転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

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放課後の保健室/窓から差し込む夕陽の中、記念誌を読みながら

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保健室の窓は少しだけ開いていて、春の終わりを告げるようなやわらかな風がカーテンを揺らしていた。  
夕陽が斜めに差し込み、室内を淡く金色に染めている。  
授業も終わり、生徒の気配が消えた校舎は、少しだけ寂しさを帯びた静けさをまとっていた。

鶴見佳世は、いつものように白衣をラフに羽織ったまま、ベッドの端に腰を下ろしていた。  
手元には、文化祭の記録レポートと、オタ部が制作した創作集『幻想騎士録』。  
そして、なにスタの投稿まとめをプリントアウトした数枚の紙。  
それらを重ねたり、めくったりしながら、彼女は静かに一人でそれらの“証拠”を眺めていた。

ベッドの隅には、文化祭のときに生徒が忘れていった小さなぬいぐるみが転がっている。  
誰のものか特定できず、結局そのまま“保健室の居残り組”となったそれを、  
鶴見は何気なく拾い上げ、手のひらで軽く揉むように持ちながら、口元にふっと笑みを浮かべた。

「言葉が人を変えるとは思っていない。  
でも、言葉でしか届かないものもある。  
特に、あの子たちみたいな子にはね」

声に出して言ったわけではない。  
誰に向けるでもない、ひとりごとに近いモノローグだった。  
窓の外の夕空が、ほんのりと赤みを深めていく。  
遠くから、吹奏楽部の練習音が微かに聞こえてくるのが、なんだか懐かしかった。

鶴見はそっと『幻想騎士録』のページを開いた。  
紙の手触り、印刷されたインクの匂い、表紙のしっかりした質感。  
手製とは思えない完成度だった。

それ以上に、内容が良かった。

詩、短編、挿絵、そして断片的なモノローグたち。  
すべてが、ひとつの物語のように流れていた。  
とくに、“騎士と詩人の誓い”と題された章には、鶴見も思わず目を細めてしまった。

「ちゃんと、物語にしてきたんだね。  
恋も、痛みも、夢も。  
見届けるって、ほんと、罪深くて、尊いわ」

ページをめくる手が一瞬だけ止まった。  
その視線は、挿絵の横顔に留まっていた。  
たしかに描かれた誰か。  
それが誰かを特定しなくても、絵からは“気持ち”が伝わってくる。

そして、その気持ちがまっすぐに紙の上に乗っていることに、鶴見は胸がいっぱいになった。

「誰かを好きになったとき、それを“物語”にできる人は、たぶん幸せだ。  
見つめて終わるんじゃなくて、伝えて、書いて、誰かと共有できる。  
それって、生きてる証じゃん」

昔、自分もそんなふうに思っていた時期があった。  
誰かの背中を見て、ときどき失恋して、でもそのすべてを言葉にして残してきた。  
当時は“黒歴史”だと思っていたけれど、今振り返ると、それは確かに生きていた証だったのだ。

そんなことを思いながら、文化祭レポートのページに目を通す。  
校内展示、発表会、創作発表、そして“星に願いをBOX”の一部抜粋。  
そこには、悠翔が書いた詩の引用と、読んだ生徒の感想が並んでいた。

「泣いた」「勇気をもらえた」「誰かを大事にしようと思った」  
どれも短い言葉だったが、その重さはひとつひとつが本物だった。

鶴見は、その中でもひとつの感想に目を留めた。

「自分の“好き”を隠さなくていいんだって、はじめて思えた」

その一文に、鶴見は静かに目を閉じた。  
まぶたの裏に、いくつもの顔が浮かぶ。  
保健室に泣きに来た子、誰にも言えずに震えていた子、誰かを見つめていた子。  
その全部が、たった一つの言葉で、少しずつ未来へ向かっていた。

「君たちの未来は、小説より奇なり、そして誠なり。  
……なんて、言い過ぎか。  
でも、そうだったらいいなって、思ってるよ」

再びぬいぐるみを机の上に戻し、ゆっくりと立ち上がる。  
窓の外では夕焼けが深まり、校庭が茜色に染まりつつあった。

保健室のドアを開けようとして、ふと振り返る。  
『幻想騎士録』とレポートを重ねて、彼女はそれらを丁寧に保健室の棚へとしまった。

これは、青春の応急処置室で交わされた、  
ひとつの尊い物語の記録として――

そして、また誰かがつまずいたときの、  
ささやかな処方箋となるように。  

鶴見佳世は、静かに灯りを落とした。  
その背中は、いつもどおり少しだけ軽やかで、どこまでも、優しかった。
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