悪役?令嬢の矜持

柚木ゆず

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第2話 来訪と理由と(1)

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「……。アントニン学院長による質疑応答が、よい方向に働いたみたいですわね」

 この学院では1回生は2人1部屋、2回生と3回生は個室を与えられるようになっています。そのため312号室では現在2人の令嬢が椅子に座って向かい合っており、片方の令嬢――アリーヌは、正面にいるサラの顔を改めて眺めました。
 犯人が特定されるまでは全員が潔白とされるため、アントニンはサラに対して慰めの言葉などもかけました。それによって中庭ではあのようになっていたサラでしたが、その出来事と3時間以上が経過してたことにより、すっかり落ち着きを取り戻していました。

「はい、アリーヌ様。時間はかかってしまいましたが……。どうにか、普段通りに精神状態を取り戻すことができました」
「そう、それはよかったですわ。なら――」

 小さく頷いていたアリーヌは、窓がある右方向を――男子生徒用の寮が建つ方向を一瞥しました。

「ヘクター・ダッスバールムによって受けたショックは、ほぼ抜けている。問題なく思考を巡らせるようになっている、と受け取ってよろしいんですのね? それと、もう一つ。ヘクターに未練を抱いては、いませんわよね?」
「は、はい。ちゃんと頭を使うことはできますし、ヘクター様に未練を抱いてはおりません」

 サラはヘクターを、誰よりも愛していました。ですがああして嘘を吐かれたこと、オドレイと口裏を合わせていたこと――心変わりをしていたことにより、その好意は全て涙と共に体外へと流れ出ていたのです。

「それを聞けて、安心しましたわ。でしたら早速、本題に――入りたいところだけれど、その前に伝えておいた方がよさそうですわね」

 ――中庭でボロボロになっていた時、割って入ってきてくれたお礼を伝えたい――。
 ――自分にできることであれば、なんでも恩返しをさせていただきたい――。

 312号室に入室した時からサラには、そういった思いが表れていました。そこでアリーヌは短く息を吐き、静かに首を左右に振りました。

「サラ様、それらは不要。わたくしへの感謝も恩返しも、一切必要ありませんわ。だって貴女にそうされるようなことを、してはいないんですもの」
「そっ、そんなことはございませんっ! アリーヌ様はあのように――」
「ええ、中庭ではあのように動きましたわね。けれどそれは、貴女のために動いたのではありませんのよ」

 おもわず身を乗り出したサラに向け、再度首を左右に振ったアリーヌ。彼女は膝に置いていた左手を自身の胸元に当て、このように言葉を紡いだのでした。


「あのようにしたのは、わたくし自身のため。そうしなければわたくしが望む状況ではなくなってしまうから、行動を起こしただけですのよ」

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