幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね

柚木ゆず

文字の大きさ
15 / 50

第7話 逆監視3日目 監視スタート (1)

しおりを挟む
《でっ、殿下! 殿下の御髪が……っ》
《クオスよ、俺の髪がどうした? 何を驚いているん――なっ!? なんだこれは!?》

 午後の、2時9分17秒。王宮内で外出の支度をしていたアークス殿下は、映鏡の中で目を見張りました。
 その理由は勿論、髪に変化が起きたから。丸3日目の突入を切っ掛けにしてジワジワと髪の毛が伸び始めたため、両手で頭髪を抑えながら狼狽えます。

《髪が伸びるっ!! 止まらないっ!? どうなっているんだ!?》
《わ、わたしくしにも見当がつきませんっ! とっ、とりあえず医者を呼んでまいりますっっ!!》
《そうしてくれ! 早くっ!! 早く連れてこいっっ!!》

 殿下は半狂乱状態で叫び、今なお成長を続ける髪の毛に怯えながら到着を待ちます。そして3~4分程度で部屋の扉が開き、痩せ型の男性――だけではなく、毛むくじゃらになった4人の男女が駆け込んできました。
 この4人は、殿下の家族。国王様と妃殿下、第2王子のヴァン様と第3王子のロイ様です。

《んなっ!? お前達もなのかっ!?》
《そうなのっ! しかも僕らだけっ! 王宮で僕らだけがなってるんだよ!!》
《恐らく全員が同じタイミングで起き始めたっ! 医者もこんな事態は初めてだそうだっっ!! 手の打ちようがないようなのだっっ!!》
《兄上どうすればよいのでしょうかっ!? こっ、このまま伸び続けてしまうのでしょうかっ!?》
《いやっ!! いやぁっ!! あたしの髪が……っ! いやあああああああああああああ!!》

 パニックが共鳴し合い、5人の精神状態は更に悪化。おのおのがジタバタと手足を動かし、絶叫を繰り返します。

《ぁぁぁぁぁ……っ!! ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っっ!?》
《原因はなんだ!? エリーナあの女のせいなのか!? 食べた物のせいか!?》
《怖いよ兄さんっ!! 助けてっ!! 助けてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!》
《前髪がっ! 床まで伸びましたっっ!! 後ろ髪もっ!! とっ、止まれっ! 止まってくださいよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!》
《なんであたし達がこんな目に!? ぃぁあぁあああああああああああああああ……!!》

 国王様は蹲り、殿下は頭を掻きむしり、ロイ様は殿下に縋りつき、ヴァン様は髪の毛を掴んで懇願し、妃殿下は天井を仰いで奇声を発します。
 ですがどんなに叫んでも嘆いても、髪の毛は同情してはくれません。無慈悲に伸びてゆき、その長さは2メートルを超えてしまいました。

「体毛の変化は、想像以上っス。こんなになっちゃうんスねぇ」

 お隣で映鏡を見上げていたラズフ様は、「知ってても驚きっスよ」と苦笑いをしました。
 そうですね。私も覚醒した際に知識が宿ってはいますが、実物を見ると衝撃が大きいです。

「髪が伸びてるだけなのに、かなりのインパクトっス。何事も、程ほどがいいっスねえ」
「はい。多すぎず少なすぎずが一番です」

《《《》》》

「そんな話をしてる間に、多分2メートル50センチを超えたっスね。ミウヴァ様、これってどのくらいまで伸びるんスか?」
「もうそろそろ、止まるはずです。そしてその瞬間、新たな恐怖が始まりますよ」

 丁度言い終わった直後に、髪の毛の成長が止まりました。
 殿下達はホッとしていますが、これは『その1』の終わりです。すぐに、『その2』が幕を開けますよ?


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。 ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。 そこで私は重要な事に気が付いた。 私は聖女ではなく、錬金術師であった。 悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!

「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。 しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。 その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。 一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。

【完結】聖女レイチェルは国外追放されて植物たちと仲良く辺境地でサバイバル生活します〜あれ、いつのまにかみんな集まってきた。あの国は大丈夫かな

よどら文鳥
恋愛
「元聖女レイチェルは国外追放と処す」  国王陛下は私のことを天気を操る聖女だと誤解していた。  私レイチェルは植物と対話したり、植物を元気にさせたりする力を持っている。  誤解を解こうとしたが、陛下は話すら聞こうとしてくれない。  聖女としての報酬も微々たる額だし、王都にいてもつまらない。  この際、国外追放されたほうが楽しそうだ。  私はなにもない辺境地に来て、のんびりと暮らしはじめた。  生きていくのに精一杯かと思っていたが、どういうわけか王都で仲良しだった植物たちが来てくれて、徐々に辺境地が賑やかになって豊かになっていく。  楽しい毎日を送れていて、私は幸せになっていく。  ところで、王都から植物たちがみんなこっちに来ちゃったけど、あの国は大丈夫かな……。 【注意】 ※この世界では植物が動きまわります ※植物のキャラが多すぎるので、会話の前『』に名前が書かれる場合があります ※文章がご都合主義の作品です ※今回は1話ごと、普段投稿しているよりも短めにしてあります。

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。 行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。 たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。 ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました

冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。 代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。 クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。 それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。 そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。 幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。 さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。 絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。 そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。 エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。

処理中です...