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光と影のツーショット
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朝の光が清水坂を照らしていた。柔らかな日差しは店先の和菓子や、色とりどりの着物姿の観光客に反射して、どこか非現実的な空気を纏っていた。班行動の一環として清水寺を巡る凪たちのグループも、その風景の一部になっているようだった。
参道を歩く人波の中、凪は自分の足音と、隣にいる結翔の足音がわずかにずれていることに気づいていた。いつもよりほんの少し、結翔が前を歩いている。声をかけようか迷いながらも、周囲のカメラを向ける視線に注意を引かれ、口を開くタイミングを逸してしまう。
「はい、次、凪くんと結翔くん並んで!」
軽やかな声が後ろから飛んだ。カメラを構えたのは同じ班の女子生徒で、彼女はすでにスマホのシャッターに指をかけた状態だった。
「ちょっとそこ、止まって。背景ちょうどいいし、清水の舞台見えるし!」
自然な流れだった。凪も結翔も、何も言わずにその場に立ち止まり、並ぶ。
凪は一歩引いて結翔に合わせようとしたが、結翔がわずかに身をずらして同じ位置に立った。並んでいるのに、少しだけ重なる肩のライン。風が吹いて、凪の髪が横に流れる。その先に結翔の頬があって、ほんの一瞬、髪が触れたような気がした。
「今の、めっちゃいい感じ!もう一枚!」
女子たちは盛り上がっていたが、ふたりの間に流れていた空気は、その喧騒とは別の場所にあった。
凪は笑顔を作る。けれど、その口元はうまく上がらなかった。口角の左側は自然に動いたのに、右側だけがわずかに硬い。写真に写る自分を意識しすぎたときに起こる、特有の緊張だった。
どう見られているかよりも、どう見せてしまっているのか。それが気になって仕方がなかった。
この写真を誰かが見たら、きっと“仲がいい”と思うだろう。
“いい感じだね”なんて言葉も、簡単に飛んでくるかもしれない。
でも、そんなふうに“見せたくて見せてるわけじゃない”という気持ちが、引きつった微笑となって表情に滲んだ。
結翔はというと、特にポーズをとるでもなく、無表情でカメラを見ていた。いつも通り、淡々とした顔。だが、シャッター音が鳴るその直前、一瞬だけ、視線が凪の方へ向いていた。
気づかないふりをしていたが、凪はわかっていた。
その目線が、自分の横顔をなぞっていたことを。
一枚の写真が記録として残る。それはただの画像データに過ぎないはずだった。けれど、後から見返したとき、そこに写った一ノ瀬結翔の視線の行き先を誰かが気づいたとしたら――
それは、“証拠”になる気がした。
ふたりはその後も撮られ続けた。清水の舞台、手水舎の前、五重塔の下、石段の上。
そのたびに「はい、並んで」「こっち見て」「ちょっと近づいて」の声に応じる形で、自然と並んで立った。
けれど、凪の心の中では“自然”という言葉が次第に重たくなっていった。
自然に見えるのは、ふたりが特別だからではない。
何度もこうして“並ばされて”きたからだ。
その累積が、ふたりを無意識のうちに、ある“かたち”にしてしまっていた。
そして、それが崩れるのが怖かった。
「ありがとう、もう十分撮れたよー」
女子たちが満足した様子でスマホを確認し始める。凪と結翔は、何事もなかったかのように少し距離を取り、再び参道を歩き始めた。
足音はまた、微妙にずれていた。
凪は、ふとポケットの中でスマホを握り直す。画面を開くと、さきほどの写真がすでにクラスグループの共有フォルダに上がっていた。
結翔の視線が、自分の横顔に向けられている写真。
無表情のはずのその顔が、なぜか少しだけやさしく見えた。
それを見つめながら、凪は眉をわずかに寄せ、目を伏せた。
これは、誰が見ても“映える”写真だった。
でも、それ以上の意味を持たせてはいけない。
そう思ったのに、胸の奥に何かが残ってしまった。
ほんの一瞬の視線。
誰にも気づかれないほどささやかな仕草。
でも、それが凪にとっては一番強く、鮮やかに焼きついた。
結翔の指先が風に揺れた自分の髪に触れようとして、やめた朝の記憶が、再び心によみがえってくる。
視線は、触れるよりも鋭い。
それが写真に焼きついてしまった瞬間、
ふたりの距離は、無意識に少しだけ、変わっていた。
参道を歩く人波の中、凪は自分の足音と、隣にいる結翔の足音がわずかにずれていることに気づいていた。いつもよりほんの少し、結翔が前を歩いている。声をかけようか迷いながらも、周囲のカメラを向ける視線に注意を引かれ、口を開くタイミングを逸してしまう。
「はい、次、凪くんと結翔くん並んで!」
軽やかな声が後ろから飛んだ。カメラを構えたのは同じ班の女子生徒で、彼女はすでにスマホのシャッターに指をかけた状態だった。
「ちょっとそこ、止まって。背景ちょうどいいし、清水の舞台見えるし!」
自然な流れだった。凪も結翔も、何も言わずにその場に立ち止まり、並ぶ。
凪は一歩引いて結翔に合わせようとしたが、結翔がわずかに身をずらして同じ位置に立った。並んでいるのに、少しだけ重なる肩のライン。風が吹いて、凪の髪が横に流れる。その先に結翔の頬があって、ほんの一瞬、髪が触れたような気がした。
「今の、めっちゃいい感じ!もう一枚!」
女子たちは盛り上がっていたが、ふたりの間に流れていた空気は、その喧騒とは別の場所にあった。
凪は笑顔を作る。けれど、その口元はうまく上がらなかった。口角の左側は自然に動いたのに、右側だけがわずかに硬い。写真に写る自分を意識しすぎたときに起こる、特有の緊張だった。
どう見られているかよりも、どう見せてしまっているのか。それが気になって仕方がなかった。
この写真を誰かが見たら、きっと“仲がいい”と思うだろう。
“いい感じだね”なんて言葉も、簡単に飛んでくるかもしれない。
でも、そんなふうに“見せたくて見せてるわけじゃない”という気持ちが、引きつった微笑となって表情に滲んだ。
結翔はというと、特にポーズをとるでもなく、無表情でカメラを見ていた。いつも通り、淡々とした顔。だが、シャッター音が鳴るその直前、一瞬だけ、視線が凪の方へ向いていた。
気づかないふりをしていたが、凪はわかっていた。
その目線が、自分の横顔をなぞっていたことを。
一枚の写真が記録として残る。それはただの画像データに過ぎないはずだった。けれど、後から見返したとき、そこに写った一ノ瀬結翔の視線の行き先を誰かが気づいたとしたら――
それは、“証拠”になる気がした。
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そのたびに「はい、並んで」「こっち見て」「ちょっと近づいて」の声に応じる形で、自然と並んで立った。
けれど、凪の心の中では“自然”という言葉が次第に重たくなっていった。
自然に見えるのは、ふたりが特別だからではない。
何度もこうして“並ばされて”きたからだ。
その累積が、ふたりを無意識のうちに、ある“かたち”にしてしまっていた。
そして、それが崩れるのが怖かった。
「ありがとう、もう十分撮れたよー」
女子たちが満足した様子でスマホを確認し始める。凪と結翔は、何事もなかったかのように少し距離を取り、再び参道を歩き始めた。
足音はまた、微妙にずれていた。
凪は、ふとポケットの中でスマホを握り直す。画面を開くと、さきほどの写真がすでにクラスグループの共有フォルダに上がっていた。
結翔の視線が、自分の横顔に向けられている写真。
無表情のはずのその顔が、なぜか少しだけやさしく見えた。
それを見つめながら、凪は眉をわずかに寄せ、目を伏せた。
これは、誰が見ても“映える”写真だった。
でも、それ以上の意味を持たせてはいけない。
そう思ったのに、胸の奥に何かが残ってしまった。
ほんの一瞬の視線。
誰にも気づかれないほどささやかな仕草。
でも、それが凪にとっては一番強く、鮮やかに焼きついた。
結翔の指先が風に揺れた自分の髪に触れようとして、やめた朝の記憶が、再び心によみがえってくる。
視線は、触れるよりも鋭い。
それが写真に焼きついてしまった瞬間、
ふたりの距離は、無意識に少しだけ、変わっていた。
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