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第16話 末路・エドモンの場合 俯瞰視点(3)
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「なっ!! 言いつけ!? 貴様なにを――」
「僕も君とは、長々と話をしたくない。だから手短に理解と認識をさせてあげましょう。僕達の力の差をね」
鼓膜が破れんばかりの大声を遮り、フレデリクは従者から計9枚の書類を受け取りました。
「それは……。なんなんだ……!?」
「こちらは、エドモン・ダーファルズの行動に関する報告書ですよ。貴方はいずれニネットに飽きるだろうと思い、式を挙げた日から――半年前より近くに『目』を置き、逐一監視をさせていました。なのでさっき、あのように言及できていたのですよ」
レナ・レヴィオルズに接触するな――。
飽きているニネットと生涯過ごせ――。
監視の目があったが故に、彼はそう口にしていたのです。
「そ、そういえば……あれは、知られるはずのないこと……!! いっ、いつの間に……!! 全然気が付かなかった――」
「そう。僕は貴方がた一家に一切悟られることなく、こういった行動を取れるのですよ」
叫び続けるエドモンの半分程度も声量がなく、ゆっくりと紡がれた台詞。ですがそれはエドモンに、大きなショックを与えるものでした。
なぜならばこんな芸当が可能であれば、他のことだって可能なのですから。
「貴方は自惚れ続けて、甘やかされ続け、理解できていないようですが――。貴方にも家にも、貴方が思っている程の力はありません。僕達の間には、こんなにも差があったのですよ」
「……………………」
「したがってやろうとすれば、力で押し潰す、も可能。……お分かり、いただけましたよね? 賢明な判断を期待しており――」
「さっ、先程は無礼を働き申し訳ございません!! ぼっ、暴言暴挙ををお許しくださいませ!!」
ようやく――生まれて初めて自身の実態を知ったエドモンは、車内の床に両膝をつけました。同じく生まれて初めて、無様な姿を晒しました。
「仰られているように俺はっ、いえわたしはっ、自惚れてしまっておりまして!! 力ある方に、とんでもない愚行を働いてしまいましたっ!! 猛省しておりますっ!! でっ、ですのでっ!!」
「……『ですので』――。それらを許して欲しいと?」
「ニネットは、なぜかあんなことになってしまいまして!! 傍に置いておくだけで、苦痛なのですっ!! そっ、そういえばあの女はっ、貴方様のご夫人に悪行を働いていたと聞いています!! ですのでっ、次期伯爵夫人となるよりっ、平民堕ちの方がよいとは思いませんかっ!? 今こそご夫人のっ、長年の憂さを晴らす時でございますよ……!!」
エドモンは偶然にもアンジェリーヌを思い出し、そこを利用しようと殊更声を張り上げました。利害が一致すると、思い込んで――。
「僕も君とは、長々と話をしたくない。だから手短に理解と認識をさせてあげましょう。僕達の力の差をね」
鼓膜が破れんばかりの大声を遮り、フレデリクは従者から計9枚の書類を受け取りました。
「それは……。なんなんだ……!?」
「こちらは、エドモン・ダーファルズの行動に関する報告書ですよ。貴方はいずれニネットに飽きるだろうと思い、式を挙げた日から――半年前より近くに『目』を置き、逐一監視をさせていました。なのでさっき、あのように言及できていたのですよ」
レナ・レヴィオルズに接触するな――。
飽きているニネットと生涯過ごせ――。
監視の目があったが故に、彼はそう口にしていたのです。
「そ、そういえば……あれは、知られるはずのないこと……!! いっ、いつの間に……!! 全然気が付かなかった――」
「そう。僕は貴方がた一家に一切悟られることなく、こういった行動を取れるのですよ」
叫び続けるエドモンの半分程度も声量がなく、ゆっくりと紡がれた台詞。ですがそれはエドモンに、大きなショックを与えるものでした。
なぜならばこんな芸当が可能であれば、他のことだって可能なのですから。
「貴方は自惚れ続けて、甘やかされ続け、理解できていないようですが――。貴方にも家にも、貴方が思っている程の力はありません。僕達の間には、こんなにも差があったのですよ」
「……………………」
「したがってやろうとすれば、力で押し潰す、も可能。……お分かり、いただけましたよね? 賢明な判断を期待しており――」
「さっ、先程は無礼を働き申し訳ございません!! ぼっ、暴言暴挙ををお許しくださいませ!!」
ようやく――生まれて初めて自身の実態を知ったエドモンは、車内の床に両膝をつけました。同じく生まれて初めて、無様な姿を晒しました。
「仰られているように俺はっ、いえわたしはっ、自惚れてしまっておりまして!! 力ある方に、とんでもない愚行を働いてしまいましたっ!! 猛省しておりますっ!! でっ、ですのでっ!!」
「……『ですので』――。それらを許して欲しいと?」
「ニネットは、なぜかあんなことになってしまいまして!! 傍に置いておくだけで、苦痛なのですっ!! そっ、そういえばあの女はっ、貴方様のご夫人に悪行を働いていたと聞いています!! ですのでっ、次期伯爵夫人となるよりっ、平民堕ちの方がよいとは思いませんかっ!? 今こそご夫人のっ、長年の憂さを晴らす時でございますよ……!!」
エドモンは偶然にもアンジェリーヌを思い出し、そこを利用しようと殊更声を張り上げました。利害が一致すると、思い込んで――。
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