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この人は、“あの人”じゃない。
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昼休みの教室は、窓から差し込む春の陽光に包まれていた。周囲では昼食の容器のふたを開ける音や、小さな笑い声が交差しながら、雑然とした穏やかさが漂っていた。
悠翔は、教室の隅の席に座って、まだ手をつけていないお弁当を前にしていた。箸を持ったまま、ぼんやりと窓の外を眺めている。校庭では、体育の授業なのか数人の生徒たちがボールを追いかけていた。
ふと、その視界の端に、すっと人影が差し込んだ。
「ここ、座ってもいい?」
振り向くと、そこには京橋蒼真がいた。手にはコンビニの袋。柔らかく笑う表情が、日差しに溶けるように優しかった。
「うん、もちろん」
悠翔はあわてて空いていた隣の席に手を伸ばして、教科書をどけた。京橋は礼を言ってから座り、袋からパンと紙パックの紅茶を取り出した。
しばらくは、ふたりとも静かに昼食をとった。言葉がなくても、不思議と居心地の悪さはなかった。
京橋が、ふと紅茶を飲みながら、目を細める。
「ねえ、悠翔くんって、ちょっと不思議な目をするよね」
「えっ」
「なんていうか……まるで、誰かを探してるみたいな。そんな目」
その言葉が落ちた瞬間、悠翔の手がぴたりと止まった。箸が宙で固まる。
まるで、心の奥に隠していた想いを、そのまま引き抜かれたような気がした。背中に一瞬、冷たいものが走る。
京橋は、気づいていないように、のんびりとパンの包みを破いているだけだった。
でも、悠翔の中には、言葉にならないざわつきが広がっていた。
探していた。たしかに、そうだった。
レオ様。前世で、何度もページをめくって、セリフを写して、想いを綴って、何度も「ありがとう」と言ってきた存在。
もう会えないはずの、けれどどこかでずっと“いてくれる”と信じた、心の支柱のような人。
転生してこの世界に来たとき、目の前に“あの人”の顔にそっくりな人が現れて、悠翔の心はたやすく混乱した。
けれど。
今、隣にいるこの人は、“あの人”じゃない。
その言葉が、胸の内に明確に形を持って浮かび上がってくる。
仕草が似ていても、声が似ていても、瞳が同じ色をしていても、この人はレオ様ではない。漫画の中のキャラクターではなく、生きて、考えて、隣に座って、自分の名前を呼んでくれる“ひとりの人”だった。
そして──
それでも、心が動いてしまうのは、
もう、“君”として好きになってしまったからだ。
目の前の彼が何を思って、どんな夢を見て、どんなふうに笑うのかを知りたくなった。
レオ様のような“理想”ではなく、京橋蒼真という“現実”に、少しずつ引き寄せられていた。
ふと、京橋が何かを感じたのか、視線を向けた。
「ごめん、変なこと言った?」
「ううん、そんなことない。ただ、ちょっと……ドキッとしただけ」
悠翔は、わずかに笑った。その顔には、どこか吹っ切れたような柔らかさがあった。
「誰かを探してた、っていうのは……たぶん、ほんとうだったんだと思う」
「見つかった?」
「うん……」
悠翔は、小さく頷いた。
「でも、それが“誰か”じゃなくて、“今の君”なんだって、最近やっと気づいたかも」
京橋はきょとんとしたあと、くしゃりと照れくさそうに笑った。
「そっか。じゃあ、なんか……ちょっと嬉しいかも」
その言葉に、悠翔の胸の奥で、なにかが静かにほどけていった。
昼休みの時間は、静かに流れていく。周囲のざわめきはもう遠くて、二人の間にだけ、別の時間が流れているようだった。
悠翔は、改めて自分の胸のうちに問いかけた。
これは恋なのか。まだ断言はできない。けれど、前のように“推し”という仮面では隠しきれない。
この気持ちは、たしかに“誰か”ではなく、“君”に向かっている。
そして、その想いが、ようやく自分の言葉としてかたちになった。
「ありがとう」
隣で笑う京橋を見ながら、悠翔は小さく、心の中でそう呟いた。
それはレオ様ではない。けれど、自分の今を照らしてくれる“君”へ贈る、最初の本当の言葉だった。
悠翔は、教室の隅の席に座って、まだ手をつけていないお弁当を前にしていた。箸を持ったまま、ぼんやりと窓の外を眺めている。校庭では、体育の授業なのか数人の生徒たちがボールを追いかけていた。
ふと、その視界の端に、すっと人影が差し込んだ。
「ここ、座ってもいい?」
振り向くと、そこには京橋蒼真がいた。手にはコンビニの袋。柔らかく笑う表情が、日差しに溶けるように優しかった。
「うん、もちろん」
悠翔はあわてて空いていた隣の席に手を伸ばして、教科書をどけた。京橋は礼を言ってから座り、袋からパンと紙パックの紅茶を取り出した。
しばらくは、ふたりとも静かに昼食をとった。言葉がなくても、不思議と居心地の悪さはなかった。
京橋が、ふと紅茶を飲みながら、目を細める。
「ねえ、悠翔くんって、ちょっと不思議な目をするよね」
「えっ」
「なんていうか……まるで、誰かを探してるみたいな。そんな目」
その言葉が落ちた瞬間、悠翔の手がぴたりと止まった。箸が宙で固まる。
まるで、心の奥に隠していた想いを、そのまま引き抜かれたような気がした。背中に一瞬、冷たいものが走る。
京橋は、気づいていないように、のんびりとパンの包みを破いているだけだった。
でも、悠翔の中には、言葉にならないざわつきが広がっていた。
探していた。たしかに、そうだった。
レオ様。前世で、何度もページをめくって、セリフを写して、想いを綴って、何度も「ありがとう」と言ってきた存在。
もう会えないはずの、けれどどこかでずっと“いてくれる”と信じた、心の支柱のような人。
転生してこの世界に来たとき、目の前に“あの人”の顔にそっくりな人が現れて、悠翔の心はたやすく混乱した。
けれど。
今、隣にいるこの人は、“あの人”じゃない。
その言葉が、胸の内に明確に形を持って浮かび上がってくる。
仕草が似ていても、声が似ていても、瞳が同じ色をしていても、この人はレオ様ではない。漫画の中のキャラクターではなく、生きて、考えて、隣に座って、自分の名前を呼んでくれる“ひとりの人”だった。
そして──
それでも、心が動いてしまうのは、
もう、“君”として好きになってしまったからだ。
目の前の彼が何を思って、どんな夢を見て、どんなふうに笑うのかを知りたくなった。
レオ様のような“理想”ではなく、京橋蒼真という“現実”に、少しずつ引き寄せられていた。
ふと、京橋が何かを感じたのか、視線を向けた。
「ごめん、変なこと言った?」
「ううん、そんなことない。ただ、ちょっと……ドキッとしただけ」
悠翔は、わずかに笑った。その顔には、どこか吹っ切れたような柔らかさがあった。
「誰かを探してた、っていうのは……たぶん、ほんとうだったんだと思う」
「見つかった?」
「うん……」
悠翔は、小さく頷いた。
「でも、それが“誰か”じゃなくて、“今の君”なんだって、最近やっと気づいたかも」
京橋はきょとんとしたあと、くしゃりと照れくさそうに笑った。
「そっか。じゃあ、なんか……ちょっと嬉しいかも」
その言葉に、悠翔の胸の奥で、なにかが静かにほどけていった。
昼休みの時間は、静かに流れていく。周囲のざわめきはもう遠くて、二人の間にだけ、別の時間が流れているようだった。
悠翔は、改めて自分の胸のうちに問いかけた。
これは恋なのか。まだ断言はできない。けれど、前のように“推し”という仮面では隠しきれない。
この気持ちは、たしかに“誰か”ではなく、“君”に向かっている。
そして、その想いが、ようやく自分の言葉としてかたちになった。
「ありがとう」
隣で笑う京橋を見ながら、悠翔は小さく、心の中でそう呟いた。
それはレオ様ではない。けれど、自分の今を照らしてくれる“君”へ贈る、最初の本当の言葉だった。
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