【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第三章 東の国の大きなお風呂編

祖父、困る

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 ──その頃、ウエレスト大陸霊山フェデルの中腹に建造された大聖堂の一室にて、一人の老人が机に両肘をついて神妙な顔で悩んでいた。

「……んぐうううう」

 いつもはミトラを被っているのだが今はそれは今飴色に輝く精巧な作りのテーブルに置かれている。席の背後には陽の光が十分に取り込めるようにと大きな窓が設置されていて、そこから入り込む光が老人のつるんとした頭部に反射してなんとも神々しい。
 老人はとても悩んでいた。ここ数ヶ月、否ここ二十年で最も悩んでいると言っても過言では無かった。それくらいに老人は悩んでいる。悩みすぎてもはや何を悩んでいるのかすらわからなくなる程度に悩んでいた。

 眉間にググッと皺を寄せ口をへの字に曲げていつまで経っても解決しない悩みに「んぐう」と苦々しく呟いた後に、ミトラの横に置いてある物に視線を滑らせた。
 そこにあるものはそれ自体では特に意味を成さないものではあるのだが、現在尾鰭がついている噂も合わさるととんでもない信憑性を生む代物になってしまう。

「んぐうううう」

 老人は悩んだ。非常に悩んでいた。やはり悩み過ぎてどう言葉にすればいいのかすっかりわからなくなってただ唸ることしか出来なくなっていた。
 すると聞こえたノックの音に老人は驚きでぴょん! とこれもまた洗練されたデザインの椅子から飛び上がり慌ててミトラを被る。ごふんごふんと大袈裟な咳をしてしれっとテーブルに置いていたとあるものもやけに布の多い服の皺の間に隠す。

「入って良いぞい」
「失礼します、猊下。先ほどから何を唸っておいでなのですか? もしや腰痛が…」
「わしのこと老人扱いし過ぎじゃない?」
「もう十分老人でしょう猊下」
「まだ元気じゃもん! ぜんっぜん元気じゃもんね! 確かに腰痛いけども!」

 ぷりぷりと怒って豊かな白い髭をふわふわと揺らす教皇の姿に側近の男性はふう、と息を吐いて銀縁の眼鏡を押し上げた。

「……以前までは猊下の体のケアは聖女様がしてくださっていましたからね」

 しんみりとした側近の言葉に教皇リマはぎくっと肩を揺らした。背中に嫌な汗が流れるのを感じながら机の上に組んだ手で口元を隠すようにしながら、なるべく悲しそうに見えるように俯いた。
 嵩の高いミトラのおかげで影がいい感じに表情もその他も隠してくれている。

「そうじゃなぁ」
「……最近は聖女様が実は生きているなんて噂もありますし。……やはりあの方はこの世になくてはならない方だったのですね……」
「……そうじゃな」

 リマは小さな声で呟いた。側近はそれからいくつか連絡事項と書類をテーブルに置いて部屋から出て行ったものの、リマはそれから少しの間その体勢から動けなかった。だがしかし内心は「ングううう」と悩みの悲鳴を上げていた。

 脳裏に浮かぶのは、というかここ数ヶ月頭に浮かんで離れないのは孫のように可愛がっていた聖女の姿だ。滅多に笑うことはない、けれど心根が綺麗で優しい子を思い出し、少しばかり心が軽くなる。
 だがしかし服の皺の間に隠した巷で流行しているらしいアクセサリーをそっと取り出し、最も目立つ場所に嵌め込まれている石を見てリマは白くて長い髭をもさもさと一心不乱に撫でた。

「んぐううううどうしたらいいんじゃああ」

 石の色は冬の海を思わせる濃くて暗い青。けれど不思議と柔らかさすら感じさせるその不思議な色合いをリマはよく知っていた。数ヶ月前まではもう二度と見ることが叶わないと思った色だ。
 孫のように可愛がっていた子の目の色とそっくりだった。それが商品として売られているのは良いのだ。それ自体にはなんの問題もない。けれどこの石が使われた商品が「聖女の慈愛」という名前で売られているのがいけない。
 否、それだけでも別に問題は無いのだ。問題はもっと別の場所にある。

 数ヶ月前ネジュノで目撃情報のある高火力の魔法、そこから間を置かずに起こったフロレ・シェリでの落雷。それ以外にも各地で沢山の情報が出回っている。

「んぐうっふうううううう」

 リマは頭を抱えた。人生のほとんどをノリと勢いで生きてきたリマは今人生で最も悩んでいた。

「迂闊、迂闊なんじゃよなああ」

 迂闊の申し子と言っても過言ではないリマを持ってしても迂闊と言わざる得ない状況にリマは唸った。そして解決策が浮かぶことなく時間だけが過ぎた数日後、リマはまたしても椅子からぴょん! と飛び上がることになる。

「教皇様、フェルゼン殿がどうしてもと」
「うむうむいいよー。 わざわざ遠回しに来なくてもいいのにのう」
「そういうわけにもいかないでしょう」

 そしてやってきた魔王討伐の立役者の一人、フェルゼンの姿にリマはほこほこと笑った。相変わらず岩のような大男だなぁと思っていればその口から飛び出した言葉にリマは椅子から飛び上がった後に三点倒立までしそうになった。それほどまでに衝撃だった。

(迂闊! あまりに迂闊じゃよステラちゃん!)

 教皇リマは、己の孫(仮)の迂闊さに溢れ出そうになる涙を必死に堪えていた。
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