前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず

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第5話 翌日~旅行をしましょう~ エレーヌ視点(1)

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「エレーヌ。昨日(きのう)、メギテイズ侯爵邸から帰ってくる際に――馬車の中で、やりたいことがあると言っていただろう?」
「言語を覚えた国のどこかへ、ゆったり旅行をしたいと思っている。そう、話していたんですってね?」

 前世の記憶が覚醒してから、2日後――婚約者候補を辞退した、その翌日のことでした。中庭で3年ぶりにイレブンシズを満喫していたら、お二人がニコニコしながらいらっしゃりました。

「はい、お父様お母様。私は昨日(さくじつ)、そのように口にいたしました」

 一昨日までタイトなスケジュールを組んでいて、私的な外出は3年間で一度もありませんでした。
 そのため様々な景色をのんびりと眺めて、色々な美味しいものをたくさん食べたいと思うようになっていて。コレット様やエステル様にお返事を行ったあと、それをお父様にもお伝えしていたのです。

「そうだよな? ふっふっふっふっふ」「そうよね? うふふふふふふ」
「? ?? お、お父様、お母様? どうなされたのですか?」
「…………エレーヌ。実はな……」「…………エレーヌ。実はね……」
「は、はい。なん、でしょうか……?」
「そんなお前にピッタリの場所を、ピックアップしてみたのだよっ! さあこれを見てみてくれっ!」「そんな貴方にピッタリな場所を、ピックアップしてみたのよっ! さあこちらを見て頂戴っ!」

 なぜかずっと両手を背後に回していて、更には突然俯かれてしまったお父様とお母様。そんなお二人の下がっていたお顔が勢いよく上がると、ガーデンテーブルにはたくさんの資料が積まれました。

「え、えっ? ええっ⁉」
「ずっと張り詰めていたエレーヌが、ようやく自分のために時間を使うと言ってくれたのだ! ならば精一杯サポートするしかないだろうっ!」
「昨日の夕方と今日の早朝、わたしたちは外出していたでしょう? ごめんなさいね、エレーヌ。あの時に伝えた理由はどれも嘘で、よさげな場所の情報をこっそり集めていたのよっ!」

 急に、知人夫婦にディナーを共にしたいと言われた。確認しておきたいことができて、明日は早くから昼前まで出かけるようになった。
 前の日に、そのように仰られていましたが……。お父様とお母様は、私のために動いてくださっていたみたいです。

「…………マイクお父様。ミリアお母様。ありがとうございます。私は今、とても…………幸せです」
「はっはっはっはっ! 喜んでくれて何よりだっ! ではさっそくっ!」
「ええっ。みんなで一緒に、目的地を決めましょっ!」

 お二人はずっと――3年間いつも、私を心配してくださっていました。ですので今の状況であり私の選択を、とても――こちらの想像以上に、喜んでくださっていて……。
 お顔をほころばせながら私の両サイドに椅子を置き、テキパキと目の前に資料を並べてくださいました。

「…………はい……っ。一緒に、目的地を決めましょうっ」

 ですので私は右と左に微笑みをお返しして、どっさりと並ぶ資料を仲良く眺め始めたのでした。


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