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完璧なツーショットに潜む火種
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始業式が終わり、生徒たちは次々と体育館から教室へ戻っていった。春の午前中の空気はどこかふわりと甘く、制服の襟元にまだ慣れない一年生たちの姿が廊下に混じっている。
二年A組の教室も、しばらくぶりの再会と新しいクラス替えの余韻でざわついていた。何人かの女子が早速スマホを手にして、こっそりと壇上で撮った写真を送り合っている。
そのうちの一枚に写っていたのは、並んで頭を下げる一ノ瀬結翔と神城凪の姿だった。ふたりの背丈、立ち姿、顔立ち、そのすべてが「完璧なバランス」だと誰もが思った。
「やっぱあの二人、揃うとやばいね」
「なんていうか…ビジュアルの暴力?目が幸せすぎるんだけど」
「副会長って神城くんまたやるんだっけ?去年もだよね?それってつまりさ…」
口元を押さえながら話す女子たちの視線が、ちらちらと教室後方へ向けられる。
その視線の先、窓際の席に座る凪は、鞄の中から筆箱とノートをゆったりと取り出していた。何気ない仕草すらも絵になるのが、彼の不思議な魅力だった。
対角の席では、結翔が制服の上着を脱いで椅子にかけ、冷静な顔で時間割を見ている。無駄な動きは一切ない。まるで、その場にいることさえ自然の一部のように。
それでも教室全体は、どこかふたりの間に漂う空気を敏感に察していた。
「ねえねえ、神城くんってさ」
急に隣の席の男子、内山が声をひそめて凪に寄ってきた。
「また副会長?ってことはさ、今年もずっと会長と一緒ってことだよな」
凪は肩をすくめ、少し困ったような笑みを浮かべる。
「まあ、そうだね。任されたからには頑張るつもりだけど」
「いや違くてさ…その、あの二人ってさ、やっぱ付き合ってるの?」
内山の声はあくまで冗談混じりだったが、凪の手がほんのわずかに止まった。ノートのページをめくる途中の指が、紙の縁でかすかに揺れる。
一瞬の間を置いて、凪は笑った。喉から出る音は柔らかくて、よく通る。
「ないない。勝手に決めつけないでよ」
その言葉に内山は「だよなー」と苦笑しながらも、何か言いたげに肩をすくめた。
一方、そのやり取りを耳にした結翔は、斜め前の席からちらりと視線を向けた。凪の笑顔と、すぐに視線を逸らして何事もなかったようにノートへ目を戻す様子が、静かに脳裏に焼きついた。
結翔は、少し考える素振りを見せたあと、机に肘をつき、窓の外を眺めるふりをして口を開く。
「…あいつがそう思うなら、それでいいんじゃない」
誰に向けての言葉かは明言されなかった。でも、それは明らかに凪への応答だった。教室にいた数人が、その声に気づき、視線を交差させる。
凪もまた、その言葉を聞いていた。ノートの端に視線を落としたまま、表情は崩さなかったが、指先がページを捲るリズムをほんの少しだけ乱した。
「それでいいんじゃない」
その言葉は、否定のようで、否定ではなかった。
結翔の声には、皮肉も、茶化しも、怒りもなかった。けれど、淡々としている分だけ、余計に引っかかる。
凪は心の奥でその言葉を反芻する。
「それでいいんじゃない」なんて、そんな言い方をされると、逆に問いたくなってしまう。
――“本当は、どう思ってるの?”と。
けれど、それを聞いてしまったら、何かが決壊してしまいそうで。
だから凪は、また笑った。今度は誰にも見せない笑み。ノートの罫線をなぞるように視線を落としながら、微かに口元を緩めるだけだった。
その様子を見た結翔は、静かに視線を戻す。ノートの端に目をやりながら、どこか遠くを眺めるような顔で息をついた。
会話は終わったわけではない。
むしろ今、ようやく始まったのだ。
言葉にしない会話。
交わらない視線。
完璧すぎる呼吸と、噛み合わない感情。
それは恋と呼ぶにはまだ早い。
けれど、ただの“共闘関係”でもないことを、誰よりも二人が自覚していた。
静かな教室の中。
二人の間に流れる空気だけが、どこか別の温度を帯びていた。
昼前の陽光がカーテン越しに差し込み、教室の片隅に春の影を落とす。
その影の中、ふたりの横顔は向かい合うことなく、けれど確かに同じ緊張を抱えて、そこにいた。
二年A組の教室も、しばらくぶりの再会と新しいクラス替えの余韻でざわついていた。何人かの女子が早速スマホを手にして、こっそりと壇上で撮った写真を送り合っている。
そのうちの一枚に写っていたのは、並んで頭を下げる一ノ瀬結翔と神城凪の姿だった。ふたりの背丈、立ち姿、顔立ち、そのすべてが「完璧なバランス」だと誰もが思った。
「やっぱあの二人、揃うとやばいね」
「なんていうか…ビジュアルの暴力?目が幸せすぎるんだけど」
「副会長って神城くんまたやるんだっけ?去年もだよね?それってつまりさ…」
口元を押さえながら話す女子たちの視線が、ちらちらと教室後方へ向けられる。
その視線の先、窓際の席に座る凪は、鞄の中から筆箱とノートをゆったりと取り出していた。何気ない仕草すらも絵になるのが、彼の不思議な魅力だった。
対角の席では、結翔が制服の上着を脱いで椅子にかけ、冷静な顔で時間割を見ている。無駄な動きは一切ない。まるで、その場にいることさえ自然の一部のように。
それでも教室全体は、どこかふたりの間に漂う空気を敏感に察していた。
「ねえねえ、神城くんってさ」
急に隣の席の男子、内山が声をひそめて凪に寄ってきた。
「また副会長?ってことはさ、今年もずっと会長と一緒ってことだよな」
凪は肩をすくめ、少し困ったような笑みを浮かべる。
「まあ、そうだね。任されたからには頑張るつもりだけど」
「いや違くてさ…その、あの二人ってさ、やっぱ付き合ってるの?」
内山の声はあくまで冗談混じりだったが、凪の手がほんのわずかに止まった。ノートのページをめくる途中の指が、紙の縁でかすかに揺れる。
一瞬の間を置いて、凪は笑った。喉から出る音は柔らかくて、よく通る。
「ないない。勝手に決めつけないでよ」
その言葉に内山は「だよなー」と苦笑しながらも、何か言いたげに肩をすくめた。
一方、そのやり取りを耳にした結翔は、斜め前の席からちらりと視線を向けた。凪の笑顔と、すぐに視線を逸らして何事もなかったようにノートへ目を戻す様子が、静かに脳裏に焼きついた。
結翔は、少し考える素振りを見せたあと、机に肘をつき、窓の外を眺めるふりをして口を開く。
「…あいつがそう思うなら、それでいいんじゃない」
誰に向けての言葉かは明言されなかった。でも、それは明らかに凪への応答だった。教室にいた数人が、その声に気づき、視線を交差させる。
凪もまた、その言葉を聞いていた。ノートの端に視線を落としたまま、表情は崩さなかったが、指先がページを捲るリズムをほんの少しだけ乱した。
「それでいいんじゃない」
その言葉は、否定のようで、否定ではなかった。
結翔の声には、皮肉も、茶化しも、怒りもなかった。けれど、淡々としている分だけ、余計に引っかかる。
凪は心の奥でその言葉を反芻する。
「それでいいんじゃない」なんて、そんな言い方をされると、逆に問いたくなってしまう。
――“本当は、どう思ってるの?”と。
けれど、それを聞いてしまったら、何かが決壊してしまいそうで。
だから凪は、また笑った。今度は誰にも見せない笑み。ノートの罫線をなぞるように視線を落としながら、微かに口元を緩めるだけだった。
その様子を見た結翔は、静かに視線を戻す。ノートの端に目をやりながら、どこか遠くを眺めるような顔で息をついた。
会話は終わったわけではない。
むしろ今、ようやく始まったのだ。
言葉にしない会話。
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けれど、ただの“共闘関係”でもないことを、誰よりも二人が自覚していた。
静かな教室の中。
二人の間に流れる空気だけが、どこか別の温度を帯びていた。
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