【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)

文字の大きさ
43 / 90
第二章 ヒノデの国(下)

前線へ

しおりを挟む
「クソ、どうなってやがんだ…!」
「…人間で魔術が使えるヤツがいるように、魔物にもそんなヤツがいるんだろ。だが、まいったな」

 波が収まりまだ砂浜に立っている人間達を見て魔物が怒り狂ったような声を上げ、猛然と砂は目掛けて突進し、勢いのままに長い尾で薙ぎ払う。その攻撃を難なく避けることのできた三人だが、違和感を感じていた。
 静電気のようなものを感じたのだ、三人ともが。
 嫌な予感がして一度下がり龍を見てみればパチ、パチンと何かが弾ける音が聞こえる。そして目を凝らすとそれが電流であることがわかり、三人は途方に暮れた。

「火も水も雷も操るなんて、なんなのアイツ神かなにか⁉︎」
「案外海神様って言い伝えもなまじ間違ってねえな。…状況があんまりにも不利すぎるだろ。擦りでもしたら一発であの世行きだ」

 未だに空からは雨が降り、三人の身体は濡れている。そんな状態で近接戦に持ち込もうものならどんな結末が待っているかは想像に難くない。先程タリヤが命懸けで作り出してくれた活路を無駄にはしたくないが、それでもあまりに状況が悪い。
 マヅラは苦悶の表情を浮かべた。
 ここまでかと、そう頭に過った時だった。

「僕なら近付けると思う」

 場違いな程前向きで真剣な声に三人の視線がそちらを向く。
 そこに立っていたのはラファエルだった。

「…この状況でも死にたがり発動すんのか天使ちゃんよ。んな状況じゃねえこと見てわかんねえのか‼︎」
「わかってるから言ってる」

 焦りから怒気を飛ばすオヅラを真正面から受け止めてラファエルは言い放つ。

「僕にはあの攻撃は当たらない。僕はそういう風になってる」
「エル…?」

 心臓がドクドクと脈打ってうるさい。不安で胸が押し潰されそうだった。けれど、もうラファエルは決めたのだ。

「冗談でもからかってるわけでもない。…僕は並大抵のことじゃ死なない。そういう加護を受けてるんだ」

 誰もがその言葉の意味がわからなかった。ずっとラファエルの側にいたアルフレッドでさえ、その言葉の意味を計りかねている。それ程までに不自然なことをラファエルは言っていた。けれど今はそれを確かめるような時間もない。
 龍の口がまた赤く光る。ラファエルは剣を抜いて走った。

「待て‼︎」

 アルフレッドの制止を振り切ってラファエルは龍の前へと躍り出た。
 自分の右目を潰した相手だからだろう、龍の残った左目に剣呑な光が宿りその炎の行き先をラファエルただ一人に絞った。瞬く間に龍の口から灼熱が噴き上がりその熱波がアルフレッド達がいる場所にも届く。
 魔力を持たないラファエルにあの炎を防ぐ術はなく、アルフレッドの表情が絶望に染まり止めようと伸ばした手はラファエルに届くこともなく宙を掻いた。

「エル!」

 号哭にも似た声でアルフレッドが叫ぶのと、灼熱がラファエルを襲ったのはほぼ同時。禍々しく揺らめく炎の中にラファエルが掻き消されたのを目の前で見ることしか出来なかったアルフレッドは一拍の逡巡の後憎悪を激らせた。
 目の前の魔物を必ず討ち取ると誓い、大剣の柄を握り直す。

 ギャオオオオオオオオ‼︎

 只事ではない龍の叫び声にオヅラ達が目を凝らす。

「なんだ⁉︎」

 揺らめく炎の奥で赤が舞ったのを見た。
 龍は痛みに悶え苦しみ何度も絶叫して無差別に長い尻尾を地面に叩きけ、己に傷を与えた人間を消そうと攻撃を繰り返す。

「…嘘でしょ」

 マヅラの驚愕の声が落ちた。

「…マジで当たらねえ」

 炎と熱気が雨によって消えたその先で繰り広げられた光景に二人は目を見開く。それはアルフレッドも同じだった。
 地響きしそうな程重たく、そしてその巨躯には見合わない程の俊敏さで繰り出される攻撃はまるでラファエルをわざと避けているかのように当たらない。先程炎で焼かれた筈なのに目立った傷も見当たらず、避ける素振りを見せている訳でもないのにラファエルの身体は難なく龍に近づき、胴に剣を突き立てるが硬質な鱗の前に弾かれて舌打ちと共に後ろに下がる。

「アルフ!」

 喉が張り裂けそうな程に叫ぶ。

「コイツの攻撃は僕が全部引き受ける!だから」
「そんなことさせられるわけないだろうが!」

 隣に立とうと足を踏み出したアルフレッドの腕をオヅラが掴んで止める。

「任せていいんだなラファエル!」
「…うん!」

 ラファエルは笑った。その場に似合わない心底嬉しそうな笑みを浮かべて、再び龍と対峙する。

「離せ。腕切り落とすぞ」
「てめえも冷静になれやアルフレッド。さっきの見ただろ、アイツにはマジで攻撃が当たらねえ」
「だからなんだ、万が一のことがあったら」

 語気も荒く言い募り片腕で大剣を振りかざそうとした時、オヅラは叫んだ。

「男の覚悟を無駄にすんじゃねえよ‼︎」

 ぴたりとアルフレッドの腕が止まる。

「…アイツの加護とかいうヤツもいつまで保つかわからねえ。俺達がしなきゃならねえのはこんな下らねえ言い争いじゃなくてあのバケモンを殺すための策を練ることだ。無駄にすんなよ、この時間はアイツが命懸けで作ってるもんだ」

 雷を纏った龍の体がラファエルに向かって容赦なく振り下ろされる。当たることはないが、それでも全神経を集中して交わし反撃に転じるには相当な気力と体力を消耗する。雨で足場も視界も悪く、一瞬の油断がまさしく命取りになる。

 アルフレッドはこんな状況をラファエルが最も好むことを知っていた。何より楽しそうに笑って命の危険に自ら首を突っ込む姿を数え切れないほど見てきた。
 けれど今ラファエルは笑っていない。歯を食いしばって龍を睨み、全身で息をしながら先程の言葉通り全ての攻撃を引き受けている。
 アルフレッドは固く目を閉じて、そして開ける。
 その表情に先程までの憂いは無く、瞳には決意の光が宿っていた。

「…一撃で仕留めるぞ。お前らの力を貸してくれ」

しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
 【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!  僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして? ※R対象話には『*』マーク付けます。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色
BL
「ぼく、あくやくれいそくだ」弟の誕生と同時に前世を思い出した七海は、悪役令息キルナ=フェルライトに転生していた。闇と水という典型的な悪役属性な上、肝心の魔力はほぼゼロに近い。雑魚キャラで死亡フラグ立ちまくりの中、なぜか第一王子に溺愛され!?

処理中です...