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第28話 不思議な おかしな リュクレース視点
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『リュクレースちゃん、フィリベールちゃん、大舞台が決まっても何も変える必要はないよ。アンタらにとっては、それが一番なのさね。……ま、それは本人達が一番実感しているだろうし――。くくくっ。アルカンシェルに向けた練習をしようと集まっても、すぐ独りでに趣旨が変わってしまうだろうからねえ』
主催者推薦枠でのエントリーが決まった直後にいただいた、そんなアドバイス。
さすがはマリィ先生。仰る通りでした。
「リュクレース、出場おめでとう。それに合わせて今後の予定を調整しておいた。空いた時間は自由に使ってくれ」
「フィリベール、出場おめでとう。可能な限り今後の予定は空けた。空いた時間は自由に使ってもらって構わない」
舞台が舞台です。わたしもフィリベール様も万全の態勢を整えていただき、わたし達自身も本番を意識して練習を始めました。
ですが――。
連弾が始まりふたつの音が絡み合い始めると、そんな意識はあっという間に姿を変えてしまいます。
((なんて素敵な音……! 綺麗……! 楽しい……!!))
もっともっとこの音を聴きたい。もっともっと弾いていたい。
そんな、わたし達にとってお馴染みの感情が溢れてくる。
物事には『慣れ』や『飽き』が付き物と言われますが、そのようなことはまったくありません。いつまで経っても初めて音を絡め合わせた時の感動があって、いついつも『永遠にこの時が続けばいいのにな』と思ってしまうのです。
しかも、『不変』なのはソコだけではなくて――
「リュクレース様、もう一つ山を登れそうな気がしませんか?」
「わたしも、そう思っておりました。登れると思います!」
より音が調和するようになったら、どうなるのか知りたい――。音を追及する気持ちも、あの頃とまったく変わらないのです。
――いい意味で、ゴールという名の限界が見えない――。
今まで以上に音が共鳴していています! すごい……この音、大好き!
合わせを繰り返した結果、大きな手応えを感じる。
その時は、わたしも――フィリベール様も、最高の音を出せた、と思うんです。
「…………いや……。まだ、道がある気がしませんか?」
「ですね。わたしも目の前に、道の気配を感じています。うずうずしています……!」
でもそうしていたらすぐに『自分達ならもっと良い音を出せる』という感情が湧いて来てくるんですよね。
なのでわたし達は常に全力で前へと走り続けることができて、無意識的にアルカンシェルに向けた最高の練習ができているんですよね。
「ふふ。僕達、変わっていますね」
「はい。私達、変わってますね」
大舞台に向けて更に力を入れて練習しようと思っても、いざ始まると結局は自分達が楽しむ『趣味の時間』になってしまう。
そんな『おかしな』ことにわたし達はいつも微苦笑を浮かべ、その後も一切変わらないまま音を重ね続け――
9月19日。ついに、アルカンシェルの幕が開けたのでした。
主催者推薦枠でのエントリーが決まった直後にいただいた、そんなアドバイス。
さすがはマリィ先生。仰る通りでした。
「リュクレース、出場おめでとう。それに合わせて今後の予定を調整しておいた。空いた時間は自由に使ってくれ」
「フィリベール、出場おめでとう。可能な限り今後の予定は空けた。空いた時間は自由に使ってもらって構わない」
舞台が舞台です。わたしもフィリベール様も万全の態勢を整えていただき、わたし達自身も本番を意識して練習を始めました。
ですが――。
連弾が始まりふたつの音が絡み合い始めると、そんな意識はあっという間に姿を変えてしまいます。
((なんて素敵な音……! 綺麗……! 楽しい……!!))
もっともっとこの音を聴きたい。もっともっと弾いていたい。
そんな、わたし達にとってお馴染みの感情が溢れてくる。
物事には『慣れ』や『飽き』が付き物と言われますが、そのようなことはまったくありません。いつまで経っても初めて音を絡め合わせた時の感動があって、いついつも『永遠にこの時が続けばいいのにな』と思ってしまうのです。
しかも、『不変』なのはソコだけではなくて――
「リュクレース様、もう一つ山を登れそうな気がしませんか?」
「わたしも、そう思っておりました。登れると思います!」
より音が調和するようになったら、どうなるのか知りたい――。音を追及する気持ちも、あの頃とまったく変わらないのです。
――いい意味で、ゴールという名の限界が見えない――。
今まで以上に音が共鳴していています! すごい……この音、大好き!
合わせを繰り返した結果、大きな手応えを感じる。
その時は、わたしも――フィリベール様も、最高の音を出せた、と思うんです。
「…………いや……。まだ、道がある気がしませんか?」
「ですね。わたしも目の前に、道の気配を感じています。うずうずしています……!」
でもそうしていたらすぐに『自分達ならもっと良い音を出せる』という感情が湧いて来てくるんですよね。
なのでわたし達は常に全力で前へと走り続けることができて、無意識的にアルカンシェルに向けた最高の練習ができているんですよね。
「ふふ。僕達、変わっていますね」
「はい。私達、変わってますね」
大舞台に向けて更に力を入れて練習しようと思っても、いざ始まると結局は自分達が楽しむ『趣味の時間』になってしまう。
そんな『おかしな』ことにわたし達はいつも微苦笑を浮かべ、その後も一切変わらないまま音を重ね続け――
9月19日。ついに、アルカンシェルの幕が開けたのでした。
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