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第9話 決行(5)
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「…………あら? 貴女……」
ヘクターが崩れ落ちて頭を抱え、より激しい眩暈を覚えていた時でした。アリーヌの視線が、ふいに左方向へと向きました。
そして彼女は、
「うむ? アリーヌ君、どうしたのじゃ?」
「彼がこのようになった直後に、視界の隅でオドレイ様が安堵したように見えました。きっとそれは間違いではなくて…………。オドレイ様」
「はっ、はぃい。ど、どうなさいましたか?」
「貴女、もしかして……。嫌々、彼に従っていたのではありませんの?」
その場にいる全員が予想だにしなかったことを、口にしたのでした。
「貴女達は彼が領地に戻っている際にあったパーティーで知り合い、そこでの出来事を切っ掛けとして相思相愛になった。協力を持ち掛けられた際にそう聞かされ、わたくしはそうなのだと思い込んでいましたわ」
「……は、はぃ……」
「けれど貴女は企みが露見し『終わった』途端、確かにホッとした。皆様、そちらは共犯とはとても思えない反応ですわよね?」
『え、ええ』
『は、はい』
『そうだと、思います』
実際にそちらは、不自然なリアクションです。そのため312号室の前に集まっていた生徒たちは、一様に肯定をしました。
「ということは、完全なる共犯ではないということになりますわ。大方パーティーで一方的に一目惚れをされて、興味がなかったものの家の力の関係などで交際を断れなかった。同上の理由で、婚約破棄と交際開始のための捏造計画への加担を断れなかった。そちらは、わたくしの考えすぎなのかしら?」
「……………………」
「オドレイ様、現在彼はこの有様。廃嫡が確定していて、貴女や貴女のお家を困らせるような力を持ち合わせてはいませんわ。正直に、ありのままを吐き出してもいいんですのよ?」
「……………………」
「オドレイ様。イエス、ノー、どちらなのかしら?」
アリーヌは品よく首を右へと傾け、そんな彼女の傍では――
((言うんだっ! イエスと言うんだオドレイ!!))
愕然となっていたヘクターが、心の中で叫び声をあげていました。
((オドレイっ! 君だけでも助かってくれ!!))
二人は相思相愛で、最初は協力に難色を示したものの、『幸せのためなので、頑張ります』とオドレイは頷いていました。ですがそれを知っているのはヘクターだけで、運よくアリーヌが誤解をしてくれた。
なので彼は愛する人だけでも助かって欲しいと願い、そう訴えていたのでした。
((オドレイっ、気にしなくていいっ! それが僕の幸せなんだ!! さあっ、遠慮なく言っててくれ!!))
「……………………い、イエス、です」
((っっ! やった!! そうっ、それでいいんだよオドレイっ!! よかった、よかった……!!))
そうして無事最愛の人が希望通りの回答を行い、ヘクターは心の中で快哉を叫びます。
ですが――彼はまだ、知る由もありません。
その喜びはまもなく、全てが消え去ってしまうということを――。
※次のお話は、オドレイ中心の視点となります。
ヘクターが崩れ落ちて頭を抱え、より激しい眩暈を覚えていた時でした。アリーヌの視線が、ふいに左方向へと向きました。
そして彼女は、
「うむ? アリーヌ君、どうしたのじゃ?」
「彼がこのようになった直後に、視界の隅でオドレイ様が安堵したように見えました。きっとそれは間違いではなくて…………。オドレイ様」
「はっ、はぃい。ど、どうなさいましたか?」
「貴女、もしかして……。嫌々、彼に従っていたのではありませんの?」
その場にいる全員が予想だにしなかったことを、口にしたのでした。
「貴女達は彼が領地に戻っている際にあったパーティーで知り合い、そこでの出来事を切っ掛けとして相思相愛になった。協力を持ち掛けられた際にそう聞かされ、わたくしはそうなのだと思い込んでいましたわ」
「……は、はぃ……」
「けれど貴女は企みが露見し『終わった』途端、確かにホッとした。皆様、そちらは共犯とはとても思えない反応ですわよね?」
『え、ええ』
『は、はい』
『そうだと、思います』
実際にそちらは、不自然なリアクションです。そのため312号室の前に集まっていた生徒たちは、一様に肯定をしました。
「ということは、完全なる共犯ではないということになりますわ。大方パーティーで一方的に一目惚れをされて、興味がなかったものの家の力の関係などで交際を断れなかった。同上の理由で、婚約破棄と交際開始のための捏造計画への加担を断れなかった。そちらは、わたくしの考えすぎなのかしら?」
「……………………」
「オドレイ様、現在彼はこの有様。廃嫡が確定していて、貴女や貴女のお家を困らせるような力を持ち合わせてはいませんわ。正直に、ありのままを吐き出してもいいんですのよ?」
「……………………」
「オドレイ様。イエス、ノー、どちらなのかしら?」
アリーヌは品よく首を右へと傾け、そんな彼女の傍では――
((言うんだっ! イエスと言うんだオドレイ!!))
愕然となっていたヘクターが、心の中で叫び声をあげていました。
((オドレイっ! 君だけでも助かってくれ!!))
二人は相思相愛で、最初は協力に難色を示したものの、『幸せのためなので、頑張ります』とオドレイは頷いていました。ですがそれを知っているのはヘクターだけで、運よくアリーヌが誤解をしてくれた。
なので彼は愛する人だけでも助かって欲しいと願い、そう訴えていたのでした。
((オドレイっ、気にしなくていいっ! それが僕の幸せなんだ!! さあっ、遠慮なく言っててくれ!!))
「……………………い、イエス、です」
((っっ! やった!! そうっ、それでいいんだよオドレイっ!! よかった、よかった……!!))
そうして無事最愛の人が希望通りの回答を行い、ヘクターは心の中で快哉を叫びます。
ですが――彼はまだ、知る由もありません。
その喜びはまもなく、全てが消え去ってしまうということを――。
※次のお話は、オドレイ中心の視点となります。
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認証不要とのことでしたので感想欄には公開しておりませんが、誤字を指摘していただきありがとうございます。注意深く見直しているつもりですがどうしても見落としはあるようで、本当に助かっております。
この場で感謝申し上げます。
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