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第2話 撤回の理由 フェルナン視点(2)
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「よしっ、中庭ならいいだろう! 聞いてくれ! 聴いてくれフェルナンっ! 大ニュースなのだよ!」
「父上、それはさっき聞いた。俺は早く詳細を知りたいんだよ。教えてくれ」
「うむっ、うむ! あのなっ! あのだな! 聞き逃すんじゃないぞ――うん? よく見たら、あそこでわたし達を待っているのはアンリエット嬢ではないな……? アンリエット嬢と歩いていると思っていたが……なぜ、あの令嬢といたのだ……?」
興奮のあまり、一緒にいた女はジュリーだと気が付かなかったらしい。父上は目を瞬かせたあと、眉を顰めた。
「お前は婚約している身、こんな姿を見られたら余計な憶測を生みかねん。アンリエット嬢はどこにいるのだ……? あのご令嬢には申し訳ないが、早急にアンリエット嬢のもとに向かうのだ」
「父上、それはできないよ。なぜならアンリエットはもう敷地内にはいないし、すでに俺達はそういった関係ではなくなっているのだからね」
「…………は? いない……? そういった関係ではない……? なにを言っているんだ……?」
「父上は心配性で、この件に反対をするだろうから黙っていたんだ。実はね――」
あそこで待機させているジュリーと手を組み、アンリエットとの婚約を破棄したこと。
今の狙いはマリアで、マリアと婚約をすればより大きな利益を手に出来ること。
もちろんマリアを落とせる仕込みはしてあって、すぐに動くつもりであること。
それらを伝えた。
「………………は、ははははははは。婚約破棄だって? フェルナン、タチの悪いジョークはやめてくれ」
「ジョークじゃない、事実さ。あの場にいた全員が証人さ」
「な……。な…………」
「この理由なら明確な証拠がなくとも、婚約の際に結んだ『どちらかに問題が発覚した際は婚約を白紙に出来る』を満たすだろう? ……父上、今言ったようにこれはメリットしかない決断だよ。しかもちゃんと、『保険』を用意した上で婚約破棄を宣告している。なにが起きたとしても、こちらにマイナス要素が降りかかることはない――」
「おっ、お前はなんてことをしてくれたんだ!! 最悪だ! 最悪の事態が起きた!!」
父上は突然頭を抱え、その後も狂ったように『最悪だ』を高速で繰り返すようになった。
??? ノーリスクハイリターンだと説明したのに、なにを狼狽えているんだ……?
「いっ、いいか! よく聞けよ!! よく聞くんだぞフェルナン!!」
「あ、ああ。分かった。いったい、何が最悪なんだ?」
そう問いかけると、父上は顔を歪めながら頭を掻きむしって――
「国内ではアロメリス家の所有する山でのみ採れる『アレーナ茸』がっ、今朝隣国で発表された件の特効薬の材料の一つだったんだよ! これからあのキノコは金塊並みの価値を持つようになるんだよっっ! お前が婚約破棄をしなければっ、契約によって宝物の中の宝物を俺達の商会が取り扱えるようになっていたんだよっ!!」
――信じられないことを、言い放ったのだった……。
「父上、それはさっき聞いた。俺は早く詳細を知りたいんだよ。教えてくれ」
「うむっ、うむ! あのなっ! あのだな! 聞き逃すんじゃないぞ――うん? よく見たら、あそこでわたし達を待っているのはアンリエット嬢ではないな……? アンリエット嬢と歩いていると思っていたが……なぜ、あの令嬢といたのだ……?」
興奮のあまり、一緒にいた女はジュリーだと気が付かなかったらしい。父上は目を瞬かせたあと、眉を顰めた。
「お前は婚約している身、こんな姿を見られたら余計な憶測を生みかねん。アンリエット嬢はどこにいるのだ……? あのご令嬢には申し訳ないが、早急にアンリエット嬢のもとに向かうのだ」
「父上、それはできないよ。なぜならアンリエットはもう敷地内にはいないし、すでに俺達はそういった関係ではなくなっているのだからね」
「…………は? いない……? そういった関係ではない……? なにを言っているんだ……?」
「父上は心配性で、この件に反対をするだろうから黙っていたんだ。実はね――」
あそこで待機させているジュリーと手を組み、アンリエットとの婚約を破棄したこと。
今の狙いはマリアで、マリアと婚約をすればより大きな利益を手に出来ること。
もちろんマリアを落とせる仕込みはしてあって、すぐに動くつもりであること。
それらを伝えた。
「………………は、ははははははは。婚約破棄だって? フェルナン、タチの悪いジョークはやめてくれ」
「ジョークじゃない、事実さ。あの場にいた全員が証人さ」
「な……。な…………」
「この理由なら明確な証拠がなくとも、婚約の際に結んだ『どちらかに問題が発覚した際は婚約を白紙に出来る』を満たすだろう? ……父上、今言ったようにこれはメリットしかない決断だよ。しかもちゃんと、『保険』を用意した上で婚約破棄を宣告している。なにが起きたとしても、こちらにマイナス要素が降りかかることはない――」
「おっ、お前はなんてことをしてくれたんだ!! 最悪だ! 最悪の事態が起きた!!」
父上は突然頭を抱え、その後も狂ったように『最悪だ』を高速で繰り返すようになった。
??? ノーリスクハイリターンだと説明したのに、なにを狼狽えているんだ……?
「いっ、いいか! よく聞けよ!! よく聞くんだぞフェルナン!!」
「あ、ああ。分かった。いったい、何が最悪なんだ?」
そう問いかけると、父上は顔を歪めながら頭を掻きむしって――
「国内ではアロメリス家の所有する山でのみ採れる『アレーナ茸』がっ、今朝隣国で発表された件の特効薬の材料の一つだったんだよ! これからあのキノコは金塊並みの価値を持つようになるんだよっっ! お前が婚約破棄をしなければっ、契約によって宝物の中の宝物を俺達の商会が取り扱えるようになっていたんだよっ!!」
――信じられないことを、言い放ったのだった……。
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