悪役？令嬢の矜持

第11話 だって、わたくしの逆鱗に触れたんですもの（３）

「…………おどれい……？　え……？　え…………？」

　いつもオドオドしていてフワフワしている最愛の人が、目を吊り上げ怒声をあげながら暴力を振るってきた。そのあまりにも予想外な光景と出来事によって、ヘクターは間抜けに目を丸くしていました。

「オドレイが叫んで、殴る……？　これは、ゆめ、か……？」
「夢だったら幸せよ最高よ!!　せっかく上手くいっていたのにっ、アンタのせいで台無しよ!!　この役立たず!!」

　ヘクターだけではなくオーディエンス全員も唖然となっていますが、そんなものは一切関係がありません。
　安堵した直後に状況が一変し、最後の最後で台無しになってしまった。それによってオドレイの怒りは爆発しており、言動はさらにヒートアップしてゆきます。

「アンタが余計なコトを口走ったせいで私も共犯になったじゃないのよ!!　分かる!?　一生が台無しになったのよ!?　分かってるの!?」
「お、おどれい……。おどれい…………」
「オドレイオドレイうるさい!!　アンタは壊れたレコードなの!?」

　バチン！　再び頬をはたいて口を閉じさせ、下品に地団太を踏みます。

「せっかく貴族の生まれてある程度人生が保証されていたのにあっという間に崩壊した!!　最悪よっ！　最低よっ!!」
「……………………」
「サラを蹴落とせないどころか、私の方が全部失う羽目になるだなんて!!　こんなコトならアンタに近づかなければよかったわ!!」
「…………さらを、けおとす……。こんな、ことなら……。ま、まさか……。まさか…………」

　嘘だろ？　嘘だよな？　そんなはずはないよな――。ヘクターは声と体を震わせながら、考えすぎであってくれと懇願しながらオドレイを見つめ――

「そうよ！　そのまさかよ!!　私がアンタに近づいたのは、サラを首位から引き摺り下ろすためよ!!」

　――ついに、最愛の人の本心を知ってしまったのでした。