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60 ダゥゼン公爵1
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国家の大事に関わることは、王宮内の議場の会合によって決められる。会合に参加するのは王族とディレイムの上位貴族60名ほどだ。
数年前までは半数に分かれて意見を戦わせていたものの、レクオンが王宮を去ってから彼に追随していた貴族たちがぽつぽつと派閥を抜け、今ではほとんどの貴族がダゥゼン公爵の傘下となった。が、彼らのすべてがサントスに対して心から忠誠を誓っているわけではない。
領民を守るために仕方なく傘下となった者、サントスを利用してのし上がった者など様々である。でもサントスにとっては彼らが自分に従う理由などどうでも良かった。要するに、サントスの意見に反対する者が少なければそれでいいのだ。
レクオンが去ってからサントスに抵抗する貴族は一気に減ったので、ここ一年ほどはサントスが出した提案はほとんど議論することもなく可決される。愉快である。もうこの国はサントスが支配しているも同然だ。
この日も彼は議場のもっとも端に堂々と座っていた。この席は本来、王太子が座るべき場所である。だがレクオンとマシュウのどちらが王太子に相応しいのかと争っていたため、長いあいだ空席だった。
レクオンが去った直後にサントスがここに座るようになったが、彼を咎めるものは誰もいない。マシュウは勿論、国王イザイアスでさえも。
(ここまで長かったな……)
サントスは満足げに議場を見渡した。彼の周囲は親族と配下で固められ、サントスの真逆の位置にしつこく抵抗を続ける貴族たちがひっそりと座る。ディルトース家のオーランドや、ロイネルデン家のハビエル達だ。
サントスは冷めた目で彼らを一瞥した。憐れな奴らだ。レクオン王子という旗印がいなくなった今、どれだけ抵抗しようと無駄だろうに。
今日もレクオン王子は議場に現れず、国王イザイアスと王太子マシュウが議場に入ると扉が閉められた。
「ではこれより、議事を始めます」
王太子の席に座れないマシュウは自然と議長を務めるようになった。本来は宰相の仕事なので、サントスは甥に役目を押し付けている状態である。
今日の会合はマシュウの提案によって招集されたが、イザイアスもサントスも詳しいことはまだ知らない。マシュウは父と伯父に「ようやく開戦できそうです」と告げたのだ。
レクオンが古城に引きこもって以来、マシュウが何度も兄を尋ねているのは知っていたが、どうやら兄を説得していたらしい。
今日の議事の主な内容は、誰が戦争の指揮をとるか――つまり、最高司令官を決める会合である。これがなかなか決まらなかったため、開戦が遅れていた。
最高司令官となれば作戦が失敗した折には責任を追及されるし、もし敗戦した場合は戦犯として処刑もありえる。サントス達は戦争は起こしたいものの、責任は取りたくないのだ。誰も危険な目に会いたくないし、戦争後の甘い汁だけを吸いたいのである。
「資料をご覧ください。長く開戦が遅れていましたが、このたびようやく軍の最高司令官が決まりました」
マシュウが言うと、議場に集まった貴族たちは配られた資料に視線をうつした。先発隊はディルトース家とロイネルデン家が兵を出すらしい。
隣国ギルートとロイネルデン家の領地は隣り合っているため、兵を出すのに打って付けというわけだ。そして最高司令官の蘭には、ヴェンシュタイン公爵レクオンの名があった。
「マシュウ殿下、質問をよろしいですか」
「どうぞ」
オーランドの陣営に座るひとりの貴族が手を挙げ、マシュウの返答で席を立つ。キャスリンの父、マーカムである。
「レクオン殿下は議場におられませんが……今回の決定に関して、何と仰っていたのでしょう。レクオン殿下は納得しておられるのですか?」
「僕は兄が公爵となってから、一年間ずっと説得にあたっていました。小麦の収穫量が減っていること、それによって民が手を出せないほど高価になったことで兄は心を痛め、今回の決定もやむなしと納得してくれたのです。王宮を去ったことも後悔している様子で、最後は国のために役立ちたいと言ってくれました」
「そうですか……」
マーカムはがくりと肩を落とし、席についた。あらかじめ話は聞いていたのかオーランドとハビエルの表情は硬く、彼らの陣営は明かりが消えたように暗い。
だがそれを見ても、サントス達の心は全く動かなかった。なにか異論を出して「気になるなら貴殿も参戦すればよかろう」などと言われたらたまったものではない。冗談じゃない、死ぬのは他の奴にしてくれ――誰もがそう思っているのだ。
数年前までは半数に分かれて意見を戦わせていたものの、レクオンが王宮を去ってから彼に追随していた貴族たちがぽつぽつと派閥を抜け、今ではほとんどの貴族がダゥゼン公爵の傘下となった。が、彼らのすべてがサントスに対して心から忠誠を誓っているわけではない。
領民を守るために仕方なく傘下となった者、サントスを利用してのし上がった者など様々である。でもサントスにとっては彼らが自分に従う理由などどうでも良かった。要するに、サントスの意見に反対する者が少なければそれでいいのだ。
レクオンが去ってからサントスに抵抗する貴族は一気に減ったので、ここ一年ほどはサントスが出した提案はほとんど議論することもなく可決される。愉快である。もうこの国はサントスが支配しているも同然だ。
この日も彼は議場のもっとも端に堂々と座っていた。この席は本来、王太子が座るべき場所である。だがレクオンとマシュウのどちらが王太子に相応しいのかと争っていたため、長いあいだ空席だった。
レクオンが去った直後にサントスがここに座るようになったが、彼を咎めるものは誰もいない。マシュウは勿論、国王イザイアスでさえも。
(ここまで長かったな……)
サントスは満足げに議場を見渡した。彼の周囲は親族と配下で固められ、サントスの真逆の位置にしつこく抵抗を続ける貴族たちがひっそりと座る。ディルトース家のオーランドや、ロイネルデン家のハビエル達だ。
サントスは冷めた目で彼らを一瞥した。憐れな奴らだ。レクオン王子という旗印がいなくなった今、どれだけ抵抗しようと無駄だろうに。
今日もレクオン王子は議場に現れず、国王イザイアスと王太子マシュウが議場に入ると扉が閉められた。
「ではこれより、議事を始めます」
王太子の席に座れないマシュウは自然と議長を務めるようになった。本来は宰相の仕事なので、サントスは甥に役目を押し付けている状態である。
今日の会合はマシュウの提案によって招集されたが、イザイアスもサントスも詳しいことはまだ知らない。マシュウは父と伯父に「ようやく開戦できそうです」と告げたのだ。
レクオンが古城に引きこもって以来、マシュウが何度も兄を尋ねているのは知っていたが、どうやら兄を説得していたらしい。
今日の議事の主な内容は、誰が戦争の指揮をとるか――つまり、最高司令官を決める会合である。これがなかなか決まらなかったため、開戦が遅れていた。
最高司令官となれば作戦が失敗した折には責任を追及されるし、もし敗戦した場合は戦犯として処刑もありえる。サントス達は戦争は起こしたいものの、責任は取りたくないのだ。誰も危険な目に会いたくないし、戦争後の甘い汁だけを吸いたいのである。
「資料をご覧ください。長く開戦が遅れていましたが、このたびようやく軍の最高司令官が決まりました」
マシュウが言うと、議場に集まった貴族たちは配られた資料に視線をうつした。先発隊はディルトース家とロイネルデン家が兵を出すらしい。
隣国ギルートとロイネルデン家の領地は隣り合っているため、兵を出すのに打って付けというわけだ。そして最高司令官の蘭には、ヴェンシュタイン公爵レクオンの名があった。
「マシュウ殿下、質問をよろしいですか」
「どうぞ」
オーランドの陣営に座るひとりの貴族が手を挙げ、マシュウの返答で席を立つ。キャスリンの父、マーカムである。
「レクオン殿下は議場におられませんが……今回の決定に関して、何と仰っていたのでしょう。レクオン殿下は納得しておられるのですか?」
「僕は兄が公爵となってから、一年間ずっと説得にあたっていました。小麦の収穫量が減っていること、それによって民が手を出せないほど高価になったことで兄は心を痛め、今回の決定もやむなしと納得してくれたのです。王宮を去ったことも後悔している様子で、最後は国のために役立ちたいと言ってくれました」
「そうですか……」
マーカムはがくりと肩を落とし、席についた。あらかじめ話は聞いていたのかオーランドとハビエルの表情は硬く、彼らの陣営は明かりが消えたように暗い。
だがそれを見ても、サントス達の心は全く動かなかった。なにか異論を出して「気になるなら貴殿も参戦すればよかろう」などと言われたらたまったものではない。冗談じゃない、死ぬのは他の奴にしてくれ――誰もがそう思っているのだ。
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