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第14話 いざ 真鈴視点(3)
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「『この中に、幽霊が見える人はいませんか?』。転校して最初の挨拶で、彼はいきなりそんなことを言い出したんですよ」
あの時は、本当にビックリしたなぁ。
「水前寺くんは去年幽霊の声が聞こえるようになって、困っている幽霊を助けていたんです。だけど姿が見えないから悪い幽霊に騙されて大怪我を負ってしまって、悪霊かを判断できる人を探していたんですよ。だから、みんなに聞いていたんです」
「危険な場所に案内されてしまって……お見苦しいのですが……。入院しないといけないほどの大怪我をしてしまいまして、もう声だけでは判断できなくなってしまったんです」
お腹にある、大きな傷。申し訳なそうにしつつ、奈々子さんと穂波さんに見せた。
「水前寺くんはとても優しい人で、自分を犠牲にして動いていたんです。でも学校の人達はそんなこと知らないし、もし話しても信じない。案の定クラスメイトは声をかけなくなって、お昼休みには悪い先輩に囲まれちゃって。以前の私みたいな状況になりかけてたんですよ」
「その時助けてくれたのが、市川さんでした。しかも、親身になってくれました」
「自分みたいに苦しむ人を、増やしたくなかったんです。だから理由を知りつつも止めようとしていて、そうしたら水前寺くんはなんて言ったと思います?」
「…………わ、分かりません」
「私も……。分かりません」
「彼はですね――。『困っている人がいたら、助けたいじゃないですか』、って言ったんですよ」
真っすぐな目をして。
「自分が大変な目にあったとしても、困っている幽霊を放っておけない。……すごい、と思いました。こんな人がいるんだ、って思いました」
だから。
「だから私は、やめるのをやめたんです。幽霊が見えるって伝えて、水前寺くんのお手伝いをしようと決めたんです」
「……嫌な思いをされているのに、市川さんは協力をしてくれるようになったんです」
水前寺くんを助けたい。私の幽霊助けの始まりは、ソレから始まった。
「正直言うと最初は幽霊じゃなくて、そんな素敵な水前寺くんを守りたくて動いていました。けど美緒ちゃんという女の子のお願いを叶えて……嬉し涙を流しながら天に昇っていく姿を見て、幽霊を救いたいという気持ちも強くなったんです」
《お兄ちゃんとお姉ちゃんのことね、ずっと忘れません!》
《美緒(みお)うれしい!》
《お兄ちゃん、お姉ちゃん、大好き!》
その声は直接聞けなくても、表情はちゃんと見えた。
困っている幽霊を助けて、みんなをこんな笑顔にしたい。そう、強く思うようになった。
「裕介さんと約束した時も、同じです。裕介さんは春斗くんにずっと謝罪をしたくて、奈々子さんと春斗くんにもう一度会いたくて、悩んで苦しんでいました。その願いを叶えてあげたくて、こちらを訪ねたんですよ」
「……………………」
「奈々子さん。彼も私も、裕介さんに――奈々子さんと春斗くんにも、笑顔になってもらいたいと思っているんです。どうか、信じてくれませんか?」
教科書、ノート、書類。改めてそれらを見て、真っすぐ奈々子さんを見つめる。
そうしていると、奈々子さんはごくっと唾を飲み込んで――
「今までごめんなさい。貴方達を信じますっ。信じさせてもらいます!」
――っっ!
奈々子さんはテーブルにつくくらい頭を下げてくれて、テーブルの上にはぽとりと嬉し涙が落ちたのでした。
あの時は、本当にビックリしたなぁ。
「水前寺くんは去年幽霊の声が聞こえるようになって、困っている幽霊を助けていたんです。だけど姿が見えないから悪い幽霊に騙されて大怪我を負ってしまって、悪霊かを判断できる人を探していたんですよ。だから、みんなに聞いていたんです」
「危険な場所に案内されてしまって……お見苦しいのですが……。入院しないといけないほどの大怪我をしてしまいまして、もう声だけでは判断できなくなってしまったんです」
お腹にある、大きな傷。申し訳なそうにしつつ、奈々子さんと穂波さんに見せた。
「水前寺くんはとても優しい人で、自分を犠牲にして動いていたんです。でも学校の人達はそんなこと知らないし、もし話しても信じない。案の定クラスメイトは声をかけなくなって、お昼休みには悪い先輩に囲まれちゃって。以前の私みたいな状況になりかけてたんですよ」
「その時助けてくれたのが、市川さんでした。しかも、親身になってくれました」
「自分みたいに苦しむ人を、増やしたくなかったんです。だから理由を知りつつも止めようとしていて、そうしたら水前寺くんはなんて言ったと思います?」
「…………わ、分かりません」
「私も……。分かりません」
「彼はですね――。『困っている人がいたら、助けたいじゃないですか』、って言ったんですよ」
真っすぐな目をして。
「自分が大変な目にあったとしても、困っている幽霊を放っておけない。……すごい、と思いました。こんな人がいるんだ、って思いました」
だから。
「だから私は、やめるのをやめたんです。幽霊が見えるって伝えて、水前寺くんのお手伝いをしようと決めたんです」
「……嫌な思いをされているのに、市川さんは協力をしてくれるようになったんです」
水前寺くんを助けたい。私の幽霊助けの始まりは、ソレから始まった。
「正直言うと最初は幽霊じゃなくて、そんな素敵な水前寺くんを守りたくて動いていました。けど美緒ちゃんという女の子のお願いを叶えて……嬉し涙を流しながら天に昇っていく姿を見て、幽霊を救いたいという気持ちも強くなったんです」
《お兄ちゃんとお姉ちゃんのことね、ずっと忘れません!》
《美緒(みお)うれしい!》
《お兄ちゃん、お姉ちゃん、大好き!》
その声は直接聞けなくても、表情はちゃんと見えた。
困っている幽霊を助けて、みんなをこんな笑顔にしたい。そう、強く思うようになった。
「裕介さんと約束した時も、同じです。裕介さんは春斗くんにずっと謝罪をしたくて、奈々子さんと春斗くんにもう一度会いたくて、悩んで苦しんでいました。その願いを叶えてあげたくて、こちらを訪ねたんですよ」
「……………………」
「奈々子さん。彼も私も、裕介さんに――奈々子さんと春斗くんにも、笑顔になってもらいたいと思っているんです。どうか、信じてくれませんか?」
教科書、ノート、書類。改めてそれらを見て、真っすぐ奈々子さんを見つめる。
そうしていると、奈々子さんはごくっと唾を飲み込んで――
「今までごめんなさい。貴方達を信じますっ。信じさせてもらいます!」
――っっ!
奈々子さんはテーブルにつくくらい頭を下げてくれて、テーブルの上にはぽとりと嬉し涙が落ちたのでした。
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