悪役?令嬢の矜持

柚木ゆず

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第8話 312号室でアリーヌが行うこと

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「サラ様。予定を少しばかり変更しますわ」

 深夜0時過ぎ、消灯時間が1時間ほど過ぎた頃。あの日のように向かい合って椅子に座っていたアリーヌは、にやりと不気味な笑みを浮かべました。

「あ、アリーヌ様……? なにか、おありだったのでしょうか……?」
「ええ、とっても愉快なことがありましたわ。ヘクター・ダッスバールムは、わたくしの逆鱗に触れてくれましたのよ」


 ――普通に勉強しただけでは、あんな点数を取れるはずがありません――。
 ――きっとサラは、カンニングなどをしたに違いありません――。
 ――アイツならやりかねません――。
 ――これまではともかくとして、今回の2位は実力外の結果ですよ――。
 ――今回の真の1位は、アリーヌ様ですよ――。


 ヘクターはネックレスを手渡していた際に、このようなことを告げていました。そしてアリーヌは、その言葉が許せなかったのです。

「サラ・ローティシアルは、そんな愚かしい真似をする人間じゃない。それは指をみれば明白。タコの大きさが、血のにじむような努力を物語っていますわ」
「…………アリーヌ様は、そのような理由で怒ってくださっていたのですね……。いたみいり――」
「勘違いしないでくださいまし。貴女のために怒ってはいませんわ。わたくしは、ライバルを軽視されたということに対して怒っているのですわ」

 それらは自分を持ち上げるためのものでもありましたが、ヘクターは実際にカンニングだと思っていました。
 アリーヌはとにかく理不尽に相手を下げるという行為が嫌いで、今回は更に根も葉もないものがくっついています。そのため余計に怒りが増し、計画の一部変更を決めたのでした。

「当初の予定では誘いに乗ったフリをして証拠を掴み、最後の最後で真実を披露。大勢の前で狼狽させ絶望を刻んであげようと思っていたのだけれど、そちらは生ぬるい。だから――」

 アリーヌは今日までに考えていた『オプション』を伝え、そうすればサラはたまらず息を呑みました。

「わたしが知らない間に、そのようなことをなされていたのですね……。そ、そうなれば……」
「ええ。ヘクターもオドレイも、大変なことになってしまいますわね」

 クスリ。サラの唖然に対してアリーヌは口元を緩め、

「けれど自分達が蒔いた種なのだから、仕方ありませんわ。サラ様、明日の夕方をお楽しみに」

 まるで悪役令嬢のような腹黒い笑みを返し、鼻歌まじりで312号室を去ったのでした。

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