見える私と聞こえる転校生

柚木ゆず

文字の大きさ
43 / 45

第19話 全部解決 真鈴視点(1)

しおりを挟む
「今日のあったことは、一生忘れません。改めて言わせてください。ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」

 裕介さんを見送って、5分くらい経った頃かな。色々な感情を整理した奈々子さんと春斗くんが、私達の手を順に取ってくれた。

「市川さんと水前寺くん。お二人に出会えなかったら――ううん。お二人が諦めずにお声をかけてくれたから、あの人をちゃんと見送ることができました。本当に、ごめんなさい。本当に、ありがとうございます」
「お姉さん、お兄さん、何回も来てくれてありがとうっ!」
「あんなことがあったんです、しょうがないですよ。私達は元々なんとも思っていなくって、嬉しい気持ちしかありません。ね、水前寺くん」
「ええ、誰でもそうなりますよ。ですから、喜びだけしかありません。裕介さんも奈々子さんの春斗さんも、全員の願いが叶ってよかったです」

 謝りたいと会いたい。会いたい。会いたい。
 みんなの望みが実現して、とにかくよかった。

「穂波さんと澄香ちゃんも、私達に力を貸してくれてありがとうございました」
「ありがとうございました」
「お役に立てて、何よりです」
「なにより、ですー」
「それと――。美緒ちゃんも、ありがとうね」
「美緒さん、ありがとうございました」

 あの時美緒ちゃんが私達の前に現れてくれなかったら、穂波さんと澄香ちゃんに頼めなかった。
 力を貸してくれたおかげで、みんな笑顔になれたよ。

「皆さんに、お礼をさせていただきたいです。今は何も思い付いていませんが、いつか必ず今回のお礼を――」
「ねえママっ、『ボーノ』に行こうよ!! お姉ちゃん達に食べてもらおうよっ、パパが大好きだったオムライスっ!」
「ああ、ボーノね! ……裕介くんが昔から好きなお料理があって、そのお店が市内にあるんです。夕食はまだでしょうし、ご馳走させていただけませんか?」
「そういうことなら、ご馳走になります」
「是非、ご一緒させてください」

 こういったお誘いはもらっておきたいし、私達にとっても特別になった人が好きな食べ物を食べてみたいし、ボーノさんはあの時水前寺くんが教えてくれたお店。
 行きたい理由がいくつもあって、私達は迷わず頷いたのでした。

「運転してくださった水前寺くんのお母様と、穂波さんと澄香ちゃんも来てもらえると嬉しいです」
「喜んで」
「よろこんでー!」

 なので全員で、オムライスが美味しい隠れた名店を目指して――

「市川さん。ちょっとだけ、二人きりでお話しをさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ。先に出らせてもらおっか」

 ――卵ふわふわトロトロの、噂以上にほっぺたが落ちちゃうデミグラスソースのオムライスを食べたあと。私達は一足先に、お店の外へと出たのでした。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

霊能探偵レイレイ

月狂 紫乃/月狂 四郎
児童書・童話
【完結済】 幽霊が見える女子中学生の篠崎怜。クラスメイトの三橋零と一緒に、身の回りで起こる幽霊事件を解決していく話です。 ※最後の方にあるオチは非常に重要な部分です。このオチの内容は他の読者から楽しみを奪わないためにも、絶対に未読の人に教えないで下さい。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】 旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。 そこには『誰か』が不思議な花を配っている。 真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。 一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。 『あなたにこの花をあげるわ』 その花を受け取った後は運命の分かれ道。 幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。 「花子さん、こんにちは!」 『あら、小春。またここに来たのね』 「うん、一緒に遊ぼう!」 『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』 これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

処理中です...