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机の上の運命くじ
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昼休み直前、2年B組の教室には不穏な空気が流れていた。というのも、担任の芦原先生が黒板に「学習バディ制度発足!」とデカデカと書き、くじ箱を持って入ってきたからだった。
「さてさて、始業早々で悪いが、今日はみんなに“運命の番号”を引いてもらうよ」
芦原先生はにやけた顔でくじ箱を高く掲げた。くせっ毛が跳ねたままで、シャツは微妙にズレている。なのに、なぜか話す言葉には妙な説得力があった。
「これからはバディ制度を導入します。授業のペアワーク、グループ課題、文化祭の展示準備まで、基本はバディ単位で行動してもらうからねー」
生徒たちからは「えー!」「うそーん!」という歓声とも悲鳴ともつかない反応が返ってくる。
悠翔は、何気なく席に座りながらも、心の中に小さな警報が鳴っていた。ペア制度。何か嫌な予感がする。これまで、あくまで「隣の席」という、かろうじて安全圏の位置から推しを観測してきたのに、それが崩れかけている。
芦原先生の合図で、前の席から順にくじ箱が回されていく。番号は1から順にバディのペアが決まっていく方式で、同じ番号を引いた者同士が学習ペアになるらしい。
くじ箱が自分の手元に回ってきたとき、悠翔は一瞬、呼吸を止めた。
手を入れる。紙の感触はどれも同じなのに、今この瞬間だけが妙に重い。震える指先で一枚を取り出し、裏返す。
“7”
その数字を見た瞬間、心臓がどくりと大きく跳ねた。
芦原先生が手元の名簿と照らし合わせながら、発表を続ける。
「ナンバー7は……天満と、京橋だね。よろしく」
一瞬、教室の時間が止まったように感じた。
「……は?」
声にはならなかった。だけど、頭の中で全ての音が蒸発していく。自分の目の前で、現実がゆっくりと崩れていく音がした。
そして、ざわっ…という音が耳に入る。まるでクラス全体が一斉に息を呑んだような反応だった。
「え、天満って、あの京橋とペア?」
「マジで?あのコンビ、地味に見えるけど絵になりすぎる」
「なにこの少女漫画展開」
ひそひそとした声が飛び交う中、悠翔の背筋を冷や汗がつうっと伝った。くじを握る手が微かに震えている。口元に出そうな言葉はどれも喉で凍りつき、ただ顔が赤くなるばかりだった。
視線を感じて、恐る恐る右を向く。
京橋蒼真が、こちらを見ていた。
相変わらず整った顔立ち。黒髪は陽に当たって艶やかに輝き、制服の襟元には乱れ一つない。そんな完璧な外見で、彼はにこりと微笑んだ。
「よろしくね、天満くん」
その瞬間、世界がスローモーションになる。
声のトーンも、笑い方も、角度も、完璧すぎた。
悠翔は、もうそれだけで思考が吹き飛んだ。
「……これは夢?パラレル?尊死確定ルート?」
心の声は荒れ狂う。立っていることすら不思議で、足元がふらつきそうになる。教室の光景がぼんやりと霞んで、頭がふわふわする。
こんなに近くで、名前を呼ばれて、笑いかけられて。それはまるで、ページの向こうにしかいなかった“レオ様”が、現実の中で笑っているようだった。
でも違う。これは夢じゃない。目の前にいるのは、“推し”ではなく、京橋蒼真という生徒。生きていて、息をしていて、今、確かに自分を見ている。
悠翔は、ぎこちなく笑い返すのが精いっぱいだった。
「……よ、よろしく」
声が裏返りそうになるのをなんとか抑えて、それだけを言った。
その瞬間、教室のざわめきの音量が一気に戻ってきた。
誰かが「お似合いじゃん」なんて茶化して笑い、誰かが「天満って、意外とイケてたんだな」と意味不明な評価を下す。
けれど、悠翔の中では、もう外の声は聞こえていなかった。
頭の中に鳴り響いていたのは、ただひとつ。
「……もうダメ。これは……好きになってしまう予感しかない」
手のひらには、まだくしゃりと握られた“7”のくじ。
それが、ただの紙切れではなく、自分の物語を大きく変える運命の鍵だったことを、彼はこの瞬間、深く理解した。
「さてさて、始業早々で悪いが、今日はみんなに“運命の番号”を引いてもらうよ」
芦原先生はにやけた顔でくじ箱を高く掲げた。くせっ毛が跳ねたままで、シャツは微妙にズレている。なのに、なぜか話す言葉には妙な説得力があった。
「これからはバディ制度を導入します。授業のペアワーク、グループ課題、文化祭の展示準備まで、基本はバディ単位で行動してもらうからねー」
生徒たちからは「えー!」「うそーん!」という歓声とも悲鳴ともつかない反応が返ってくる。
悠翔は、何気なく席に座りながらも、心の中に小さな警報が鳴っていた。ペア制度。何か嫌な予感がする。これまで、あくまで「隣の席」という、かろうじて安全圏の位置から推しを観測してきたのに、それが崩れかけている。
芦原先生の合図で、前の席から順にくじ箱が回されていく。番号は1から順にバディのペアが決まっていく方式で、同じ番号を引いた者同士が学習ペアになるらしい。
くじ箱が自分の手元に回ってきたとき、悠翔は一瞬、呼吸を止めた。
手を入れる。紙の感触はどれも同じなのに、今この瞬間だけが妙に重い。震える指先で一枚を取り出し、裏返す。
“7”
その数字を見た瞬間、心臓がどくりと大きく跳ねた。
芦原先生が手元の名簿と照らし合わせながら、発表を続ける。
「ナンバー7は……天満と、京橋だね。よろしく」
一瞬、教室の時間が止まったように感じた。
「……は?」
声にはならなかった。だけど、頭の中で全ての音が蒸発していく。自分の目の前で、現実がゆっくりと崩れていく音がした。
そして、ざわっ…という音が耳に入る。まるでクラス全体が一斉に息を呑んだような反応だった。
「え、天満って、あの京橋とペア?」
「マジで?あのコンビ、地味に見えるけど絵になりすぎる」
「なにこの少女漫画展開」
ひそひそとした声が飛び交う中、悠翔の背筋を冷や汗がつうっと伝った。くじを握る手が微かに震えている。口元に出そうな言葉はどれも喉で凍りつき、ただ顔が赤くなるばかりだった。
視線を感じて、恐る恐る右を向く。
京橋蒼真が、こちらを見ていた。
相変わらず整った顔立ち。黒髪は陽に当たって艶やかに輝き、制服の襟元には乱れ一つない。そんな完璧な外見で、彼はにこりと微笑んだ。
「よろしくね、天満くん」
その瞬間、世界がスローモーションになる。
声のトーンも、笑い方も、角度も、完璧すぎた。
悠翔は、もうそれだけで思考が吹き飛んだ。
「……これは夢?パラレル?尊死確定ルート?」
心の声は荒れ狂う。立っていることすら不思議で、足元がふらつきそうになる。教室の光景がぼんやりと霞んで、頭がふわふわする。
こんなに近くで、名前を呼ばれて、笑いかけられて。それはまるで、ページの向こうにしかいなかった“レオ様”が、現実の中で笑っているようだった。
でも違う。これは夢じゃない。目の前にいるのは、“推し”ではなく、京橋蒼真という生徒。生きていて、息をしていて、今、確かに自分を見ている。
悠翔は、ぎこちなく笑い返すのが精いっぱいだった。
「……よ、よろしく」
声が裏返りそうになるのをなんとか抑えて、それだけを言った。
その瞬間、教室のざわめきの音量が一気に戻ってきた。
誰かが「お似合いじゃん」なんて茶化して笑い、誰かが「天満って、意外とイケてたんだな」と意味不明な評価を下す。
けれど、悠翔の中では、もう外の声は聞こえていなかった。
頭の中に鳴り響いていたのは、ただひとつ。
「……もうダメ。これは……好きになってしまう予感しかない」
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それが、ただの紙切れではなく、自分の物語を大きく変える運命の鍵だったことを、彼はこの瞬間、深く理解した。
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