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第6話 逆監視3日目 監視前 朝

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「ミウヴァ様、おはようごじゃいますっス。こちら、召し上がってくらさいっスよっ!」

 翌朝の、7時前のことでした。指定された食堂でお待ちしていたら、テーブルの上にバスケットが置かれました。
 その中にあるのは………………わぁっ。ブリオッシュです。

「これね、これはね、俺が作ったれすよ。ΨΠΓΞΨρД〇§Δ」
「ら、ラズフ様? 後半は、なんと仰ったのですか……? それに、お体は大丈夫なのですか……?」
「今日も睡眠不足で、今日は移動中に寝れるんでノープロブレムっス。気合を入れるんで待ってくださいっスっ」

 ラズフ様は両頬をパチンと叩き、手を洗いに行こうとして、止めます。回れ右をしていた彼は向き直り、頭を下げたあとパチパチと手を叩き始めました。
 ??? これは……?

「こないだのクッキー、ありがとうございますっス。そんでもって、お誕生日おめでとうございますっスっ! お礼とお祝いの品を、どうぞ食べてみてくださいっスよっ」
「………………………………」
「あ、あれ? ミウヴァ様? ブリオッシュ、苦手だったっスか?」
「……すみません、違うんです。エリーナとしてこういうものを頂くのは10年ぶりでして、ビックリと嬉しさで一杯になっていました」

 覚醒した日から私は『聖女エリーナ』で、エリーナ・ミウヴァとして何かをしてもらったことは一度もありませんでした。
 私として祝ってもらえることが……。こんなにも驚くべき事になっていて……。それは、こんなにも幸せな事だったのですね……っ。

「ありがとう、ございます、ラズフ様。いただきますね」

 お一つ摘み、パクリと食べてみます。
 ラズフ様特製のブリオッシュは…………バターと卵の風味が豊かで、滑らかしっとり。いくらでも食べられそうです。

「とっても、美味しいですよ。お世辞ではなく、今まで食べてきたどのブリオッシュよりも美味しいです」

 口に入れると、甘さ達と一緒に優しさが広がって。目を閉じると不思議な事に、ラズフ様が一生懸命作ってくださる光景が浮かび上がるんです。
 その御顔は、私を想ってくださっていて……。
 こんなにも幸せになれるブリオッシュを食べたのも、初めてです。

「ふぅ~、気に入ってもらえてホッとしてますっス。まだ14個あるんで、ドンドン食べてくださいっスよ」
「とっても美味しいので、もっと食べさせていただきます。ですが、全部私のものではありませんよ」

 バスケットから2つ取り出して、片方をラズフ様の手の平に置きます。

「あの日、貴方もしてくださいましたよね? 美味しいものは、場にいる全員で食べないとっス、ですよ」
「おっと、そうだったスね。んじゃ、2個目は一緒に食べましょうっス」
「はいっ」

 私達は笑い合って食べ始め、気が付くと2人で15個全部食べ切っていました。
 いつもは体調管理に気を付けてバランスを意識するのですが、今日はその真逆です。自分が食べたいように食べて、笑って、とっても素敵な朝ご飯の時間となりました。




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