９年ぶりに再会した幼馴染に「幸せに暮らしています」と伝えたら、突然怒り出しました

第３話 光と影 ソリーヌ視点（２）

（（！　寄付の話じゃなかったんだ。あのお金持ちが、里親になろうとしている！！））

　偶然院長室の前を通っている時に話し声が漏れてきて、お父様が孤児院に行っていた申請が通ったと知った――。お父様が真っ当な人物だと全会一致で判断され、いつでも孤児を引き取れる状態になっていたのだと知った。

（（…………だとしたら……。わたくしが選ばれる可能性が、高い……！））

　あれは、本当に意図しない出来事だった。

「うわ！？」
「ぁっ！　大丈夫ですかっ！？　すぐ救急箱を持ってきますっ！」

　門の掃除をしていた際にお父様が転んで膝を激しく打ち、周囲の印象を更に良くするべく大急ぎかつ率先して治療を行った。
　その際にお父様はいたく感動していて、その出来事を活かせばわたくしを引き取りたいと言うだろうと思った。

（（とはいえ……。順番を考えると……。アリアンに奪われてしまう危険性も、ありますわね……））

　ウチでは基本的に・・・・・・まずは孤児全員と面談を行い、その上で引き取り手が孤児を選び、それに孤児が同意をすえば成立となるのだけれど――。その面談は名前が若い方から始まるようになっていて、ソリーヌであるわたくしより先にアリアンがする。

　お父様が引き取る孤児は、ひとり。

　もし初回の面談をしている間にアリアンに注目するようになってしまったら、アリアン以外の孤児には興味を持たなくなってしまう可能性がある。わたくしに面談が回って来なくなり、スタートラインにさえ立てなくなってしまう危険性がある。

（（それは、駄目。金持ちは、絶対に渡さない……！！））「アリアンは確か、今の時間……」
「あ、ソリーヌ。どうしたんですか？」
「あのね、ちょっと聞きたいことがありますの。内緒話をさせてもら――きゃ！？」
「！？　危ないソリーヌ――きゃあ！？」

　転んだフリをしてアリアンに倒れ掛かり、咄嗟に抱き留めようとしたアリアンを下敷きにして倒れる。そうすることで打撲や軽い捻挫をさせてアリアンは念のために病院へと行くようになり、面談は最後になる――わたくしの方が先に行えるようにしたのだった。

「お待たせいたしました。ソリ―ヌと申します」
「君はさっきの……！　あの時はありがとうね。助かったよ」

　そこからも計画通りに進んでくれて、思っていた通りお父様はわたくしに特別な意識を持っていた。だからソコを巧みに利用して――お父様がわたくし以外に興味を持たないようにさせ、わたくしは最高の形で孤児院から巣立てることになったのだった！

「転んだ瞬間心配をしてくれた上に、懸命に治療をしてくれた。その優しさに心を奪われたそうよ」
「そ、そんな……。優しい、だなんて……」
「おめでとう、ソリーヌ。ふふ。急いでパーティーの準備をしないとね」
「院長先生。その必要はありませんわ」
「え……？」
「パーティーは要りません。お父様はあのように仰ってくれていましたし、このまますぐ孤児院を出ますわ」

　あらゆる面で、わたくしよりもアリアンを『上』にする――。見る目がまるでない&不愉快な気持ちにさせてくる連中とパーティーなんてしたくないし、こんな貧乏くさいところから一秒でも早く出たかった。
　それになにより――。
　アリアンはわたくしに懐いていて、突然別れると『悲しい思い』をさせられると思った。
　だからわたくしは突然みんなの前から姿を消し、勝ち組と言っていい第二の人生を歩み始めたのでした。



　そう、あの時は思っていたのに――