「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦

中岡 始

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生徒会室、沈黙と再始動

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放課後の校舎は、日中の喧騒を忘れたように静けさを取り戻していた。窓の外では、まだ肌寒い春風が枝を揺らし、かすかな花びらを空へと舞い上げている。夕暮れの光が差し始めた生徒会室は、ほんのりと暖かく、どこか懐かしい空気に包まれていた。

ドアが静かに開く音がして、神城凪が一番乗りで部屋に入ってきた。制服のネクタイを緩めることもなく、几帳面に椅子を引き、会議用のプリントを机に並べ始める。資料の端を揃える手つきは相変わらず丁寧で、無駄な動きひとつない。

続いて入ってきたのは一ノ瀬結翔。ドアを開ける音に、凪は顔を上げることなく「お疲れ」とだけ声をかける。結翔も同じように、「ああ」と短く返し、凪の正面にある自分の定位置へ向かった。

机を挟んで向かい合う形で、ふたりが座る。

その間、わずかに空いた席には、まだ他の生徒会メンバーが到着していなかった。春の始まりとはいえ、学校全体がどこか緩やかな立ち上がりを見せるこの季節、生徒会もまた、まだ本格始動とはいかない。今日は顔合わせと、年間行事の確認程度の軽いミーティング。それでもふたりの間には、張り詰めたような空気が静かに流れていた。

「……今年もこの席、変わらないんだな」  

ふと、結翔が呟いた。  

凪はプリントを見ながら、かすかに目だけを上げる。  

「そうだね。まるで、去年の続きをしてるみたい」  

言葉は穏やかだったが、その奥には微かな緊張があった。去年と同じなのは、役職と席順だけ。関係性の空気は、明らかに変わっていた。

「けど、続きって言えるほど何かがあったわけでもないだろ」

結翔の言葉には棘があったわけではない。むしろ淡々としていた。けれどその冷静さこそが、どこか遠回しな拒絶に聞こえる。

凪は一瞬だけ視線を逸らし、それから静かに笑う。

「まあ、そうかもね」

会話がそこで止まる。ふたりの間にまた沈黙が落ちた。  

そこへ、書記の御堂筋と書記補佐の心斎橋まゆが連れ立って入ってくる。  

「あ、こんにちはー。あれ?今日は二人が先なんだ」  

まゆが軽い口調でそう言うと、凪は「たまたまだよ」と返し、結翔は手元の資料に視線を落としたまま何も言わなかった。  

御堂筋は着席しながら机の上にタブレットを置き、「今年もよろしくお願いします」と形式的な挨拶を交わす。まゆもそれに続く。

結翔は顔を上げ、「ああ、よろしく」とだけ短く返した。

他のメンバーも徐々に集まり始め、ほどなくして会計の堺筋、庶務の谷町、庶務補佐の長堀が揃う。全員が着席したところで、凪が軽く資料を手に取り、開いた状態のまま結翔の方へ差し出した。

「これ、今日の議題と年間行事案」  

手渡された紙を受け取る瞬間。ふたりの指先が、かすかに触れそうになる。けれど結翔は、まるで反射的に手を引いた。ほんの一秒もなかった動きだが、凪はその小さな反応を見逃さなかった。

だが何も言わなかった。声も表情も変えず、次のページへ視線を移しただけだった。

ふたりのやり取りに気づいた者は、おそらくいなかった。けれどそこには、たしかに何かが存在していた。  

ふたりの間にある、目には見えない緊張。けれどそれは、拒絶ではなかった。ただ、触れてしまったら壊れてしまいそうな、曖昧な境界線のようだった。

「……会議、始めようか」

凪が柔らかく声を発した。その声は、張り詰めた空気を少しだけ和らげるような響きを持っていた。

結翔も頷きながら答える。

「そうだな」

それだけで、部屋の中の空気がまた一歩、動き出す。  

谷町が資料を見ながら静かに言う。「文化祭の時期、去年と同じでいいんじゃないか?」  

御堂筋がメモを取りながら補足を入れる。「企画案は来週提出の予定で通してます」  

自然に議論が進んでいく。生徒会としての仕事は滞りなく、機能的に動いていた。去年と同じように。

けれど、ふたりの間には、決して去年にはなかった“気配”が漂っていた。

言葉にすれば壊れてしまいそうな距離。けれど、その沈黙の中で交わされる感情は、言葉以上に確かなものを孕んでいた。

視線が交わるたびに、どちらかが先に逸らす。会話は事務的。笑い合うことも、冗談を交わすこともない。

それでも、机の向こうにいる相手の体温が、指先が、息遣いが、どうしようもなく気になって仕方がない。

それはたぶん、去年にはなかったもの。

お互いに、それを口に出す勇気もなければ、認めるほど素直でもない。

ただ、その沈黙の中にだけ、たしかなものがあった。

「……変わらないようで、全部変わってるのかもしれない」

凪は心の中で、ふとそんな言葉を呟いた。

けれどそれも、口にすることはないまま、またひとつ、議題が終わったことを確認するようにページをめくった。  

そしてふたりは、同じ速度で紙の音を立てた。  

音だけが揃っている。その不器用な一致が、今のふたりのすべてを物語っていた。
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