【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第三章 東の国の大きなお風呂編

甘酸っぺえ肉入り芋揚げ

 ステラたちはそれからもう数日ほどアズマヒの国に滞在した。その間もたくさんの美味しい料理を食べた。串に刺さっているきゅうりの漬物に魚の塩焼き、他の国では見たことのない麺料理に舌鼓も打ったし、何より心待ちにしていたのはあの料理だ。

『肉入り芋揚げが欲しいんだぞ!』

 今日も今日とてリヴィウスに抱き上げられたてぷの元気な声にステラは頷いた。アズマヒの国はいつ通りに出ても明るい時間帯は人が多い。この国に来た始めは子供を抱き上げた大男の図は目立っていたが滞在日数が長くなるとそれも受け入れられて今では視線を貰うことは殆どない。
 嘘である。

 てぷは持ち前のかわいらしさで顔馴染みが出来たらしくそこここから「てぷちゃん」「てぷちゃん」と呼ばれているし、リヴィウスはあの顔でこの体つきである。視線を奪わないはずがない。ステラはそれが数日前までは然程気にはならなかった。むしろ目立って当然だとすら思っていたため仕方がないとすら思っていた。
 だがしかし、今は心境が違う。こう、端的に言えば気に入らないのだ。

 リヴィウスが目立つのは当然だ。客観的に見てそう判断出来るし、それは仕方がないことなのに今のステラにはどうも街行く男女見境ないリヴィウスに対する秋波に腹の奥が少し、ほんの少しだけむかむかとしていた。
 なんの関わりもない人たちにそんな感情を向けるのはおかしい、絶対におかしいのだとステラはわかっている。だがしかし、一度むかつきを自覚してしまったら止められなくなってしまったのだ。だから今ステラは必死に無表情を貫いている。少しでも気を抜けば不機嫌な顔になってしまうからだ。
 こういう時ばかりは自分の背がそう高くなくて良かったと思う。

「おい」

 すぐ側で声が聞こえてハッと顔を上げれば極近い距離にリヴィウスがいてステラは目を丸くする。

「ど、どうしました?」
「離れて歩くな。手を握っていろ」

 差し出された手を見て「でもてぷ様が」と続けようとするがリヴィウスの逞しい片腕が抜群の安定感でてぷを支えているのを見て無駄な心配だと判断し、ステラは逆らうことなく手を乗せた。すると自然と指を交差するような、これまでと違う繋ぎ方に未だにステラは慣れない。
 でもその触れ方が嬉しいと思ってしまって、今の今まで感じていた不快感が綺麗さっぱり消えてしまった。

『迷子防止がもう一人増えたんだぞ』
「わ、私のは不可抗力です!」
『被害は一番大きんだぞ。ステラが迷子になったらボクが大変なんだぞ、すごく。リヴィがとんでもなく不機嫌になるから大変なんだぞ』

 ゆっくりと歩きながらてぷの言葉を聞くとステラは何も言えなくなってしまう。以前にキキョウの話も聞いているから余計にだ。リヴィウスの迷子は純粋な迷子だから被害は少ないが、ステラの迷子は今のところ全て危険度が高い。
 聖女の時も勇者一行で冒険をしていた時もしっかり者で通っていたはずなのにここに来て迷子予備軍になってしまったことにステラは不甲斐ないと感じざるを得なかった。

「こうしていれば逸れないから大丈夫だ」

 穏やかな低音だ。けれどそこに以前まではあまりなかった温度が籠っているのをリヴィウスはわかっているのだろうか。
 不可抗力、なし崩し的、色々な言い方はあるけれど結果として肌を重ねたあの日からリヴィウスのステラに対する態度が変わった。そしてそれはステラもそうだ。ただステラの場合は今まで躊躇なく出来ていた行為がどうも恥ずかしくなって躊躇ってしまうようになった。

 リヴィウスはその逆で、積極的にステラに触れて来るようになったのだ。その所為でステラの心臓はいつだって早鐘を打っている。顔だって少し熱いから、きっと頬も少し赤くなっているだろう。
 だけどそれは背の高いリヴィウスには見られることはない。そういうところも、ステラは自分の背がそこまで高くなくて良かったと思う点だった。

『……甘酸っぱいんだぞ……』

 その後、芋揚げの店に到着しすっかり顔馴染みになった店主に肉入り芋揚げを受け取ったてぷがそんなことを遠い目をしながら呟いた。芋上げはどちらかといえば塩味が強く、そこに胡椒などのスパイスも効いていて甘酸っぱいとはかけ離れている。
 それにリヴィウスとステラが首を傾げたのを見て、てぷは盛大な溜息を吐くのだった。
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