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「星屑の騎士」の正体、バレる
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教室の窓から射し込む夕方の光が、白い机の上に長い影を落としていた。放課後の時間帯、あちらこちらの席で生徒たちが談笑したり、教科の課題に取り組んだりしている。そんなざわついた空間の中、阿波座玲奈の席の周辺だけは、まるで異質な静けさが漂っていた。
その中心で、阿波座はスマートフォンを無言でスクロールしていた。隣に座った紬が、さっきから何度も小さく頷きながら、画面を覗き込んでいる。
「やっぱり、この人、文章の温度が違うよね」
阿波座がぽつりと呟くと、紬がうんうんと頷いた。
「うん。言葉の間の空白が、なんかこう…切ないの。ひとりで泣いてるみたいな感じっていうか」
「そう。そこがいい」
二人の声は、周囲の喧騒とは明らかに違う周波数で響いていた。その静けさが、妙に耳に残る。悠翔は、すぐ隣の自分の席で、その声を聞きながら、ページを開いたままの教科書に目を落とし続けていた。文字は読み取れず、視線だけが文字の上をなぞっている。心臓の鼓動が、だんだん早くなっていくのが分かる。
「この温度、“生で見たことある”気がする」
阿波座のその一言で、悠翔の背筋に冷たいものが走った。息が詰まりそうになる。体がこわばる。咄嗟に視線を逸らすが、その動きはむしろ不自然だった。逃げようとしたその気配が、むしろ“答え”として読み取られてしまったような気がした。
「あなた、“星屑の騎士”でしょ」
阿波座の声は、断定だった。驚きや問いかけの色はなく、ただ静かに、事実を確認するような声音。
悠翔は、瞬間的に顔から血の気が引くのを感じた。視線が定まらない。机の縁をぎゅっと握り、無理やり呼吸を整えようとする。
「……え、な、なにが?」
かろうじて口を開いたが、声が裏返り、言葉の重さも薄かった。言えば言うほど、余計にバレていく。そういうときの空気というものがある。いま、この教室の、この小さな空間が、まさにそれだった。
紬が、にこにこと微笑んだ。
「やっぱり…!じゃなきゃ、あんな風に“距離”書けないよ~」
「え、ちが、ちがっ……」
声が震える。口では否定しているが、顔は正直だった。耳まで真っ赤になり、目が泳ぎ、姿勢も微妙に引き気味になっている。机の端を掴む指先だけが、どうにか自分を支えていた。
心の中で、声が渦を巻く。
……終わった……尊死じゃなくて、羞恥死……!
俺、バレた。絶対バレた。やばいやばいやばい。
どこまで読まれてる?どのポエム?どのフレーズ?
“声を聞いた瞬間、また好きになった自分がいる”のやつ?それ?やばくない?やばいってば……
「わたし、あの“光だった”ってくだり、すごく好きだったんだよね」
紬のその言葉に、さらに汗がにじむ。どうして、どうしてこんなに具体的に褒めてくるのだ。沈んでいた心臓が、今度は浮き上がってきそうになる。
「…あれって、“好き”って、まだ言えない人の詩だよね」
その一言で、悠翔は反射的に立ち上がりかけた。椅子がきい、と音を立てた。だが、立ち上がることはできず、そのままぐっと腰を戻した。逃げても無駄だと思った。もう、この場で消えるしか道はないような気さえしてきた。
「…ちが……いや、だから、その、“推し”で……」
言いかけて、言葉が消えた。
“推し”と言えば、すべてが安全だと思っていた。だって、推しは偶像で、距離がある。叶わないことが前提だから、自由に感情を注げるし、誰かに責められることもない。
けれど、今は。今のこれは、なんだ?
“あの人”は、現実にいて、隣にいて、同じ制服を着て、同じ空気を吸っている。
そして、自分の中では、“レオ様”と“京橋くん”が、もう完全には分けられなくなっていた。
「……書いてて、苦しかったでしょ?」
紬の声は、なぜか優しかった。責めているわけでも、問い詰めているわけでもない。ただ、共感の目で、そっと差し出すような声だった。
阿波座は、言葉を補うように呟く。
「でも、書けたってことは、逃げなかったってことよ。大丈夫。ちゃんと伝わってる」
悠翔は、もう何も言えなかった。言葉が出るたびに、自分の中の境界線が崩れていく気がして怖かった。
だけど、ほんの少しだけ、心の奥で何かが解けるような音がした。
誰にも知られずにいた“感情”が、誰かに読まれたという事実が、思っていたほど嫌じゃなかった。
むしろ――どこか、救われたような気さえしていた。
その中心で、阿波座はスマートフォンを無言でスクロールしていた。隣に座った紬が、さっきから何度も小さく頷きながら、画面を覗き込んでいる。
「やっぱり、この人、文章の温度が違うよね」
阿波座がぽつりと呟くと、紬がうんうんと頷いた。
「うん。言葉の間の空白が、なんかこう…切ないの。ひとりで泣いてるみたいな感じっていうか」
「そう。そこがいい」
二人の声は、周囲の喧騒とは明らかに違う周波数で響いていた。その静けさが、妙に耳に残る。悠翔は、すぐ隣の自分の席で、その声を聞きながら、ページを開いたままの教科書に目を落とし続けていた。文字は読み取れず、視線だけが文字の上をなぞっている。心臓の鼓動が、だんだん早くなっていくのが分かる。
「この温度、“生で見たことある”気がする」
阿波座のその一言で、悠翔の背筋に冷たいものが走った。息が詰まりそうになる。体がこわばる。咄嗟に視線を逸らすが、その動きはむしろ不自然だった。逃げようとしたその気配が、むしろ“答え”として読み取られてしまったような気がした。
「あなた、“星屑の騎士”でしょ」
阿波座の声は、断定だった。驚きや問いかけの色はなく、ただ静かに、事実を確認するような声音。
悠翔は、瞬間的に顔から血の気が引くのを感じた。視線が定まらない。机の縁をぎゅっと握り、無理やり呼吸を整えようとする。
「……え、な、なにが?」
かろうじて口を開いたが、声が裏返り、言葉の重さも薄かった。言えば言うほど、余計にバレていく。そういうときの空気というものがある。いま、この教室の、この小さな空間が、まさにそれだった。
紬が、にこにこと微笑んだ。
「やっぱり…!じゃなきゃ、あんな風に“距離”書けないよ~」
「え、ちが、ちがっ……」
声が震える。口では否定しているが、顔は正直だった。耳まで真っ赤になり、目が泳ぎ、姿勢も微妙に引き気味になっている。机の端を掴む指先だけが、どうにか自分を支えていた。
心の中で、声が渦を巻く。
……終わった……尊死じゃなくて、羞恥死……!
俺、バレた。絶対バレた。やばいやばいやばい。
どこまで読まれてる?どのポエム?どのフレーズ?
“声を聞いた瞬間、また好きになった自分がいる”のやつ?それ?やばくない?やばいってば……
「わたし、あの“光だった”ってくだり、すごく好きだったんだよね」
紬のその言葉に、さらに汗がにじむ。どうして、どうしてこんなに具体的に褒めてくるのだ。沈んでいた心臓が、今度は浮き上がってきそうになる。
「…あれって、“好き”って、まだ言えない人の詩だよね」
その一言で、悠翔は反射的に立ち上がりかけた。椅子がきい、と音を立てた。だが、立ち上がることはできず、そのままぐっと腰を戻した。逃げても無駄だと思った。もう、この場で消えるしか道はないような気さえしてきた。
「…ちが……いや、だから、その、“推し”で……」
言いかけて、言葉が消えた。
“推し”と言えば、すべてが安全だと思っていた。だって、推しは偶像で、距離がある。叶わないことが前提だから、自由に感情を注げるし、誰かに責められることもない。
けれど、今は。今のこれは、なんだ?
“あの人”は、現実にいて、隣にいて、同じ制服を着て、同じ空気を吸っている。
そして、自分の中では、“レオ様”と“京橋くん”が、もう完全には分けられなくなっていた。
「……書いてて、苦しかったでしょ?」
紬の声は、なぜか優しかった。責めているわけでも、問い詰めているわけでもない。ただ、共感の目で、そっと差し出すような声だった。
阿波座は、言葉を補うように呟く。
「でも、書けたってことは、逃げなかったってことよ。大丈夫。ちゃんと伝わってる」
悠翔は、もう何も言えなかった。言葉が出るたびに、自分の中の境界線が崩れていく気がして怖かった。
だけど、ほんの少しだけ、心の奥で何かが解けるような音がした。
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