【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第四章 西の国の救国の聖女編

ジョゼフ

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 自分が祭り上げられている儀式だと思わなければこのお祭りは非常に楽しいものだった。見たことがない料理が並ぶ屋台にかつての仲間の真似をした子供たちが笑顔ではしゃぐ姿、平和になって良かったと心から笑う人たち。それらを見られただけでステラの心は満たされる。
 喧騒から少し離れた場所にあるベンチにステラたちは腰掛けて、てぷは木の棒に刺さった雲のような飴を嬉しそうに食べていてリヴィウスとステラは木製のカップに入った温かなコーヒーを飲んでゆっくりとしていた。

「……お前が育った街は随分賑やかだな」
「今日は特別ですね、お祭りですから」
『この飴口に入れた途端溶けるんだぞ!』
「まるで飴が喋っているみたいだな」

 リヴィウスとステラの間に座っているてぷが持っている飴は非常に大きくててぷの頭よりも大きいのではないかと思う。それをはぐはぐと食べている姿は非常に愛らしく、ステラの表情はどこまでも緩んだ。

『ここの次はどこにいくんだぞ?』

 あぐあぐと飴を食べながらの問いにステラは考えるように上を向いた。

「そうですね。まだ南の方へ行けていないので、そっちに行くのも楽しいかもしれません。海で泳いでみましょうか」
『それ楽しそうなんだぞ!』
「海だと魚か」
「美味しいご飯があるといいですね」

 当然のように次の目的地の話題が出ることにステラは内心安堵と、そして少しの申し訳無さを感じていた。顔を上げれば霊山フェデルがあり、その中腹には大聖堂がある。そして今は魔王を倒した祭りの最中で、もしかしたらこの人通りの中にかつての仲間が歩いていることだってあるかもしれない。

 ステラは今確かにこの土地に郷愁を感じている。けれどそれだけだ。不思議な程に戻りたいという思いや仲間たちに会いたいという感情は湧いてこない。
 薄情だなと思う。けれど今名乗り出たところで混乱を招くだけだ。
 何故なら聖女は死んでいるのだから。だからステラは迷わなかったし、今後もこの選択を後悔する時は訪れないと言い切れる。

「南だとまた色々な街を経由して行きそうです」
「……それは構わんが、面倒ごとに積極的に首を突っ込む癖を治せ。この前も復興の手伝いだの悪漢を捕まえろだの散々だったぞ」
「ふふ、それはすみません。でも旅を始める前に私は言いましたよ? 復興のお手伝いをするのもいいかもって。悪人を捕まえたのは不可抗力です」
『ステラは困ったヒトの子を見捨てられないから仕方がないんだぞ。それにお礼に美味しいものくれるからボクは大賛成なんだぞ!』

 途中立ち寄る小さな町や村、孤立した集落には十分な物資が無かったり魔物の襲撃の爪痕が色濃く残っていたりする場所もある。ステラたちはそういう場所を訪れる度に微力ながら協力をしているのだ。
 ただ力仕事になると大抵リヴィウスに頼ってしまうからか本人は少し不満気ではある。

「……魔法を使えば一瞬で済むものを」
「駄目です。私もうっかりしていましたが、人間で魔術を自在に操れる人はとても少ないんです。だから小さな魔法なら大丈夫ですが、大きな岩を動かしたり風を起こしたり派手な攻撃魔法を使うのは禁止です。人前では」
「……分かっている」

 と言いつつも不満気な横顔に眉尻を下げて笑う。今度の旅でそういった機会に直面したら自分も力仕事を手伝おうとステラは密かに決めた。許されるかどうかは別の話ではあるのだが。
 次の旅の目指す場所も大雑把に決まると心が少し軽くなる。ステラは手に持っていたコーヒーを飲んで一息吐いた。目の前に祭りの賑やかな景色が広がる中、背後の茂みからガサガサと何やら音がしてステラは思わず振り返る。

「にゃあん」

 茂みから顔を出したのは真っ黒な猫だ。毛が長く、そして通常の猫よりも体の大きなその子に、ステラは見覚えがあった。

「……ジョゼフ?」
「にゃ」

 返事をするように短く鳴いた猫を見てステラは目を丸くした。思わず立ち上がってベンチにコーヒーのカップを置き、大きな体を抱き上げる。そのずっしりとした重量感と、抱き上げられて一切抵抗しない肝の太さ、そして何より太々しいのに愛らしいその表情は間違いなくかつての旅の序盤で助けた猫、ジョゼフだった。

「なんだそれは」

 リヴィウスの問いにステラは興奮気味に口を開いた。

「ジョゼフです。冒険に出たばかりの頃出会った子なんですが、まさかここにいるなんて。……ふふ、前よりも毛艶も肉付きも良いですね。素敵なご家族と出会えましたか?」
「にゃにゃにゃん」
「そうですか。よかったです」

 もっふもふの毛に顔を埋めるとそれまで美味しそうに飴を食べていたてぷの表情がぐあっと険しくなった。

『……なんだか、なんだか面白くないんだぞ……!』

 その言葉にリヴィウスが鼻で笑い、てぷの機嫌が少し下がる。いつものやり取りにストップを掛けようとした時、ジョゼフが「にゃおん」と鳴いた。その途端、ステラの足元に真っ白に光る魔法陣が展開された。

「ぇ」
(これは…っ⁉︎)

 ステラは目を見開いた。
 まずい。そう思った時にはもう遅く光は一瞬にして消え去りそれと一緒にステラとジョゼフの姿も消える。瞬きよりも早く起きた事態をリヴィウスたちが理解するのはそのもう一瞬あとのこと。ざわりと、雲の流れが変わった。
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