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55 侍女アルマ
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(なんだったのかしら、あの人……)
シーナは男性が消えた方向をぼんやりと見つめた。何と言っていたか――王族が悪いだの、今のディレイムなら戦争に負けるだの、不吉なことばかり聞かされたような……。
でも最後には、ギルートも戦争を望んでいないのだと言ったのではなかったか。そして、レクオンを動かせるのはシーナだけだとも。
(わたしにそんな力があるかしら……)
考えごとに沈んでいたシーナは、自分を呼ぶ声に気づかなかった。一分ちかく無視してしまっただろう。
「あのう、すみません。あのう……」
「――あっ、ごめんなさい。何でしょうか?」
慌てて顔をあげれば、マリベルぐらいの年の女性が立っている。かなり急いだのか顔が汗だらけだ。
「レクオン様の奥様でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうですけど……」
今日はやけに話しかけられる日だ。ダゥゼンから逃げてきたという家族、戦争をとめてみせろと言った男性。今度はなんだろう。またレクオンに王宮へ戻ってほしいという嘆願だろうか?
レクオンに対する願いを聞くたびに、心臓がぎゅっと縮むような心地がする。シーナは緊張しながら女性の返答を待ったが、彼女はしみじみと呟いた。
「あのレクオン様が、こんなに美しい奥様を迎えられたなんて……」
そういったかと思うと、ぼろぼろ泣き出してしまった。シーナは呆然と泣く女性を見る。
この人はなんと言った? あのレクオン様が――そう言ったのではないか?
シーナは女性の肩をがしりとつかみ、確認するように尋ねた。
「あのレクオン様が、と仰いましたね。子供のころのレクオン様をご存知なのですか?」
「あっ……。あの、それは……」
女性は急にあたりをきょろきょろと見回し、怯えるような表情をした。誰かに追われているのかもしれない。シーナはバザーをマリベルとクレア達に任せ、女性を連れて城へ入った。
「レクオン様! 会って頂きたい人がいるんです!」
叫びながらバルコニーへ行くと、レクオンはいつものようにバザーの様子を眺めていた。シーナの声で振り向いた彼は、妻の後ろに立つ人物を見て目を丸くする。
「おまえ――アルマか? 母の侍女だった……」
「お久しぶりでございます、レクオン様……!」
アルマはレクオンの顔を見るなり、また泣き始めてしまった。アルマが着ている服はぼろぼろで、かなり汚れているようだ。苦労しながら生きてきた様子が伝わってくる。
シーナはアルマを応接室に通し、メイドにお茶を頼んでおいた。レクオンとアルマには積もる話もあるだろうし、二人きりにしたほうがいいだろう。
本当はバザーで出会った不思議な男性のことを報告しようと思ったのに、アルマの登場によってシーナの頭はひどく混乱していた。
部屋に入るべきか否か――廊下をうろうろしていると、レクオンがドアの隙間から顔を出す。
「シーナ。どうしたんだ、なかに入らないのか?」
「え? 入ってもいいんですか?」
「きみは俺の妻だろ、一緒に話を聞いてくれ。もう聞かれて困る話なんかないんだから」
「は、はい」
手を引かれて室内に入ると、アルマは眩しそうに目を細めてレクオンとシーナを見ている。
「お似合いの夫婦ですねぇ……。そのご様子だと、レクオン様は奥様にすべて話されたのですね」
「ああ。俺の事情はなにもかも伝えてある。母が自ら死んだことも……話した」
レクオンが答えるとアルマはハッと息をのみ、手を口元にあてた。そしてごそごそと動き、服の中から折れた紙を取り出す。
「アルマは今までどうしてたんだ? 責任を感じて王宮を出たんだろう?」
「私はグラーダで暮らしてたんです。そこで王都のバザーの話を聞いて、レクオン様の奥様に会えないかとやって来たんですよ。王宮を出たのは事情があって……」
アルマはテーブルの上に紙を置いた。文字が透けて見える。手紙だろうか。
「私は命を狙われて、王宮から逃げるしかなかったんです」
シーナは男性が消えた方向をぼんやりと見つめた。何と言っていたか――王族が悪いだの、今のディレイムなら戦争に負けるだの、不吉なことばかり聞かされたような……。
でも最後には、ギルートも戦争を望んでいないのだと言ったのではなかったか。そして、レクオンを動かせるのはシーナだけだとも。
(わたしにそんな力があるかしら……)
考えごとに沈んでいたシーナは、自分を呼ぶ声に気づかなかった。一分ちかく無視してしまっただろう。
「あのう、すみません。あのう……」
「――あっ、ごめんなさい。何でしょうか?」
慌てて顔をあげれば、マリベルぐらいの年の女性が立っている。かなり急いだのか顔が汗だらけだ。
「レクオン様の奥様でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうですけど……」
今日はやけに話しかけられる日だ。ダゥゼンから逃げてきたという家族、戦争をとめてみせろと言った男性。今度はなんだろう。またレクオンに王宮へ戻ってほしいという嘆願だろうか?
レクオンに対する願いを聞くたびに、心臓がぎゅっと縮むような心地がする。シーナは緊張しながら女性の返答を待ったが、彼女はしみじみと呟いた。
「あのレクオン様が、こんなに美しい奥様を迎えられたなんて……」
そういったかと思うと、ぼろぼろ泣き出してしまった。シーナは呆然と泣く女性を見る。
この人はなんと言った? あのレクオン様が――そう言ったのではないか?
シーナは女性の肩をがしりとつかみ、確認するように尋ねた。
「あのレクオン様が、と仰いましたね。子供のころのレクオン様をご存知なのですか?」
「あっ……。あの、それは……」
女性は急にあたりをきょろきょろと見回し、怯えるような表情をした。誰かに追われているのかもしれない。シーナはバザーをマリベルとクレア達に任せ、女性を連れて城へ入った。
「レクオン様! 会って頂きたい人がいるんです!」
叫びながらバルコニーへ行くと、レクオンはいつものようにバザーの様子を眺めていた。シーナの声で振り向いた彼は、妻の後ろに立つ人物を見て目を丸くする。
「おまえ――アルマか? 母の侍女だった……」
「お久しぶりでございます、レクオン様……!」
アルマはレクオンの顔を見るなり、また泣き始めてしまった。アルマが着ている服はぼろぼろで、かなり汚れているようだ。苦労しながら生きてきた様子が伝わってくる。
シーナはアルマを応接室に通し、メイドにお茶を頼んでおいた。レクオンとアルマには積もる話もあるだろうし、二人きりにしたほうがいいだろう。
本当はバザーで出会った不思議な男性のことを報告しようと思ったのに、アルマの登場によってシーナの頭はひどく混乱していた。
部屋に入るべきか否か――廊下をうろうろしていると、レクオンがドアの隙間から顔を出す。
「シーナ。どうしたんだ、なかに入らないのか?」
「え? 入ってもいいんですか?」
「きみは俺の妻だろ、一緒に話を聞いてくれ。もう聞かれて困る話なんかないんだから」
「は、はい」
手を引かれて室内に入ると、アルマは眩しそうに目を細めてレクオンとシーナを見ている。
「お似合いの夫婦ですねぇ……。そのご様子だと、レクオン様は奥様にすべて話されたのですね」
「ああ。俺の事情はなにもかも伝えてある。母が自ら死んだことも……話した」
レクオンが答えるとアルマはハッと息をのみ、手を口元にあてた。そしてごそごそと動き、服の中から折れた紙を取り出す。
「アルマは今までどうしてたんだ? 責任を感じて王宮を出たんだろう?」
「私はグラーダで暮らしてたんです。そこで王都のバザーの話を聞いて、レクオン様の奥様に会えないかとやって来たんですよ。王宮を出たのは事情があって……」
アルマはテーブルの上に紙を置いた。文字が透けて見える。手紙だろうか。
「私は命を狙われて、王宮から逃げるしかなかったんです」
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