わたしとの約束を守るために留学をしていた幼馴染が、知らない女性を連れて戻ってきました

柚木ゆず

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第29話 幼馴染2人のその後~リュクレースの場合・その8~ リュクレース視点(1)

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「ふふ。僕達は、あの雲に縁があるみたいですね」
「また、会いましたね。ドーナツ好きな方が居るのだと、雲も分かるのかもしれませんね」

 アルカンシェル当日。開催の宣言など全出場者が参加しなければならないものを終えたわたし達は、会場の裏――出場者のみ立ち入りを許されているスペースで、空に浮かぶドーナツ型の雲を並んで眺めていました。

 ――控え室は数名であり数組での共同利用となっていて、どうしてもふたりきりにはなれない――。

 ですので『そうなれる場所』で本番に備える方々も少なくなく、わたし達も集合ギリギリまでここで過ごすことにしていたのです。

「困りました。あと二十数分で控え室に戻らないといけないのに、あの雲を見たらドーナツが食べたくなってきましたよ」
「そのお声を聞いていたら、わたしもいただきたくなってきました。あの、フィリーベル様おススメのドーナツを」

 あれは、先々週のことでした。最近注目しているドーナツを持ってきてくださり、合わせたあとにいただいたんです。
 曰く作り方に一工夫あるらしく非常に食感がよくて風味もよく、舌だけではなく鼻でも楽しめる逸品で。あっという間にわたしもファンになったんです。

「気に入っていただけて嬉しいですよ。でしたらすぐに――と言いたいところですが、僕達には大事なことが待っています。後日お持ちしますね」
「ありがとうございます。楽しみにしています」

 青空の中を優雅に漂うドーナツを見上げながら、約束をする。それこそドーナツのような、ほんわかした会話をしたり。

「そういえば、今日の発表を見て驚きましたよね。インテグリティを選んだペアは、あんなにもいらっしゃるだなんて」
「全体の6割くらいでしたよね。例年よりも2割ほど多いそうですよ」
「僕達よりも歴も実力も上の方々が、同じ曲で勝負をする。……不思議ですよね。その事実を理解しても、なんら気持ちに変化はありません」
「普通は気負いなど様々な感情が押し寄せてくるのに、それがありませんよね」
「「この大舞台がどんな風に音に作用する? そちらが気になって仕方がありません」」

 良い意味で、自分達だけしか見えない。
 もちろん頭の中には、先生や推薦者の皆様のお顔に泥を塗らないようにしないといけない――『何かしら受賞しないと』という感情があるのですが――。演奏のことを考えると、どうしてもその気持ちが大きくなってしまうのです。
 そんな、非常に不思議な心境に微苦笑を浮かべたり。
 わたし達はリラックスした状態で時を過ごすことができ、控え室に集合する時間となりました。ですのでわたし達は、控えてくれていたナディアやフィリベールの従者グレンさんと共に移動を行い――

 控え室について、すぐのことでした。

 あまりにも大きなトラブルが発生していたのだと、気付くことになるのでした。


「そんな……。おじい様のお守りが、ない……?」
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