虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま

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59 秘密のお茶会

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 翌週、クレアがディルトース家でお茶会を開いた。親しい人だけを呼んだささやかなお茶会だが、名家とあって集まる令嬢はそれなりに多い。
 正門のあたりにはひっきりなしに馬車がとまり、次々と令嬢たちが屋敷へ入っていく。

 そんな中、一台の馬車が静かに裏門の近くにとまった。クレアに命じられていた庭師が門を開けると、馬車のなかから美しい貴婦人と従者のような格好をした背の高い男が現れる。

「さぁ行くわよ、ヘクター」

「はい、奥様」

「……ぷっ」

「なんで笑うんだよ」

「だって……」

 シーナは変装した夫の姿を見上げた。レクオンは黒髪を隠すために褐色ブラウンのカツラを被り、銀縁の眼鏡までかけている。似合っていないわけではないが、とにかく違和感があって……見るたびに笑ってしまう。

 あまりレクオンを見ないようにしてディルトース家の屋敷に入った。身分の高い者は従者をじろじろ見ないものだ。だから周囲の人間も、シーナが連れた人物が王子だと気づいていない。

「シーナ様、また後でお会いしましょう」

「ええ。頑張ってね、ヘクター」

 様づけで呼ばれるのもくすぐったいのだが、素知らぬ振りのまま廊下で別れた。先には執事が待っており、彼はレクオンの姿を認めると執務室へ案内する。

(クレアにお茶会を頼んでよかった。いい口実になったわ)

 レクオンが考えた計画には複数の協力者が必要だが、王宮のなかで相談するわけにはいかない。今の王宮はサントスの支配下にあるので、どこで誰の目が光っているか分からないのだ。秘密の相談なんてしようものなら、すぐに伝わってしまうだろう。

 同じように、レクオンの城に誰かを呼び出すのも危険だった。かつてダゥゼン公爵と拮抗する勢力の筆頭だった王子がオーランドを呼び出せば、何か企んでいますと公言するようなものである。

 そこで考えたのが、妻のお茶会にレクオンがついて行くことだった。サントスにとって女性は着飾ってお喋りを楽しむ生き物なので、シェリアンヌの悪口以外はほとんどチェックしていないらしい。つまり変装さえすれば、レクオンでもお茶会に参加できるというわけだ。

(まぁ表立って参加するのは、わたし一人なんだけどね……)

「シーナ様!」

 クレアが手を振って呼んでいる。シーナは彼女と隣にいるブリジットに笑いかけた。

「お茶会に招いてくれてありがとう。お陰でうまく行ったわ」

「良かった……! お茶会でこんなにワクワクしたのは初めてです」

「あ、あの……今度は、私の家でもお茶会をしますので……」

「ええ。ブリジットのお父様によろしく伝えてね」

 今週はディルトース家で、来週はロイネルデン家でお茶会だ。計画は素早く実行する必要があった。もたもたしていたら、ダゥゼン公爵が勝手に開戦してしまうかもしれないからである。しかしレクオンには彼の動きを止める自信があるらしい。

(あまり危険なことはしてほしくないけど……)

 計画の全てを教えてもらったシーナは不安だった。レクオンが危険な目に会う計画だからこそ、サントスは喜んで乗ってくるだろうが……もし失敗したらと思うと心配でたまらない。

 でもクレアとブリジットの前では不安を顔に出さず、何の悩みもないように振る舞った。計画の全貌を知る人間が増えれば情報が漏れる危険も増すので、二人の友人には詳しい話はしていないのだ。ただ、ダゥゼン公爵を止める方法があるかもしれないとだけ伝えてある。

 ディルトース家でのお茶会はつつがなく終わり、裏門にとめた馬車のなかで待っていると変装したレクオンが戻ってきた。いつも通り、平静な顔で。オーランドの説得がうまくいったのかどうか分かりにくい。

「ど……どうでした……?」

 シーナが恐るおそる尋ねると、レクオンはニッと笑う。

「大丈夫だ、うまくいった。オーランドも危険に巻き込む事になるから全てを話したが……例の手紙を見せたら、サントスにこんな弱点があったのかと喜んでな。あんなに嬉しそうなオーランドを見たのは初めてだ。普段は無表情なだけに、少し怖かった」

「そ、そうですか」

 あなただって無表情でしょうと思ってしまったが、とにかく相談は上手くいったらしい。

 次の週になり、約束どおりブリジットがロイネルデン家でお茶会を開いた。シーナはまた変装したレクオンを連れて出かけ、涼しい顔でお喋りを楽しんだのだった。
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