【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第四章 西の国の救国の聖女編

お久しぶりのおじいちゃん

 一瞬の浮遊感のあと、ステラの両足はきちんと床を踏み締めた。それまで大人しくステラの腕に収まっていたジョゼフが役目は終わったとばかりに飛び降りてとてとてと扉の方に歩いていく。
 その様子にステラは慌てるでもなく、けれど僅かな焦りを感じながら大きく深呼吸した。
 ステラが今いるのは白を基調とした石造の広間だ。床には磨き上げられた大理石が敷き詰められていて、等間隔で繊細な彫刻が施された石柱の並ぶこの内装をステラは知っている。
 後ろを振り返るとこの場所から少し離れた場所に祭壇があるはずだ。女神リーベやこの世界を守る精霊たちに供物を捧げる祭壇だ。そしてその前には前壇があり、そこから階段を降りると今ステラが立っている場所になる。
 騒ぐ心臓を落ち着けてからステラは後ろを振り向いた。そして階段を登った先にいる人物を見て懐かしさで胸が押し潰されそうだった。

「……おじい」
「ステラちゃんやーー‼︎」
「は、走ったら駄目ですおじいちゃんもうご年齢がっ!」

 修道服と違って聖教者の服装は色が鮮やかだ。今日も光沢のある白い生地に匠の技が光る金糸の刺繍が施された裾の長い服に身を包み、肩からは金のストラを垂らし、頭には服と同じ色彩のミトラを被った御年七十は越えようかという老人の走り出す姿にステラは目を見開いた。

「おぐふうっ!」
「ああっ! だから言ったのに!」

 階段を降りる手前で腰を押さえてその場に頽れた教皇リマにステラは言わんこっちゃないと駆け寄ってすぐさま腰に手を当てた。口の中で癒しの呪文を唱えるとステラの手から眩い光が放たれ、それはリマの腰に吸収されていく。

「……ステラちゃん、なんか力強くなってない?」
「生き返ったら何故かこうなっておりまして……」

 それまで腰を押さえて悶絶していたリマは痛みが消えた腰をさすりながらのそりと起き上がり磨き抜かれた大理石の床に座り込んだ。ステラもその隣に腰を下ろし。豊かな白い髭を蓄えたリマの姿を見てステラは眉を下げた。

「……お久しぶりですおじいちゃん」
「うん、久しぶりじゃのうステラちゃん。元気そうで何より。髪の毛短いのも似合うね」

 目を細めて笑う姿に胸が締め付けられる。つい先程まで会わなくても問題無いし、後悔もしていないと思ったばかりなのに実際に目の前にするとそれらが強がりだったのだと一瞬で自覚した。

「ほひゃ⁉︎  ステラちゃん泣かないで。どうしたんじゃ? どっか痛いのかの? それともお腹空いたのかの? もしかして怒ってるのかのっ?」

 視界が滲み、喉からみっともない引き攣った声が溢れる。リマの皺々の手が気遣わしげにステラの背中を撫でる。こんなふうに触れて貰ったのはいつぶりだろうか。ステラがまだ一桁歳の頃だっただろうか。
 けれどその手つきの優しさと体温にステラの涙は止まらずぼたぼたと大粒の雨のような涙が溢れてくる。

「お、おじいちゃん…っ」
「ほいほい、どうしたんじゃステラちゃん」

 こうやって名前を呼んでくれるのは数年前までリマだけだった。そうした原因を作ったのもまたリマだけれど、それを気にしてステラに沢山の愛情をくれていたことも知っている。だからこそ、この柔らかな声で呼ばれる名前がステラは好きだった。

「……生きてるって言えなくて、ごめんなさい…っ」
「いいんじゃよぉ。生きててくれてありがとね」

 小さな頃は大きいと感じていた体がステラの体を抱き締める。その温もりにもっと涙が止まらなくなってステラは子供のように泣きじゃくった。その間リマは穏やかに目を細めステラが泣き止むまで短くなった髪を慈しむように撫でてくれていた。
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