリアンヌとの対決が話題になり、「見てて気持ちが良かったです」と嬉しそうにいう令嬢や、「私もお茶をかけられたのです」と悔しそうにいう令嬢と出会うことになった。クレアもその一人だ。
彼女は名門ディルトース家の令嬢だったため、シェリアンヌに目を付けられてシーナと同じようにいじめられたらしい。背が高く勝気そうな顔をした美少女は、シーナに「私も扇を使えばよかったです」と呟いた。
声を聞いて気づいたのだが、彼女はシェリアンヌのお茶会で「ただの婚約者でしょ」と反論した令嬢だった。クレアはシェリアンヌと同じ16歳で、まだ結婚できないのを知ってわざと逆鱗に触れることを皆の前で言ったわけだ。逞しい心の持ち主である。
「お茶が飛んできても、避ければいいかなと思ってたんです。でも椅子から立とうとしたらドレスを踏んでしまって……まともにお茶を浴びました。扇を使えば良かったんですね」
「でもわたしが使った扇は少し特殊なもので、水をはじく染料が塗ってあるんです。普通の扇だと紅茶が染みてしまったかも……」
「なるほど! 勉強になります。私の扇にも塗っておかなくちゃ……。でもね、シェリアンヌ様がお茶を掛けるのって、口では敵わないと思った相手だけなんですって。だからある意味、お茶を掛けられるのは名誉なことなのかもしれません」
クレアはとても聡明で、彼女と話しているとルターナを思い出した。病気がちで屋敷を出られない姉は、部屋にたくさん書物を集めて読んでいたものだ。だから部屋に篭っていても知識は深く、博識な姉から教わることは多かった。
自然とどのお茶会でもクレアと行動を共にするようになったが、彼女はロイネルデン家のお茶会にも姿を現した。なんでも、この家の令嬢とは友人なのだという。でもお茶会の誘いを出したのは夫人であり、娘のブリジットではなかった。
「今日も出て来ないのかしら……」
天気が良かったので、ガーデンでのお茶会だ。しかし周囲の様子をきょろきょろと伺ったクレアは、悲しそうな顔で呟いた。
「出て来ない、というと……。ご令嬢のブリジット様のこと?」
「ええ。ブリジットもシェリアンヌ様のいじめを受けたんですけど、その時のショックで屋敷から出られなくなったんです。誘いの手紙に混じって悪意のある手紙も届いたりしたから、封筒を見るのが怖くなったようで……」
ただの手紙だ、と一笑するのはたやすい。しかし一度でも悪口のかかれた手紙を受けとれば、封筒を見るのが怖くなるのは当然の反応だ。
貴族に届く手紙は一通ではないし、何通もの手紙を「悪口が書かれてあるかも」と怯えながら開封するのはかなりの負担になる。封筒を見るのも嫌になるだろう。
悪口を書いた手紙を出しても罪には問われないし、「そんな手紙はすぐに捨てれば済むことだ」と軽んじる人もいるわけだ。他人の理解を得られないまま本人は孤立するのだから、かなり悪質である。
「あっ、ブリジット……!」
クレアが小さく叫んだ方向を見ると、夫人に隠れるようにして一人の令嬢が心細そうに立っている。クレアとシーナは彼女にゆっくりと歩み寄った。ブリジットは子猫のようなふわふわした髪を細いリボンでくくっていて、とても可愛らしい。
「く、クレア……。久しぶりね。あの……そちらの方は……?」
「ヴェンシュタイン公爵夫人のシーナ様よ」
公爵夫人と聞いたブリジットは大いに驚き、慌ててカーテシーをした。シーナも彼女に応えるように礼をする。ブリジットがおどおどするたび、過去の自分もこうだったなとしみじみ思った。世間から隠れるようにして生きてきたシーナにとって、ブリジットの状況は他人事ではない。
お茶会以降、連日のようにお誘いの手紙が届く。まだすべての貴族を覚えていないシーナはマリベルに協力してもらって、手紙がどこの誰から来たものか仕分けした。
「すごいわねぇ、大貴族からのお誘いも多いわよ。ディルトース家はダゥゼン公爵と並ぶ古い歴史のある名家だし……代々近衛騎士を輩出することで有名なロイネルデン家からも来てるわ。迷っちゃうわねぇ」
「ダゥゼン公爵に連なる家からは、お誘いが来てないみたい」
「お茶会でハッキリと決別したからね、さすがにもう誘わないでしょう。でもその代わりのように、ダゥゼン公爵家に反発する貴族たちから誘われるようになった……。ダゥゼン公爵は王宮を仕切ってるけど、皆が喜んで従ってる訳じゃないからね。公爵夫人のシーナを味方につけたいんでしょう。シェリアンヌ様の対抗馬ってとこかしらね」
「それなら尚のこと、お誘いには応えるようにしたいわ。日程はどうなってるかしら……」
お茶会のあと、レクオンの許可をもらって少しずつバザーの準備も始めている。母の故郷フェラーズから取れすぎた野菜を送ってもらい、布問屋からは半端な大きさの布キレをもらい受けたりした。その準備をしながらお茶会となると、かなり忙しそうだ。でも諦めたくない。
シーナは日程を調節し、ほとんどのお茶会に参加した。誘いをくれた貴族たちはみな王都に屋敷を構えていたので、宿泊する必要もなくその日の内に帰ってこられる。
どのお茶会でもシェリアンヌとの対決が話題になり、「見てて気持ちが良かったです」と嬉しそうにいう令嬢や、「私もお茶をかけられたのです」と悔しそうにいう令嬢と出会うことになった。クレアもその一人だ。
彼女は名門ディルトース家の令嬢だったため、シェリアンヌに目を付けられてシーナと同じようにいじめられたらしい。背が高く勝気そうな顔をした美少女は、シーナに「私も扇を使えばよかったです」と呟いた。
声を聞いて気づいたのだが、彼女はシェリアンヌのお茶会で「ただの婚約者でしょ」と反論した令嬢だった。クレアはシェリアンヌと同じ16歳で、まだ結婚できないのを知ってわざと逆鱗に触れることを皆の前で言ったわけだ。逞しい心の持ち主である。
「お茶が飛んできても、避ければいいかなと思ってたんです。でも椅子から立とうとしたらドレスを踏んでしまって……まともにお茶を浴びました。扇を使えば良かったんですね」
「でもわたしが使った扇は少し特殊なもので、水をはじく染料が塗ってあるんです。普通の扇だと紅茶が染みてしまったかも……」
「なるほど! 勉強になります。私の扇にも塗っておかなくちゃ……。でもね、シェリアンヌ様がお茶を掛けるのって、口では敵わないと思った相手だけなんですって。だからある意味、お茶を掛けられるのは名誉なことなのかもしれません」
クレアはとても聡明で、彼女と話しているとルターナを思い出した。病気がちで屋敷を出られない姉は、部屋にたくさん書物を集めて読んでいたものだ。だから部屋に篭っていても知識は深く、博識な姉から教わることは多かった。
自然とどのお茶会でもクレアと行動を共にするようになったが、彼女はロイネルデン家のお茶会にも姿を現した。なんでも、この家の令嬢とは友人なのだという。でもお茶会の誘いを出したのは夫人であり、娘のブリジットではなかった。
「今日も出て来ないのかしら……」
天気が良かったので、ガーデンでのお茶会だ。しかし周囲の様子をきょろきょろと伺ったクレアは、悲しそうな顔で呟いた。
「出て来ない、というと……。ご令嬢のブリジット様のこと?」
「ええ。ブリジットもシェリアンヌ様のいじめを受けたんですけど、その時のショックで屋敷から出られなくなったんです。誘いの手紙に混じって悪意のある手紙も届いたりしたから、封筒を見るのが怖くなったようで……」
ただの手紙だ、と一笑するのはたやすい。しかし一度でも悪口のかかれた手紙を受けとれば、封筒を見るのが怖くなるのは当然の反応だ。
貴族に届く手紙は一通ではないし、何通もの手紙を「悪口が書かれてあるかも」と怯えながら開封するのはかなりの負担になる。封筒を見るのも嫌になるだろう。
悪口を書いた手紙を出しても罪には問われないし、「そんな手紙はすぐに捨てれば済むことだ」と軽んじる人もいるわけだ。他人の理解を得られないまま本人は孤立するのだから、かなり悪質である。
「あっ、ブリジット……!」
クレアが小さく叫んだ方向を見ると、夫人に隠れるようにして一人の令嬢が心細そうに立っている。クレアとシーナは彼女にゆっくりと歩み寄った。ブリジットは子猫のようなふわふわした髪を細いリボンでくくっていて、とても可愛らしい。
「く、クレア……。久しぶりね。あの……そちらの方は……?」
「ヴェンシュタイン公爵夫人のシーナ様よ」
公爵夫人と聞いたブリジットは大いに驚き、慌ててカーテシーをした。シーナも彼女に応えるように礼をする。ブリジットがおどおどするたび、過去の自分もこうだったなとしみじみ思った。世間から隠れるようにして生きてきたシーナにとって、ブリジットの状況は他人事ではない。
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