【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

文字の大きさ
100 / 105
終章 辺鄙な土地でのこれから編

あれから一年後の世界

しおりを挟む
 魔王を討ってから一年経つ日を祝う祭りで起きた事件。聖女と共に倒したはずの魔王が蘇り、ウエレスト大陸の首都リュメールに出現し勇者たちと交戦したあの日から早いもので一年が経とうとしている。
 あの日の出来事はその現場を目撃した人から見ていない人に伝わり、話には尾鰭がついてきっと多分世界全土に広がった。

「世界の危機に救国の聖女が降臨し、今度こそ魔王を討ち倒した」

 軽くいえばこの程度だが、あの日魔王と聖女の消える間際のやりとりを見た人は違う解釈もしている。
 あの時聖女と魔王は戦う訳ではなく、手を触れ合わせて消滅した。それは聖女による浄化の光が魔王を射抜いたのではなく、魔王と聖女は互いに寄り添うようにして消えたのだと言うものだった。
 始めは誰もそんな話を信じはしなかった。「魔王は世界の危機を前に蘇った聖女によって永遠に封印された」この方がわかりやすく、また大衆は受け入れやすかったからだ。だがしかし、人間の想像力とは豊かなものなのだ。

「魔王と聖女さまって、禁断の組み合わせだよね」
「確かにー。しかもさしかもさ、魔王ってすっっごいカッコ良かったんでしょ? お祭り行ってた子から聞いたの!」
「世界を滅ぼしかけた魔王と、その魔王と一緒に死ぬことを選んだ聖女さま……。え、待って、これってすんごく良いシチュエーションじゃない⁉︎」
「ちょっとあんたたち! そんな無礼なことお言いでないよ!」
「えー、でも想像するくらい自由じゃん。実際のとこなんて誰にもわかんないんだしさ」
「そうそう」

 西と東の大陸の丁度中間地点、辺境の地ともいわれる街の比較的若い住民で賑わう飲食店での会話。空はどこまでも青く澄んでいて、空気も爽やかで、深呼吸すれば草木の香りを肺いっぱいに吸い込むことのできる過ごし易い時期。

 甘味と軽食が評判の店では持ち帰りにも対応していて少女たちがきゃっきゃと話している間にも何組かのお客が持ち帰りのセットメニューを購入しては帰っていく。
 魔王が復活し、そして聖女がその魔王と共に姿を消した日から一年。世界は確かに平和になっていた。
 アズマヒの国での魔族により甚大な被害が発覚し、世界は一斉に魔族狩りに立ち上がった。そのお陰で地上にいた魔族は殲滅され、今度こそ魔族による脅威は消え去った。今の世界にある問題といえばモンスターの討伐や、ヒドラとは違う犯罪組織の取り締まりだろうか。
 小さな問題は上げたらキリがないほどにあるけれど、それでも魔族がいた時に比べればそんなものは些細なことだった。

「いらっしゃい。今日は何を買っていくんだい?」
「この燻製肉と、あと野菜をいくつか。おすすめはありますか?」
「お、それならこれなんてどうだい? 山間部で育った珍しい野菜なんだけどね、これがスープに入れると美味いんだ」
「あ、じゃあそれいただきます」
「毎度あり!」

 街の中にあるマルシェは賑わっていて、道にはみ出さない程度に展開された商品はどれもこれも美味しそうだ。その中からいくつかの野菜と、店の奥に飾られている燻製肉のブロックを購入した人物はこの店主とも顔馴染みらしく気さくに会話を楽しんでいた。

「今日は一緒じゃないのかい?」

 店主の視線が今しがた買い物を終えた人物の隣や後ろ、それからもうちょっと後ろの方を覗き見る。けれどそこには期待した人物はおらず、そんな店主の様子を見たお客は苦く笑った。

「この前女性たちに囲われたので懲りたみたいで」
「……? ああ、確かにありゃ駄目だな。顔が良いってのも考えもんだなぁ」
「あはは。これ、ありがとうございました。また」

 木で編まれた籠を軽く持ち上げてから笑顔で去っていく人の背中に「今後ともご贔屓にー!」と大きな声を掛けて店主は後ろを振り返った。

「ねえちょっと」
「おわあ! 何だいびっくりすんだろ!」

 随分と近い距離にいた常連客に店主は驚いた。けれどそんなものは知らないとばかりにずずいと常連客が顔を寄せる。

「あれ、あの人とあんた仲良いの?」
「んあ? あー、あの人なぁ。仲が良いってほどじゃあねえけどまあ普通に話はするぜ。なんたって大事なお客様だからな! で、あの人がどうかしたのかい?」
「いやあ特に何かあるってわけじゃないんだけどね。ただ気になるじゃないか、なんていうか独特でさあ」
「……ああー、それは確かに」

 店主はマルシェの賑わいをそよ風のように歩いていく背中をもう一度見た。短く切り揃えられた黒髪で男にしては低めの身長に、少し心配になるくらいの華奢な体。けれど本人は至って健康で、顔を合わせればよく笑う優しい印象の好青年だ。

 けれどその青年を印象付けているのは昨年から流行り出した「聖女の慈愛」という石と全く同じ色の目を持っているというのが一番大きい。
 いつの間にか街に現れてたまにふらっとやってきて様々な店で買い物をしてまたふらっといなくなる。誰もその人がどこに住んでいるのかも知らず、名前を知っている人すらいない。

 それだけでも随分と目立つのに、その人はたまに目の覚めるような美丈夫を連れてやって来るのだ。
 月の光を集めたような白銀の髪に、宝石をそのまま埋め込んだような赤い目。体格もそれはそれは恵まれていて二人が並んでいる姿はどちらかといえばチグハグなのに、どうにもこれ以上ない程似合いの二人に見えるのだから不思議だ。

「まあ不思議は不思議だけど」

 寄り添うようにしてたまにやってくる二人を思い出して店主は自然と口角が上がった。

「俺にとっちゃ良いお客さんだな!」

 豪快に笑ってそう言えば常連客は呆れたように息を吐いた。
 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる

水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。 「君のすべては、俺が管理する」 戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。 これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

処理中です...