転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

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願いが、夢から祈りに変わるとき

昼休みの教室は、いつもより少しざわついていた。  
誰かが机を寄せて昼食を囲み、スマホを並べ、誰かは教壇前で課題を広げている。  
そんなごちゃごちゃとした空間のなかに、自然に馴染んでいるふたりの姿があった。

悠翔と京橋だった。

ふたりは黒板前の窓際、他愛もない会話を交わしながら笑っていた。  
京橋が何かを差し出し、悠翔が受け取りながら少し照れたように笑う。  
距離は近い。でもべったりしているわけではなくて、どこか“心地いい”空気が漂っていた。

それを、西中島は自分の席から見ていた。  
ノートを開いているふりをしながら、視線はほんのわずかに斜め上。  
そのふたりの存在を、まるで一枚の絵画を見るように捉えていた。

誰にも気づかれていなかった。  
それは西中島にとって、都合のいいことでもあり、少しだけ切ないことでもあった。  
かつては、あの場所に自分が立つことを夢見ていた。  
推しの隣で、推しと笑い合って、推しの世界の一部になることを。

でも今、あたしはここにいて、  
あの人は向こうにいる。

席の間には距離があった。  
だけどその距離が、いまは不思議とやさしく感じられた。

京橋の笑顔は、変わらなかった。  
いつものように、朗らかで、まっすぐで、あたたかい。  
その笑顔が、自分に向けられていなくても――いや、向けられていないからこそ、  
ちゃんと見えていた。

“誰かの幸せを願える自分でいたい”

そう思ったのは、いつからだったろう。  
初めて彼に出会ったあの日から?  
それとも、供給としての彼を知ったあの日から?

いや、たぶん、昨日の屋上だった。  
あのときの「俺、今すごく幸せだよ」という言葉が、  
何よりも真実だったから。

西中島は、視線をそっとノートに戻した。  
ページの上に並んだ文字列は、授業の板書の続き。  
でもそれはもう、あまり意味を持たなかった。

ゆっくりとページをめくる。  
そこには、以前まとめていた京橋に関するデータの一部が残っていた。  
“好物:メロンパン”“視線を向けた先のクセあり”“文化祭では必ず走り回る傾向”

読み返すことはしなかった。  
ただ、右端にあったその日付を確認して、静かに閉じた。

もう、あたしの推しは“記録”じゃない。  
“未来”を生きている誰かだ。  
誰かの隣で、誰かと笑って、その日々のなかで供給される存在として――いや、もっと言えば、誰かと“共有されている”存在として。

ふと、ノートの余白にペンを走らせる。  
書いたのは、ほんの一文だった。

“願いが、夢から祈りに変わるとき、人はようやく手放せる”

ペン先が止まったとき、ふたりの笑い声がまた聞こえた。  
それは遠くもなく、近すぎもせず、まるで音楽のようだった。  
あたしは、その音を聞きながら、ゆっくりと呼吸を整えた。

モノローグが、胸のなかに静かに浮かぶ。

好きって、きっと隣に立つことだけじゃない。  
笑っていてくれることが、いつかの自分の願いと重なるのなら、  
そのとき、推しは“夢”じゃなく、“未来”になる。  

あたしの供給は、もう“あの人の幸せ”でできてる。

隣じゃなくてもいい。  
主役じゃなくてもいい。  
ただ、その笑顔が消えないこと。  
それだけが、今のあたしの願いだった。

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。  
生徒たちがばたばたと席に戻っていくなかで、  
西中島は一人、変わらない姿勢でノートを閉じた。

あたしの物語は、ここでいったん幕を引く。  
でも、それは終わりじゃない。  
推しの物語が続いていくかぎり、あたしの供給もずっと続いていく。

新しい祈りを胸に、あたしは今日も、推しを見ている。
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