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プロローグ(2)
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「へくたー、さま……っ。ちが……っ。わたしは……っ。ちがい、ます……っ。そんな、ことは……っ。行っていませ――」
「いいやしている。残念だったなサラ、その証拠はちゃんとあるんだよ」
校舎裏に呼び出し脅していた姿を、9人の生徒が目撃している――。一部が破られた教科書から、サラの指紋が検出されている――。などなど。サラがようやく振り絞っていた声をかき消し、ヘクターは計5つにも及ぶ証拠を次々と提示したのでした。
「……僕達は半年間友人として関係を深め、1年半恋人として仲を深め、1年間婚約者として愛を育んできた。ずっと君を愛していて、どうしてもオドレイ・フレアンラの主張を信じられなかった。だから水面下で、徹底的に調べたんだ」
野次馬の最前にて胸の前で手を組み、プルプルと不安そうに震える子リスのような小柄な少女――オドレイへと視線を向け、再びサラへと戻します。
「だがその結果僕はいくつもの証拠を手にすることとなり、自身の認識は間違っていたのだと痛感した。……サラ、君にはガッカリだよ。まさかこんなにも、醜い女だったとはね」
「っ! ぁ、ひぅ……っ。ぁ、ぁぁぁ……。ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
冷たい声と、呆れ切った冷めた表情。それを見て聞いたサラは、大粒の涙を流しながら崩れ落ちてしまいます。
――違う――。
――違います――。
――そちらは間違いです――。
そう叫びたい気持ちが、ありました。
――何もしていないのに、証拠があるなんて――。
――ヘクター様の鼻が、時々ぴくぴく動いている――。
――これは、嘘をつかれている時の癖――。
――ヘクター様は捏造している――。
そう理解をしていて、なんとかしなければという気持もありました。
けれど――
――裏切られた――。
サラは、それがとにかく辛かった。
始まりこそヘクターからでしたが、今ではすっかり唯一無二の存在となっていました。そんな最愛の人からこんな行為を受けたため、大量の悲しみが押し寄せ何もできなくなってしまったのです。
「はぁ。どうにもならないと悟ったら、泣き落としを始めるのか。悪女らしい考えだ」
「ぁ、ぅぅ……。ひぅ……っ。ぁぁ……。ぁぁぁ、ぁぁぁぁぁぁ……」
「だがそんなものは、もう通用しない。お前はこれから罪に問われる――と、言いたいところだが――。よかったな、お前は運がいい」
崩れ落ち絶望していたサラを見下ろしていたヘクターは、再びオドレイを一瞥しました。
「彼女はお前と違い、本当に心優しき人間。治安局沙汰になるとお前の将来が完全に崩壊してしまうからと、不問に付すと言ってくれている」
『『『『『まぁ……! なんてお優しい……!』』』』』
『『『『『流石オドレイ様ですわ……!』』』』』
「だから僕が行うのは、婚約破棄のみだ。……サラ。彼女の優しさを、無駄にするんじゃないぞ」
外野による感嘆のため息を聞き終えたヘクターは改めて厳しく睨みつけ、踵を返します。そうして、淡々とその場を去ろうとした――その時でした。
「お待ちくださいまし。わたくし、今のお話は納得できませんわ」
強く弾いたヴァイオリンの高音を想起させる、少しばかりキツめに感じる声音。そんな声が、不意に響き渡ったのでした。
「いいやしている。残念だったなサラ、その証拠はちゃんとあるんだよ」
校舎裏に呼び出し脅していた姿を、9人の生徒が目撃している――。一部が破られた教科書から、サラの指紋が検出されている――。などなど。サラがようやく振り絞っていた声をかき消し、ヘクターは計5つにも及ぶ証拠を次々と提示したのでした。
「……僕達は半年間友人として関係を深め、1年半恋人として仲を深め、1年間婚約者として愛を育んできた。ずっと君を愛していて、どうしてもオドレイ・フレアンラの主張を信じられなかった。だから水面下で、徹底的に調べたんだ」
野次馬の最前にて胸の前で手を組み、プルプルと不安そうに震える子リスのような小柄な少女――オドレイへと視線を向け、再びサラへと戻します。
「だがその結果僕はいくつもの証拠を手にすることとなり、自身の認識は間違っていたのだと痛感した。……サラ、君にはガッカリだよ。まさかこんなにも、醜い女だったとはね」
「っ! ぁ、ひぅ……っ。ぁ、ぁぁぁ……。ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
冷たい声と、呆れ切った冷めた表情。それを見て聞いたサラは、大粒の涙を流しながら崩れ落ちてしまいます。
――違う――。
――違います――。
――そちらは間違いです――。
そう叫びたい気持ちが、ありました。
――何もしていないのに、証拠があるなんて――。
――ヘクター様の鼻が、時々ぴくぴく動いている――。
――これは、嘘をつかれている時の癖――。
――ヘクター様は捏造している――。
そう理解をしていて、なんとかしなければという気持もありました。
けれど――
――裏切られた――。
サラは、それがとにかく辛かった。
始まりこそヘクターからでしたが、今ではすっかり唯一無二の存在となっていました。そんな最愛の人からこんな行為を受けたため、大量の悲しみが押し寄せ何もできなくなってしまったのです。
「はぁ。どうにもならないと悟ったら、泣き落としを始めるのか。悪女らしい考えだ」
「ぁ、ぅぅ……。ひぅ……っ。ぁぁ……。ぁぁぁ、ぁぁぁぁぁぁ……」
「だがそんなものは、もう通用しない。お前はこれから罪に問われる――と、言いたいところだが――。よかったな、お前は運がいい」
崩れ落ち絶望していたサラを見下ろしていたヘクターは、再びオドレイを一瞥しました。
「彼女はお前と違い、本当に心優しき人間。治安局沙汰になるとお前の将来が完全に崩壊してしまうからと、不問に付すと言ってくれている」
『『『『『まぁ……! なんてお優しい……!』』』』』
『『『『『流石オドレイ様ですわ……!』』』』』
「だから僕が行うのは、婚約破棄のみだ。……サラ。彼女の優しさを、無駄にするんじゃないぞ」
外野による感嘆のため息を聞き終えたヘクターは改めて厳しく睨みつけ、踵を返します。そうして、淡々とその場を去ろうとした――その時でした。
「お待ちくださいまし。わたくし、今のお話は納得できませんわ」
強く弾いたヴァイオリンの高音を想起させる、少しばかりキツめに感じる声音。そんな声が、不意に響き渡ったのでした。
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